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妹の友達のアルノちゃん#7【あるの?ないの?】

ア:私じゃ・・・妹の友達以上にはなれませんか?

アルノちゃんの目の下にツーっと縦の線が入って

ポツポツと冷たい感覚に、雨が降り出したことに気づく。

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ア:雨・・・降って来ちゃいましたね

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ア:強くなる前に帰りましょうか

〇:あ、ああ・・・

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ア:今日は私このまま帰りますね

〇:えっ、送ってくよ

ア:大丈夫です。ここからなら駅すぐですし

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ア:ちょっと・・・そういう気分です・・・


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ア:〇〇さんは早くなぎのとこ帰ってあげてください

〇:アルノちゃん・・・

ア:それじゃ、失礼します

〇:あのっ;;;

オレの言葉を遮るように深くお辞儀をして、足早に駅に向かって行った。




こういう時は追いかけるものなのかもしれないけど・・・

オレにそんな資格があるのか分からない・・・

アルノちゃんの背中が見えなくなってからも、少しの間その場から動く事が出来ずにいた。

幸い3年前のようなひどい雨にはならなかった。






和:お帰りー、なんか雨ふってきたね。大丈夫だった?

ふらふらと帰宅すると、すっかり元気そうななぎに迎えられる。


〇:ああ、小雨くらいだから

和:あれ?アルノは?

〇:駅から帰ったよ

和:えっ、そうなの?

〇:ああ・・・

和:なんか失敗した?手ぐらい繋いで帰ってくると思ったのに

〇:いや繋がないだろ・・・

指先で繋がっていたあれは、手を繋いだとは言わないよな・・・

和:ふーん・・・じゃあ何があったの?

〇:別に何も・・・・

・・・・・・

・・・・・・

〇:そーいえば・・・シオリに会ったよ

和:え、ほんと!?

〇:ああ

和:シオちゃん元気だった?

〇:ああ、なぎの事気にしてたよ

和:そっかー、私も行けばよかったなー

和:全然会ってないもんなー

〇:なんか・・・ごめんな・・・

和:ん、なにが?

〇:いや、オレがシオリと別れたせいでさ

和:別にそんなの普通だし、しょうがない事じゃん

和:むしろ気遣われて別れられないとかの方が嫌だよ

〇:ああ、そっか・・・そーだよな。ごめん・・・



目を伏せているとむにゅっと頬を両手で挟まれる。

そのまま無言でオレの目の奥まで覗いてくる。

〇:な;なんだよ;;;

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・・・・・・

・・・・・・

和:大体わかった

たっぷり真っ直ぐな視線をオレにぶつけた後に、少し寂しげにそんな事言う。




和:お兄ちゃんの事だから余計な事考えちゃったんでしょ

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和:考えすぎなんだよ、お兄ちゃんは

・・・・・・

和:別にアルノとお兄ちゃんがどうなっても、私がアルノの友達な事は変わんないよ

〇:は?なんで今アルノちゃんが出てくんだよ

和:もーいいじゃん。そういうのは

・・・・・・

和:自分に言い訳してるだけじゃん

・・・・・・

和:そんなお兄ちゃん見てらんないよ

・・・・・・

和:もういい加減にアルノとちゃんと向き合ってよ

〇:・・・どういう意味だよ

和:だから・・・だからさ・・・

和:アルノに手出す気あるの?ないの?

和:そろそろはっきりしてよ

和:じゃないと・・・どっちも幸せになれないよ

和:アルノも・・・

和:お兄ちゃんも・・・

そう言って悲痛な表情を浮かべる。




なんなんだよ・・・・

なぎに余計な心配させたくないと思ってるのに・・・

結局こんな顔させてるのはオレだ・・・

オレのせいでまた・・・


〇:・・・手出す訳ないだろ

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和:アルノが私の友達だから?

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〇:なぎには関係ないだろ・・・

〇:ほっといてくれよ・・・

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和:それ、本気で言ってんの?

