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チンチラのカビと弟のカビ

例のチンチラのお迎えを決めたパートナーのK氏と私は、ペットショップで売買契約を結び、2週間後に我が家へのお迎えを控えていた。
K氏は、遠足前の子供のようにお迎えの日を指折り数え、いじらしいほどその日を楽しみにしていた。

そんなある日、ペットショップから電話がかかってきた。

店員さんが「チンチラさんが真菌症にかかってしまった。治療をするためお渡しが遅れてしまう」と電話口で申し訳なさそうに言った。

「真菌症」と聞き、私はあることを思い出していた。
私には弟がいる。
昔、弟が3歳の頃、頬にカサカサした湿疹が出現したことがある。
母がその湿疹に綿棒で薬を塗り込みながら「真菌といって、小さい子がかかりやすいカビなのよ」と言っていた。
小学生の私は、緑色のカビに覆われた弟を想像し、不安に駆られたものだ。

それは取り越し苦労だったわけだが、電話を受けて、その日の記憶が蘇った。
「真菌」ということは、あのチンチラも、弟のようにカビてしまったのか。

どうやら、本来乾燥した地域に生息するチンチラは、湿度の高い地域で、カビ菌による皮膚病にかかりやすいらしい。
かかったところが乾燥し、体毛が抜けてしまう。
特に幼いチンチラはかかりやすいらしい(幼き日の弟のように)。

電話を切ってK氏にその旨を告げると、居ても立っても居られないという様子で、心配していた。
私がカビたところで大して心配しないだろうに、すっかり愛チンチラ家である(良いことだ)。

翌日、朝イチでお見舞いに行った。
ペットショップのケージを覗くと、鼻の頭が直径1.5cm程ごっそり抜けていた。
なまじ周りの毛がふさふさなだけに、一部分だけハゲている姿は衝撃的に奇妙だ。
むき出しになった皮膚が寒そうで、痒そうで、毛布でぐるぐる巻きにして、薬を塗りたいと思ったら(絶対嫌がるだろうが)。

しかし、当の本人は全く意に介さず、いつものようにこちらに寄ってきて、愛嬌を振り撒いている(その鼻っ面はハゲている)。
確か弟も、私の不安などどこ吹く風で、カビをつけた顔で、無邪気に後ろをついてきていた。

こうして、お迎えは延期となった。
まさかチンチラがカビるとは思わなかったが、冷静になれば弟もカビていたわけだし、既に治療が始まっているのなら大人しく待つだけだ。

我が家では、K氏が再びお迎えの日を指折り数えている。
なんともいじらしい姿だ。


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