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舟編みの人~第10話~

与那嶺美土里(以降 与那嶺)
「新人の与那嶺美土里と言います。」
朝倉
「あの研修を終えたと言う事は…
 もう新人でもないよな…」
伊島
「この部署での顔合わせは初めてと言う事ですから…
 あながち間違いでもないですよね…」
朝倉
「この間の新人教育研修での2人のやり取り…
 早速編集部では噂になってるらしいな…」
伊島
「研修を見学というか…
 覗きに来た社長が失笑していたので…
 やりにくかったです…」
与那嶺
「私達は研修を実のあるものにしようと取り組んでいただけなのに…」
「社長ったら酷いんですよ…」
朝倉
「まさかウチナーグチとか方言丸出しで喋ってたりとかしたんだろ…」
与那嶺
「なんで分かるんですか…」
朝倉
「社長の方言好きは、
 折り紙つきだよ…」
「でも笑うほどって…
 どんだけツボにはまったんだよ…」
「与那嶺も与那嶺だ…
 なんで採用辞退とかしなかったんだよ…」
与那嶺
「社長立会いの最終面接の時に…
 辞退の文字は…
 少しばかり頭の片隅を過ぎりましたけど…」
「泉さんも親身にしてくれますし…
 編集部の皆さんも優しいですからね。」
朝倉
「最終面接まで行ったのなら…
 ここの会社へは採用という事なんだよ。」
「この会社の最終面接は…
 部署振り分けの為の面談みたいなものだからな…」
「それに最近は…
 ほとんど中途採用ばかりだ…」
「因みに…
 泉の時くらいからかな…
 中途採用組が増えだしたのは…」
与那嶺
「なんで年度末に新人教育研修なのかと不思議だったのですけど…」
「事実上、
 この会社は新卒採用が無くなっているんですね…」
朝倉
「そもそも…
 この会社に来る時点で…
 他の会社じゃ…
 つぶしが効かない変わり種ばかり集まってくると言うか…
 そもそも…
 社長が一番の社内七不思議だからな…」
「社長は癖がちいとばかし強いが…」
「編集部のみんなも優しいし…」
「師匠にもなる泉がいるからどうにかなるんじゃないか?」
伊島
「最近は旅行会社とタイアップした紀行文のコラムとかが人気で…
 聖地巡礼ファンからのメッセージも数多くいただくのですよ…」
与那嶺
「ちょっと驚いたのですけど…
 研修最終日には…
 与那国島の観光案内のプレゼンを通しでさせてもらったのは…
 そうした絡みもあるのですね。」
朝倉
「書籍も出して終わりでは…
 これからは売れて行かないんだよ…」
「書籍を生活や仕事の中に取り入れてもらってこそ…
 こうした出版業界が生き残っていくのだと思う。」
「例年のこの時期の研修だと特段…
 新人教育研修なんてのはやらなくて…
 堅苦しいコンプライアンス研修と…
 査定も兼ねた社員面談で終わってしまうもんなんだ。」
「何でだろうな…
 今くらいの時期だけ重宝されるんだよな…
 研修資料とか社内コンプライアンス担当として…
 因みに…
 今年はマスコミ大手の不祥事とかで…
 いつもよりも資料の最終確認に時間がかかっているから…
 堪ったもんじゃない…」
「実は…
 会社全体で行うコンプライアンス研修を…
 ちょっと先延ばしにしてもらっているんだ…」
「それと…
 年度末とは言え…
 新人教育研修を行ったのは4年ぶりなんだよ…」
与那嶺
「会社全体でって…
 私が受けたのとはまた別なんですね…」
朝倉
「作家向けのと…
 テレビ局・ラジオ局などのマスメディア向け…
 SNSやファンレターなどのパーソナルメディア向け…
 後は編集部員向けと言うか社員向けの4種類だ…
 新人教育研修では取り急ぎ地雷になりかねないものを抜粋して渡しただけで…
 本当はあんなくらいでは済まない…」
「本当は研修の一部分とは言え…
 研修に講師としても参加したかったが…
 目を通さなくてはいけない案件があってね…」
伊島
「例年ならコンプライアンス研修も3ヶ月毎の研修で…
 しかも一日でさらりと終えてしまうのですけどね…」
朝倉
「今年は…
 一方通行の読み上げじゃいけないだろう…」
「ただ読み上げただけじゃ簡単に大切な部分も忘れてしまうだろうから…」
「今年は課題の洗い出しも兼ねて…
 ある程度ディスカッションや対話形式と取りたいと思うんだ。」
伊島
「コンプライアンス意識に関するアンケートをはじめ、
 各部署からの意見やコメントの集約も揃ってきてます。」
朝倉
「他社の出来事から表面化した事とは言え、
 うちの会社でも起き得ることだからな…」
「起きていたとしても…
 内々で穏便に済ませて…
 報告が上がっていなかっただけなのかもしれないし…」
伊島
「確かに気になるコメントとかも寄せられていますので…
 該当するものを転送しておきますね…」
朝倉
「やはり燻ってはいるんだな…」
「与那嶺…
 済まない…
 今日は顔合わせだけだったろ…」
「これから気難しい話になって、
 置いてけ堀になるかもしれないから…
 与那嶺のタイミングで編集部に戻っていいぞ。」
与那嶺
「お言葉に甘えて…これで戻りますね…」

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