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波平さんが出てきて聞き耳した話

電車で移動中、隣の席から波平さんについて話す声が聞こえてきた。会社員と思しき20代風の男女ふたりで、女性の話を男性が聞いてあげている感じだった。

思わず耳だんぼする。
女性がなにかの研修を受けたという。
そこで波平さんをモデルにした話があったらしい。

テレビにいる波平さんは54歳で会社勤め。
60歳で定年だとするとあと6年で務めが終わる。
そのころの平均寿命は74歳。
といったトークがあったという。

「つまりね、“昭和の人”たちは定年してから10年とちょっとしか寿命がなかったっていうの」

ふむふむ。

「でもね、今は平均寿命が80歳を超えているので定年後の人生も20年以上になって、さらに100年時代になるこれからは定年後も40年生きることになる。今の子供たちの将来だと120年時代の可能性だってあるわけだから、それが50年になる、ってそんな話をされていたの」

リカレントかNISAにつなぐ話の導入部かなあ、と聞き耳冴える。

「昭和の人は、リゲインの『24時間働けますか?』っていうCMが流行るくらい、ワーク(仕事)中心で生きていたんだって。知ってる?そのコマーシャルのこと?…知らないよね。ありえないよね、24時間なんて。でも、そんな時代だったんだって」

たしかにそんな古い人はいたと思う、でも、今もそんな若い人はいると思う…が。
なんてことを思いながらも興味深い。

「でも今はワーク中心から、ライフ(生活)中心の時代に変わったって。ライフの中に趣味とか家族とかがあって、ワークもその中の一部に収まってしまったのだって」

さらに続いた

「でもさあ、いくら健康寿命が伸びたからって言ってもね、若くはないわけでしょ。体も今のようには動かないだろうし、やりたいことだって出来なくなるわけでしょ。そしたらさあ、私はそこまで長くは…」

ん?そこで話がピタッと止まった。

あれ?どうしたのかな?
・ひょっとして、周りにご年配の方がいらして気にされたのかな?
・それとも、生きたい生きたくないを軽く論じることに躊躇ったのかな?
・いやいや、まさか隣りに座って聞き耳を立ている昭和感たっぷり漂う私に気づいたかな?
とにかく話はここで途絶えた。

江戸か明治か大正の遠い遠い昔の出来事でも聞いているような妙な感覚にも陥りながら、若い人のお話を耳にした。時任三郎リゲインのCMは今も鮮明に記憶があるため、映画「メトロに乗って」や今の話題ドラマ「不適切にもほどがある!」のようなタイムスリップ感もあって楽しめた。60歳代で定年という日本固有の縛りが残ったまま人生100年時代に話が及んでいることに多少の違和感もあったけど面白かった。

波平さんを例えにした話は、ほかでも聞いた。
そのときは「なんと!昭和の波平さんと令和の福山雅治は同じ年なんです!」と驚きを誘うような激しめトークで「だから皆さん、まだまだ頑張ってください」とミドル、シルバーに向けて饒舌な話だった。

ときどき斜に構えて話を聞くような悪い癖をもつ私は、どれも「マンガじゃん!w」と思ったりもするけど、サザエさん家族を例えにするのは常套でわかりやすいのだろうなあ、とも思う。

目に映るアニメの裏側では、目に映らない生身の人間(声優)が声という息を吹き込む。サザエさんチームの場合、役者さんも年齢を重ね、70や80歳を超えてもなお、時には役の交代もあったりするが、年齢が止まったままの愉快なキャラクターの声を届けてくれる。何かのテレビで見たが、ある声優さんは収録スタジオには杖をついて到着。どこにでもいるようなご高齢者の姿だが、本番はじまると背筋をシャキッと伸ばしてマイクの前に立たれていた。そしてしっかりした声で子供のかわいい声や若い大人の愉快な声を演じられていた。収録を終えると「まだまだ私たち芝居が下手ねえ、もっと上手くならないとね」とキャスト同士で談笑され、いくつになっても芝居が好きなんだなあ、と微笑ましい光景があった。
「ライフLife」「ワークWork」の韻合わせを超えた、またリカレントもNISAも大事なことだけど、生身を楽しむいろんな在り方を知る方が、と波平さん話を聞きながら思ったことだが、世間一般的には波平さんを例えた方がいいのかもしれない。

そんな波平さんの話から思ったこと。

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