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誰かが死んでくれたおかげさま 「生物はなぜ死ぬのか」 要約・所感

おはようございます。本日は小林武彦さん著書の「生物はなぜ死ぬのか」を取り上げます。死ぬことは誰にも必ず訪れる避けられない宿命です。一方で若い世代にとっては遠く先の事、非現実的なことと捉えがちであり、日常的に深く考えることはしないのではないでしょうか。

本書は生物学学者の視点で生命の誕生から死の理由までを分かりやすく解説した内容です。本書から学んだことについてまとめていきます。


1. 奇跡の生命誕生、地球の美しさは生命の多様性

 138億年前にビッグバンが起こり宇宙が誕生したと考えられています。宇宙は膨張し続けながら広大な範囲でいたるところに恒星とそれを取り巻く惑星を作り上げました。

生命の誕生には恒星と惑星の絶妙な距離の条件が必要です。太陽と地球の距離が生む「凍るほど寒くなく燃えるほど熱くない」絶妙な環境が奇跡の土台となります。ただし、それだけでは生命は誕生しません。

地球の初期の頃はただの有機物だった塊同士が接触し、あらゆる化学反応を繰り返しているだけでした。ところがあるタイミングで自己複製が可能なモノが現れます。単細胞生物誕生のこの奇跡を「25 M プールにバラバラに分解した腕時計の部品を沈めてぐるぐるかき回していたら、自然に腕時計が完成し、しかも動き出す確率に等しい」と表現しています。

現在の地球の美しさを支えているのはまちがいなく900万種を超える多様な生き物の存在です。これは果てしなく長い時間をかけて種が生き残るために「変化と選択(ターンオーバー)」を繰り返してきた結果です。

これまでも地球は少なくとも5回の大量絶滅時代を経験しています。古い種が死ぬことが起こって新しい生物が生まれる。種の絶滅はターンオーバーには欠かせない役割です。恐竜をはじめとする多くの生き物が死んでくれたおかげで次のステージへ移ることができました。ここ100年のうちに2度の世界大戦を起こし、現在でも戦争を辞めようとしない人類ですが、自然界においては例外なく絶滅しうる種の一つに過ぎません。

 

2. ヒトの死と老化

地球上最も多様な生物は昆虫であり、昆虫は交尾の後役割が済んだと言わんばかりにバタバタと死んでいきます。また、それ以外の生物に関してもピンピンコロリが大勢を占め、死の原因は捕食され「食べられる」か「食べられない」がために餓死するかこの二つの要因で死にます。

かつて、狩猟時代のヒトは同じような要因で死んでいました。当時のヒトの寿命は13〜15歳であったと考えられています(40〜50歳のヒトももちろんいたが、大人になるまで生きられる割合が非常に低かったため)。しかし、弥生時代以降に稲作が始まると、ムラ社会が到来し、捕食されたり餓死する危険が下がり寿命が伸びていきます。

長い人類史の中でヒトが長生きになったのは極々最近のことなのです。本来、ヒトのゲノム上の寿命は55歳程度と言われています。現在の平均寿命は80歳を超えており、ヒトは進化で獲得した想定を遥かに超えて長生きになったと言えます。このようにプログラムされた寿命とは異なり、「老化」という過程を経て死ぬのは生物の中でも特異的であるといえます。

 では、老化はなぜ必要なのか。ヒトを形成する細胞に話を移します。組織を構成する細胞は常に古いものが死に破棄され、新しいものと入れ替わっていきます(これもターンオーバー)。人の細胞は分裂の限度が50回程度ということが分かっています。これがゲノム上寿命55歳の根拠の一つです。

この古くなり不要になった細胞か死んで廃棄するシステムが無くなるとどうなるでしょうか。細胞が自身のゲノムを転写して自己複製する、この時コピー能力が完璧であれば問題はありません。

当然ですが世の中に完璧はありません。中にはコピーミスによって異常な細胞が生まれることがあり、その代表格ががん細胞です。がんは放置すれば無尽蔵に分裂と転移を繰り返し、やがて生体を死に至らしめます。

人類は長い進化の過程でこの細胞老化機構と免疫機構を発達させて生き抜いてきました。矛盾しているようですがヒトは癌で死なないために老化しているのです。そう変化したから生き抜いた(選択された)とも言えます。


3. 生き物はなぜ死ぬのか

生物は激しく変化する環境の中で、存在し続けられるモノとして誕生し進化してきました。その生き残る仕組みは「変化と選択」です。変化とは文字通り変わりやすいこと、つまり多様性を確保するようにプログラムされたものであるということです。

多様性の確保に効率が良いのが「性」という仕組みです。進化は結果であり目的ではないので、有性生殖が多様性を生み出すのに有効であったから生き残れたのです。ゲノム上では親は子孫に比べて多様性では劣ります。

仮にプログラムとして老化のない種が出現したとします。親世代がいつまでも生き残っているとその種が分かち合う食料は枯渇し、結局は「食べられない」ため死んでしまうでしょう。生まれてきた以上、私たちは次の世代のために死ななければならないのです。

死は生命の連続性を支える原動力なのです。生まれるのは偶然ですが、死ぬのは必然なのです。地球全体で見れば全ての生物はターンオーバーして、生と死が繰り返されて進化し続けています。生命の美しさは期限を伴うからとも言えます。なぜ人は桜を観て心が動くのでしょうか。散る=死ぬことが生命の美しさを支えています。


これまで自分は死を非現実的で漠然と怖いものと捉えていました。次世代のため、多様性のためという考えに触れる事で死ぬことと生きることは共通する部分もあると気づかされました。死と生は表裏一体であり、死を真剣に考えることではじめて生と向き合えるとも言えるでしょう。個人的な死生観に影響を与えられた貴重な読書経験となりました。

さらに詳しく知りたい方は是非手にとって読んでみてください。


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