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1997年「フェイク」


公開 1997年
監督 マイク・ニューウェル
公開当時 ジョニー・デップ33歳  アル・パチーノ56歳 アン・ヘッシュ27歳 マイケル・マドセン39歳

この映画は公開当時、映画館に見に行きました。
ジョニー・デップ目当てで見に行っただけで、映画の内容などはまったく知らずに見たのですが、予想外の名作で感動したのを覚えています。
先の読めない展開で緊張感が途切れず、最後まで釘付けで見てしまいました。

派手な銃撃戦やカーチェイスなどはありませんが、淡々としている分リアリティがあり、マフィアの世界の上下関係を静かに描いています。

レフティに近づきマフィア組織への潜入に成功したFBI捜査官ドニー。
レフティはマフィア社会のルールをドニーに教える。
ドニーはレフティの信頼を得る事により、徐々に組織の中枢へと近づいていく。

レフティはとうにマフィア社会の出世コースから外れたうだつの上がらない構成員であり、家族思いの一家の長でもある。
「犬だって自分の縄張りを持ってる。俺には何も無い…」
要領が悪く、マフィアとしての器がいまひとつのレフティは、幹部から軽くあしらわれ末端の仕事ばかり押し付けられる。

マフィアとは金の世界であり、組織の底辺から上層部へと金は流れる。
幹部からすれば下っ端の構成員など、歯車の一つに過ぎない。

FBI捜査官とマフィアの構成員、過酷な二重生活を送ることになったドニー。
当然、家族との絆にも亀裂が生じる。

「俺は仕事に潰されて、息ができない…」
レフティを取るか、任務を取るか、板挟みになるドニー。

次第にマフィア組織とFBIとの境界線がゆらぎ、自分を見失う。

作戦は終了、ドニーはFBIに回収される。

組織から「呼び出し」を受けるレフティ。
妻に「ドニーが来たら伝えてくれ。お前だから、許せる…」

レフティが覚悟を決め、身に着けている貴金属をすべて取り外し引き出しに入れるシーンは、何度見ても涙が溢れてしまいます。
極道として生きてきた男の、なんとみじめな最期…

アル・パチーノは平凡な男を演じるのが不自然なほど、鋭い眼光、小柄ながらも全身から漂う修羅のオーラを持つ俳優ですね。
「ゴットファーザー」や「ヒート」など、常に危険に身を置く野獣のように隙の無い男を演じる事が多い印象ですが、今作ではいつものカリスマ性を脱ぎ捨て、うだつの上がらない、年老いたマフィアの役を哀感たっぷりに演じています。
年齢差からかドニーを自分の息子と重ねており、裏切られても憎み切ることができない…
私はこのレフティの役が彼の最高の演技だと思います。

ジョニー・デップは決して自分の個性が役柄より前に出る事が無く、個性を役に沈めキャラクターを内側から輝かせることのできる稀有な俳優ですね。
時折見せる憂いのある表情と、常に遠くを見るような目が印象的です。
家族と過ごしている時も常に緊張感が解けず、日常生活を犠牲にせざるを得ないドニーのいら立ちや二重生活に苦しみ押しつぶされていく過程を繊細に演じています。
今作で改めて彼の演技の引き出しの多さに感服しました。

この二人の俳優が演じていなければ、「ディパーテッド」のような、ただの平凡な潜入捜査映画になってしまっていたと思います。

この映画は実話が元になっており、実際に6年もの間マフィア組織に潜入したジョゼフ・ピストーネの自伝を元に制作されています。

「フェイク」の原作では、潜入捜査官ジョゼフ・ピストーネと、マフィアの中堅幹部ソニー・ブラックとの義兄弟のような絆が描かれており、レフティはクセのある厄介なおっさん、という描かれ方がされています。
アカデミー脚色賞を受賞しただけあって、見事に登場人物のキャラクターを変え、ドラマチックな作品に生まれ変わっています。

「今日こそ、俺が死ぬ日かもしれない…」

尋常な精神力では6年もの間潜入捜査を続けるのは不可能でしょうね。まさに死を覚悟した任務といえます。
妻子がいる男にこのような無茶な任務を強いるなんて、FBIとはブラックな組織なのですね。

ジョゼフ・ピストーネとは余人をもって代えがたいほど優秀な捜査官だったのではないでしょうか。

作品があまりに良かったので普段は買わないパンフレットを買い、今でも持っています。
解説に「二人の俳優の低温火傷をおこしそうなほどの熱い演技」とありましたが、まさにその通りですね。

20代の頃、見た後にいつまでも余韻が残ったのを覚えています。
間違いなく数十年に一度の名作と言えるのではないでしょうか。

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