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舟編みの人~第6話~

伊島
「朝倉さんって…
 どうして辞書編纂に携わろうと思ったのですか?」
朝倉
「三省堂の…
 見坊豪紀(けんぼうひでのり)さんと
 山田忠雄さんに憧れて志願したんだよ。」
伊島
「辞書編纂者からすれば、憧れの存在だとは聞いた事があります。」
朝倉
「特に忠雄さんが編纂した新明解国語辞典の用例に生活感と言うか…
 ちょっとした物語が散りばめられていて面白いなと思ったんだ。」
伊島
「でも最終的には…
 同じ三省堂からとは言え…
 この2人…
 別々で辞書編纂し続けましたよね…」
朝倉
「この2人の一連の出来事はノンフィクション小説にもなっているが…」
「畏れ多くてまだ…
 その小説…
 読んでいないんだよ…」
伊島
「でも流石にもう…
 読み始めてもいいんじゃないですか?」
朝倉
「取り敢えず…
 新明解国語辞典と三省堂国語辞典を大まかに読破して…
 ちょっとした謎解きしてからにしたいんだよ。」
伊島
「2人が残した痕跡なんて…
 それぞれの辞典が改訂を繰り返される中で確実に薄れていっていますよ…」
朝倉
「それならそれで…
 今生きている言葉に向き合いたいんだ。
 そして先ずは…
 辞書作りをする一員として…
 辞典に向き合いたいんだよ。」
「それに…
 言葉と言うものは…
 その時代を写し出すものでもあるからね。」
伊島
「ところで話の中で…
 さらりと流されましたけど…
 辞書と辞典って細かい意味合い違いますよね…」
朝倉
「確かに…
 辞書と一口に言っても…
 熟語解説の辞典、
 出来事を解説する事典、
 文字を解説する字典がある。」
「細かく言い分ける為に…
 ことばてん、
 ことてん、
 もじてん、
 と言われる事もあるな。」
「どの様な事を説明したいかや…
 調べたいかでも…
 辞書の種類は違ってくるんだ。」
伊島
「私も結構調べものしますけど…
 パソコンやタブレットなんかで調べてしまいますから…
 ネタに行き詰っている時くらいしか紙媒体は見ないですね…
 ある程度手がかりがある時は狭く深く潜った方が早いですからね。」
「それに流石に分厚い紙媒体で買うような人は減ってきていますよ…」
朝倉
「紙媒体で広く浅く…
 パソコンとかでは狭く深くは…
 調べ方の違いとしては的確だろうな…」
「別にどちらが良い悪いという訳でもないからな。」
伊島
「見当付けをするまでは広く浅く…
 ある程度手がかりが見つかったら狭く深く…
 作業手順の違いなだけだからですね。」
「尤も見当付けが済んでいる人は…
 最初から深く潜り込んでしまいますよね…」
朝倉
「当(まさ)に今した話…
 辞書作りの中での2人のスタンスの違いにも繋がる話なんだよ。」
「見当付けの見坊…
 深掘りの山田と言ったところかな…」
伊島
「実は…
 小説読んだ事あるんじゃないですか?」
朝倉
「10年位前にテレビドキュメンタリー番組で…
 2人の事が語られていたのをちらりと見ただけだよ…」
「それにな…
 一部分しかみていないはずなのに…
 関係者から語られる事実が衝撃だっただけで細かい事は知らないよ。」
「あと…
 今な…
 言葉に限らず…
 色んな物事が粗雑に扱われている事が悲しいんだよ。」
「そうだなぁ…
 この話題は丁寧に扱いたいし…
 記憶違いとかは嫌だから…
 今日は…
 ここまでで話を止めておくよ。」

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