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濁り、沈澱、上澄み(表)


妻は体調が悪いようだ。夜中に大量に食べ、食べたものを吐いているのを知っている。心の状態も関係しているのだろう。僕は気づかぬふりをしている。
妻は太ったり痩せたりして外見が変化していないから誰も異変に気が付かないだろう。

妻が精神科に通い薬を処方されているのも知っている。

妻の話を聞くのがいいのだろうと思うが妻とは会話が続かず、どう話せばいいのかわからない。いつのまにか、わからなくなってしまった。

平日の朝は私はとても早いから妻はまだ、寝ているし、帰りは遅いので妻は先に寝ている。起こすのも悪いし起こされるのもいやだろうということで随分前から寝室は別だ。

休日は家で食事をするが会話は続かず、お互いにおもしろい話も出来ず。視線は合うことなく、ぼんやりとした時間が流れる。自分が何も感じなければ良いのだが、なんとも気詰まりで、どんよりした空気に耐えられず、憂鬱な気分になる。

買い物に行く時に、絶対妻は来ないとわかっているが一応誘う。妻は自分は家にいると言う。
外に出てほっとする。深呼吸できる。
僕は声をかけたんだけれど、一緒に来ないのはしょうがないよな、と思う。
一人で外出し色々見て回り、ゆっくり過ごす。


陰鬱な妻がうっとおしい。
僕は妻が嫌いだ。
なんであんな女と結婚してしまったのだろう、と思ってしまうほどに。
僕は一緒にいると楽しい人と結婚したはずだったのに。
なんでだ、いつからこんなことに。

妻以外の人間には優しくできるのに、妻だけには優しくできない。
“憎んでいる”からかもしれない。
憎しみが沸くくらいだからまだ感情が残っているのだろう。
そこらに転がっている石みたいには思っていない、今はまだ。
全くの無関心ではないということだ。
そうなる手前ということか。

自分の家庭が、自分の思い描いていた理想、と程遠いから、それがショックで妻に八つ当たりをしているのだろうか…。

僕も妻もとても気に入ったこの家を買った時には幸せだった。小さいけれど庭もあり、日当たりも抜群に良い。
子供ができることを考えていたが子宝には恵まれなかった。
僕と妻と二人だけで暮らすには大きい家だと今は思う。
 
明るくて光が溢れていた家は今はくすみ、濁り、薄汚れた感じだ。
昼間、妻はこの家で一人で何を思って過ごしているのだろう。

楽しいことを拒否して生きているような妻と、この家を手放せたらどんなにいいだろう。

だけど、僕から離婚は言い出さないし、僕は毎日この家に帰って来る。もう一緒に話し合ったり笑い合ったりすることはないのに。

そうか、僕は不幸せなことを選択し、選択した責任を取っているのかもしれない。
古くなった壁紙を見てそう思った。



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