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みんなと同じもの

両親はなぜ私が幼稚園でいわゆる問題児になってしまうのか、私の子育てにとても悩んでNHK電話子育て相談も受けたりしていたことを大人になってから聞いた。幼稚園の先生に
「お母さん、お家で厳しすぎませんか?」
と言われても、こんなに自由に育ててるのに何が厳しいの?と全く意味が分からなかったとも後々聞かされた。

幼い子供は自分の家庭しか知らないから、これが当たり前だと思って育つ。私もそう思っていた。でも、今思うと私の両親はかなり厳しかったと思う。
「〇〇しなさい」とか直接的に言うのではなく、無言の圧というか、それとなく自分の思う方向に有無を言う余地なく持っていくというか、、そういうのにとても長けていたと思う。

私は幼稚園の頃何度か人の物を盗んだことがある。

一つは、幼稚園カバン。
私の通っていた幼稚園は制服と帽子だけ決まっていて、あとは自由だった。その頃はみんな四角のチャックタイプで、アニメのキャラクターやサンリオのキャラクターのカバンを斜めがけして登園していた。
私の親は、絶対にそういうのを持たせず、母の刺繍の先生が作ったマザーグースと花の刺繍がされた布製のカバンを持たされていた。

今の歳になりその頃の写真を見ると、素敵だなと思う。
でもその頃はみんなと同じようなキャラクターのビニール製のカバンが持ちたかった。

ある日、親戚の家に遊びに行った時にそのお姉ちゃんが昔に使っていたキティーちゃんの赤いチャックのカバンがあるのを見つけた。私は皆がいないのを確認して、私が持ってきていた巾着袋にそれをぎゅうぎゅうに詰め込んで持ち帰った。

歯磨き粉も盗んだことがある。
幼稚園では歯磨きの時間があったので、みんな歯ブラシとコップと歯磨き粉を園に置いていた。
みんな、その頃は甘い味の歯磨き粉だった。とても美味しかったのでみんなよくチューブからその甘い歯磨き粉をしぼりだして交換したり、歯磨き粉だけを食べたりしていた。

私はデンターライオンという普通の大人向けの歯磨き粉を持たされていた。

どうしても甘い歯磨き粉がほしくて、みんなのように舐めたくて仕方なかった。そしてある日、お友達の歯磨き袋から、いちご味の歯磨き粉を盗んで持って帰った。

こんなことが何度かある。
全て、親にすぐ見つかった。めちゃくちゃ怒られた。耳を引っ張られて市中引き回しのようなこともされた。
今私自身が親になって、もしも我が子が幼稚園でそういうことをしだしたら、めちゃくちゃ焦るだろう。きっと私の両親もそうだったと思う。
どれだけ焦って、どうしたら我が子がまともに育ってくれるかとどれだけ悩んだだろうと思う。

私は幼稚園の傘も靴も、いわゆる女の子の色ではなかった。紺色と緑のチェックの傘で、靴下は紺色、靴は焦茶色だった。
幼馴染や園のお友達は、ピンクや赤の傘や靴だった。幼稚園で、男の子に「お前のもっているのは全部男みたいや!お前は男や!」とからかわれたこともある。
それが嫌で、こんなこと言われたと母に伝えたけれど「へぇー、そんな風にしか見えない子なんかほっときなさい」で終わった。
ほうっておけるほどの肝っ玉があれば良かったけれど、幼稚園の頃の私はその自分を取り囲む世界が全てだったから、とても気にした。

私はみんなと同じようなピンクや赤の傘や靴やカバンを持ってみたかった。歯磨き粉も、甘いのが欲しかった。でも、欲しいとは絶対に言えなかった。
私が選ぶという機会はなく、全て親がすでに選んで私に与えていた。

親に自分の欲しい物を言ってはいけないとか、そこまでではなかったと思う。
例えばお店で私が可愛いなと思った物があったとする。それを母に伝える前に、私が手に取った時点で母が
「こんな安っぽい下品なもの嫌やわぁ」とすぐに言い放ってしまうので、私は母が選ぶ物以外については何も言えなくなってしまっていた。
私は可愛いなと思ったけどそれは母に馬鹿にされる、がっかりされるかもしれない、、
それが怖かった。
両親に否定されるのが、ものすごく怖かった。否定されると、ものすごく悪い子になったようで生きてる価値なしというくらい不安になった。

私が盗んだものは
本当に可愛くて欲しいと思ったのか
それとも単にみんなと同じが良かっただけなのか

本当にみんなが持っているのが可愛いと思っていたから欲しかったのか
それとも別に可愛いと思うわけではなく、みんなの真似をしてみたかっただけなのか

そこら辺はとても曖昧で自分でもどちらだったのか、、、その頃の私に聞かないと分からないけれど
もしかしたら、別に本気でこれが可愛くて欲しいとも思ってるわけではなく、単にみんなと違う持ち物をしてる自分が居心地悪いだけで、、一度みんなと同じ格好をしてみたいという単にそれだけだったのかもしれない。盗むのは悪いことくらいはわかっていたとは思う。あの頃の私はみんなと同じものを持って…そうしたら幼稚園でも話が合ってみんなと遊べるきっかけになるかな、そんな感じで思っていたのかもしれない。

ただ
幼い私の中で、本当に欲しかったのか、単にみんなの真似をしたかったのかどちらにせよ、
『親に欲しいと言う』よりも
『盗む』ほうが気が楽だったということだ。

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