ショートショート おめでとう

道を歩いていたら、
突然、
恰幅かっぷくの良いおじさんに、
「いやぁ、コングラッチュレーション」
と握手を求められた、か細い女性の私は、
「いえいえ、
何をしたって訳じゃありませんが」
と言いつつ、その握手に応じ、
おじさんのかたわらにいた女性から花束を手渡されたのです。

と言ったところで私は、
「一体これはなんなのだろう?」
と思う訳だけど、
と思ったところで、
思い当たるふしみたいなものはなかったから、
結局私は、
「一体これはなんなのだろう?」
と思ったまま、
とりあえず笑顔を見せて、
「ありがとうございますです」
とお礼を言っといた。

と、
お礼を申し上げたところで、
恰幅の良いおじさんが、
「素晴らしいよね。
あなたは本当に素晴らしい。
一体これはなんなのだろう?
って思ってるかも知れませんが、
そういった気持ちの面も含めて素晴らしい。
一体これはなんなのだろう?
だよね、こんなの。
でもいいんですよ、あなたはそれで。
ですから、一体これはなんなのだろう?
という気持ちのまま、あなたは私からの称賛の声を受け取ってください」
などと幸福そうな顔で言ってきた。

なので私は、
一体これはなんなのだろう?
と確かに思ってしょうがないんだけど、
素晴らしいと言われればまぁ、
それは素直に受け取りますです。
ありがとうございますです。

と、
素直な良い子が出たところで、
「それじゃ、もう行っていいですか?」
と私は聞いていくんだけど、それを目を見開いて受け取った恰幅の良いおじさんは、
「それはこっちのセリフです」
などと言ってきて、
「わざわざ呼び止めたのはこっちですが、
もう行っていいですか?
という気持ちは我々のほうが強い。
もうだいぶ前から、もう行っていいですか状態だったんです我々は。
だから、それはこっちのセリフです。
なので言わせていただきますよ。
じゃあ我々は、もう行っていいですか?」
と威圧的な態度で迫ってきた。

なので私は、
「ああ、はい。
ああ、あの、はい。
どうぞ……行ってください」
と困惑気味に返答したのでした。

という訳で、
という事があったものだから、
という気持ちと花束を抱えて、
うつむき加減に、
未知に満ちてるみっちみちな道を道行く私なのだけど、
そしたら突然、
「どうかしましたか?」
とどうかしているファッションのどうかしている奴に声を掛けられた。

という、
というまぁ、
というあれなんだけど、
しかし別に、
別にって言うか、
言うほどどうかしたって訳じゃない私なので、
「ふふふ」
と、とりあえず笑い掛けた私は、
「いえ、あの、
ご親切にどうもって感じなんですけど、
あの別にその、どうもないですよ。
そういう風に見えたかも知れませんけど、
本当どうもないです。
言ったらまぁ、
今の私の状態を言ったら、
大丈夫って奴なので大丈夫です。
本当あの、ご親切にどうもです。
ご親切にどうもでした」
と言って、頭を何回も下げながら、
そそくさとその場を離れた。

ふー。
何がって訳じゃないけど、大丈夫。
そして何をしたって訳じゃないけど、
そんな私に、コングラッチュレーション!

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