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わたしの半分は他人でできているらしい。 読書感想『私とは何か』平野啓一郎

*タイトル画像は、大橋ちよさんのイラスト

いきなり、読書感想でない話で恐縮ですが、「平野啓一郎」って響きも字面もすごく良いですよね。
わたしにとって同じ部類に「吉井和哉」があります。

『私とは何か』。タイトルの良さももちろん、内容も興味深かった。
生きづらいとか生きることに向いてないとか、他人の側面が気になるとか、そういうものが、とても楽になった。

想像すらできなかったほど斬新な考え方というわけではなく、これまでも多くの人がうっすら、ぼんやりと、感じたこともあったのではないかと思う。
それでも、こう明確になると、気持ちよくスッキリする。

ペルソナ、自己肯定感、明日死ぬかも、雑談力、聞く力、脳の整理、誰々が話す前に考えていること、売らずに売れる…
こう雑に書いただけでもタイトルバレだけれども、気持ちとしては、刊行された2012年に『私とは何か』を読んでたら、一冊で足りたかもしれない。

仕事やプライベートで突き当たる「そうはいっても…」という過ごしにくさ、コミュニケーションへの苦手意識について、分かりやすく説明(提案)されている。

どの章も、思わず声に出して「うううん、なるほど」と唸らずにいられない。
中でも第4章の「愛すること・死ぬこと」には、自分がこの本を読んだタイミングに不思議なものを感じずにいられなかった。

この本を読むより前。
2/24に、WOWOWで放送された「バクチク現象2023」を観た。

(もし、この話題が辛い方は、無理に読み進めずに閉じてくださいませ。)

ボーカルの訃報に触れてから一度もなかったのに、この映像で初めて、わたしは涙が出て、しばらく止まらなかった。

理由は複数あると思うが、分かりやすい理由のひとつは、櫻井敦司という歌い手の死を境に、わたしの中で世界は形を変え、しかもそれが、それ以前の形には決して戻ることがないと理解したからだった。

もう一つは、この『私とは何か』の第4章にある「死者について語ること」を読んで気がついた。

スクリーンに映し出される櫻井敦司の姿を含めて、妥協のない「バクチク現象」の構成全体に、彼に長く接し続け、彼を愛する人々が作り上げた「彼の影響」を、ありありと、あふれるほど感じたからだ。

喪失に打ちのめされる一方で、彼を愛し、同時に彼に愛された人々が作り上げた「バクチク現象2023」に希望を抱いた、ということかもしれない。

本の話に戻すと、この本は小説ではないのに、第5章の「分断を超えて」へ向かって劇的に展開していく。

いろいろ複雑で生きにくいよね、という柔らかな調子から始まって、目の前の霧がみるみる晴れるように、なぜ、人は善く生きる必要があるのか、というところまで到達していく。

一度だけ読んで終わるのは惜しいので読み返したい。
ぜひ子供にも読ませたい。10歳、まだ無理だろうか。

わたしは他の平野作品も読む気満々なのだが、先に手をつけた『日蝕』がいまだに、半分に到達していない…。

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