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滝デート

18歳の夏
のちに初めての彼氏となる人と
滝デートに行きました。


太陽がギラギラと照りつける
7月最後の日曜日。


彼と私はふたりで自転車を漕いで
近くの滝スポットに出かける約束をしてて。

近くといっても
勾配の急な坂道を
8キロ近くも自転車で登りました。


真夏の太陽のもと
ママチャリで8キロのアップダウン
それはそれはキツかった。


途中で何度も何度も
道端に自転車を停めて休憩をしました。

坂道を漕ぎ続けられない私のために
サドルの高さを調整してくれたり。

自販機でキンキンに冷えたお水を買って
木陰で一緒にごくごく飲んだり。

彼の自転車の鍵に
モンスターズインクのマイクのキーホルダーが揺れていて
好きなのかなあ、なんて思ったり。

優しい彼は
体力がなくて息を切らす私にペースを合わせ
ゆっくりゆっくり登ってくれました。



あとちょっと!
もうすぐだよ!
頑張れ!!
なんて励まされながら

いったいどれくらい漕いだんだろう。

休憩しながら1時間
いや1時間半くらい漕いだかもしれない。


二人とも汗びっしょりになった頃
着いたよ、と言われて
自転車を道の端に停め
林の中のでこぼこ道を進んでいくと
ふいにパァッと視界が開けて。


あのとき目に飛び込んできた滝は
一生忘れない。

他のどんな滝より
カナダのナイアガラよりすごい滝。


苔むした緑色のゴツゴツ岩から
つん裂くような勢いで流れ落ちる滝のスケールは
とんでもなく大きなものに思われました。

これが....滝。

圧巻でした。


坂道を死に物狂いに進んできた苦労が
暑さが
疲れが
全て溶けていくようでした。



彼は私の手をとりながら
岩場をゆっくり進んで
滝のすぐそばまで連れて行きました。

轟々と音を立てて落ちゆく滝は
霧みたいなしぶきがとってもとっても涼しくて
マイナスイオンを全身で感じました。



岩場に腰かけ
サンダルを脱いでズボンを捲り
脚を水にちゃぷちゃぷと浸す彼。

やってみな
冷たくて気持ちいいよ

と言われたけれど
好きな人の前で裸足になるのが
なんとなく恥ずかしくて

んーん、今日はいい

と断りました。


ごうごう
ざあざあ
ちゃぷちゃぷ

自然の音を聴きながら
好きな人と
二人きり。

小さな岩から落っこちないように
ぎゅっと寄り添って
ただただ滝を眺めました。


彼の汗ばんだ頬がすぐ近くにある。
柔軟剤の清潔な香りが
いつもよりいっそう強く感じられる。

ドキドキしてほとんど喋れなかったけれど
不思議と気まずくなくて
居心地がよかった。


自然は二人の心と身体を
軽やかに浄化しました。



帰り道
彼は急傾斜をノンブレーキでびゅんびゅん進みすぎて
途中で盛大に転び
膝を思い切り擦りむきました。

すごく痛そうでした。

このケガが
のちの「おにぎり」の思い出に繋がるんだけど
それはまた次回。


そんな
忘れもしない滝デート。



このデートは
なんら核心に至ることのない
素朴なものでしたが

私は直感していました。


炎天下の坂道を立ち漕ぎしながら
ペットボトルの水をゴクゴク飲む彼の喉ぼとけを見つめながら
揺れるマイクのみどり色を眺めながら

「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」
って。

もちろん
あのドラマが放送されるよりもうんと前ですよ。

でもね
感じたの。

惹かれ合っていく実感。
初めての感覚。
30歳か40歳か
いつか思い出して泣くだろうなって。

かけがえのない恋。
かけがえのない青春。


今となっては
やがて終わった悲しい恋。
何年も何年も忘れられなくて
辛くて苦しくて
たまらなかった恋。



でも
こんなに溺れるほどに恋をしたことは
とても幸運だったと思います。

生涯忘れがたい恋なんて
一生かかっても出逢えない人もいるんですもの。




後刻
同じアパートに住むHちゃん
(のちに最大のキューピッドとなる
大学時代いちばんの親友)に
この日のことを話しました。


中学生みたいなウブな1日を聞いて彼女は

告白された?
されなかったの!?
二人きりで出掛けて何もなかったの!?
ナニソレ!!!
なにやってんの!!!

と私を叱りました。笑

大切な
最初で最後の
滝デートのお話。

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