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たまには怖い話を

ホラーが苦手です。
特に、子どもや人形ものはダメ。
ねっとりとした怖さの日本のホラー映画は、予告だけでギブアップ。
TVで心霊写真や、恐ろしい体験談の類いが始まると、慌ててチャンネルを変えます。
もちろん、遊園地のお化け屋敷も遠慮いたします。


そんな、怖いものを避けて生きてる私ですが、どういうわけか、ほんのたまに怖さを自ら求めてしまう時があります。
平和ボケした脳が、刺激を求めるんでしょうか(笑)

と言ってもマンガや映画だと、ギョッとするような場面が、抵抗する間もなく一方的に飛び込んできて、しっかりと目に焼きついてしまい、夜に激しく後悔することになります。
ムスメが読んでいた小中学生向けのホラー漫画でも、けっこうヒィィィっ!とさせられました。
(読まなきゃいいのに(笑))

小説の方が、脳内で都合良くオブラートに包まれて、恐怖がエンターテイメントとして消化しやすくなるような気がするので、 たまに怖い本を読んでしまいます。

一時期は、スティーブン・キングにはまっていました。
でも、なんだか本から放たれるオーラが怖いので、目につかない本棚の一番奥の方にしまったりしてました(笑) 


えらく前置きが長くなりましたが…
そんな私が今日紹介する本が、こちら。


『闇祓』(Yami-hara)
 辻村深月 作       角川書店


この本、本当に怖いです。
でも、面白い。
怖いのに面白すぎてやめられない、止まらないです。
この本のせいで、なかなか立てずにご飯の支度が遅れたり、話しかけられても、心あらずの相づちを打って怒られたり、日常生活に多いに支障をきたしました。

『闇祓』には、霊や超能力や呪いの人形は出てきません。宇宙からの侵略者も、未知なる病原菌も、ゾンビも登場しません。
むしろ、ありふれた日常。 
誰もが見たことがあったり、身に覚えのあるようなシチュエーションの中に、じわじわと漂い広がっていく闇の恐怖が描かれています。


始まりは、転校生。
澪(みお)のクラスにやってきた、男子学生の要(かなめ)は、なぜか澪のことをずっと見ている。
最初は「一目惚れ」かもと友達にからかわれていた澪だったが、無口で話しかけても反応がなく一人きりでいる要に、委員長として接しながらも、次第に居心地の悪さを感じる澪。
すると突然、要が声をかけてくる。
「今日、家に行ってもいい?」
そして、徐々にエスカレートする要の行動に、恐怖を感じ始める澪だったが……。


冒頭からゾクッとする始まり方ですが、これはほんの序章に過ぎません。
本当の恐怖は、この先にあります。

ごく普通の人間。
なんなら、好印象すら与えるような人物。
なのに、なぜか感じる微かな違和感。
それが少しづつ増大してゆき、自分でも気がつかないうちに、正常だったはずの世界に出現した僅かな歪みが大きくなっていくのです。

そして、なんかヤバイ! おかしい!と思った時にはもう遅い。
すでに逃げ出すことのできない闇の中にすっかり囲われて、恐怖はどんどん増殖していくばかりとなり、読者も一緒に、一気に恐怖に引きずり込まれるのです。


澪と要の出会いで始まる第一章「転校生」に続き、第二章「隣人」では団地のママ友たちの間に広がる闇、第三章「同僚」は会社内の人間関係にまつわる闇、そして第四章「班長」は、小学校のあるクラスを侵食していく闇が描かれます。

四つの話は、一見バラバラのようでいて、読み進めていくうちに、ある繋がりがあることに徐々に気づかされます。
そして、ついに最終章「家族」で、一体何が起こっていたのか、恐怖を引き起こしていたものの存在、さらに転校生の要とは何者なのか、今まで謎に包まれていた部分が次々と明らかになっていき、タイトルの「家族」の意味するところを知ることになるのです。


なんと言っても感心するのは、辻村深月さんのストーリーテラーとしての優れた腕前。
ぐいぐいと夢中で読み進めさせる筆の力には、脱帽です。

『闇祓』は、初の本格ホラーミステリー長編ということですが、他にも様々なジャンルの小説を次々と生み出している辻村深月さん。 
彼女の頭の中は、一体どうなっているんでしょう。

以前、映画の長編ドラえもんが好きで、TV放映の時はいつも観ているムスメが、「今日のドラえもんは、スゴイ面白い!」と夢中だった時がありました。
その時の映画の脚本を担当していたのが、辻村深月さんだったのです。
さすが!と思いました。
ホラー小説からドラえもんまで、スルッとこなしてしまうなんて。
この方は本当に、「物語を紡ぐ人」として世に生まれてきたんだろうなぁ…と、思わずにはいられません。


『闇祓』をきっかけに、私の中で勝手に「辻村深月フェア」が開催されました (笑)ので、しばらくは、未読の作品を次々と読みあさってしまいそうです。

皆さんもゾクゾク、ハラハラしたい気分の時には、ぜひ『闇祓』で極上のホラー体験をしてみてください。
その際には、先に大事な用事を済ませてから、読み始めることをオススメします(笑)



ヤミ-ハラ【闇ハラ】 闇ハラスメントの略。
ヤミ-ハラスメント【闇ハラスメント】
精神・心が闇の状態にあることから生ずる、自分の事情や思いなどを一方的に相手に押しつけ、不安にさせる言動・行為。本人が意図する、しないにかかわらず、相手が不快に思い、自身の尊厳を傷つけられたり、驚異を感じた場合はこれにあたる。やみハラスメント。闇ハラ。ヤミハラ。

『闇祓』より


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