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和:おいっぅっ!!

和:ふっざけんなあぁぁっ!!

突然混じり気の無い本気の怒りをぶつけられて顔を上げると、なぎの大きな瞳から大きな粒がこぼれる。

それを拭いもしないで、オレの胸ぐらを掴む。


和:なんで!!

和:なんでそんな事言うのっ!!

・・・・・・

和:ほっとけるわけないじゃん!!

和:心配して何が悪いんだよ!!

・・・・・・

・・・・・・

和:なんとか言えっ、バカ兄貴!!

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細い腕に力を込めて何度もオレを揺さぶる。

唇をぎゅっと閉じて、眉を怒らせる。

睨みつけてくる目からは、大きな雫が落ち続ける。


何やってんだ、オレは・・・

それでも自分の気持ちも分からないオレが

全力で気持ちをぶつけてくれる妹にかける言葉が見つかるわけも無かった。

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・・・・・・

〇:・・・ごめん

目を逸らしたまま言う。

さすがのオレでも0点未満の回答なのは分かる。



くぅぁっ;;;

これ以上無い悲痛な表情を浮かべて、手が離れる。

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和:もういい・・・

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和:お兄ちゃんなんて・・・大っ嫌いだよ・・・

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・・・・・・

オレよりも、言っているなぎの方がよっぽど辛そうに見えた。






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ーーーーーー

なぎにあんな顔させてしまうなんて、

あんな事を言わせてしまうなんて、

自室のベッドで自分の不甲斐無さを呪い、低い天井を睨む。

なぎのおかげでずっと考えないようにしていた事に向き合う決心がつく。

他でもない、アルノちゃんの事だ。

ふうぅーっと長い息を吐いてゆっくりと目を閉じる。


今まで敢えて非表示にしていたフォルダを覗きに行くと、

予想以上にアルノちゃんのブックマークで溢れかえっている事に驚く。

これオレがやったんだよなぁ。

整理しないまま放り込んでおくと、こういう事になるのか。

全方位にあるアルノちゃんを一つ一つ時系列に並べていく。



ドッキリを仕掛けられて慌てたり

なぎにいじられて困り顔になったり

パンケーキ美味しそうに食べてくれたり

なぎにからかわれて白目をむいたり

車の中で極度の緊張で肩がピーンとなっていたり

別れ際に手を振ってくれたり

エプロン姿で親子丼を作ってくれたり

なぎの事をいつも優しく見守ってくれたり

お祭りで浴衣姿の女の子を羨ましそうに眺めたり

はたから見たら恋人だって譲らなかったり



「私じゃ妹の友達以上にはなれませんか・・・」

最後の一つを並べて、頭の中でアルノちゃんの写真集が完成する。


いつも一生懸命に真っ直ぐに気持ちを伝えてくれて

何気ないやりとりの一つ一つにこんなに救われていたんだな。

そんな彼女を妹の友達というフィルター越しにしか見ていなかったのか。



そうっとフィルターを外してみると

すぐに理解してしまった。


はは

なんだよ、妹の友達だぞ・・・

オレこんなに好きだったのか・・・アルノちゃんの事。



意識してフィルターをかけだしたのはいつからだっけ。

好きになっちゃいけないなんて、自分で決めた時点で遅かったんだろう。

まったく・・・こんな事なら最初から出会わなければよかった。

心にも無い事を無理矢理言葉にしてみても、もやが深くなるばかりだ。

それでもなぎとアルノちゃんの関係性の方が大事だという気持ちに嘘は無い。

だからオレの身勝手な想いを表に出す事はこの先ないのだろう。

今のこの気持ちが段々とフェードアウトして、

夏の幻みたいに無かった事になればいいのかも知れない。

なにが正解なんてわからないし、

臆病者の言い訳と言われればそれまでだが。




結論と呼べるのか分からないものが自分の中でようやく形になった感覚だ。

目を開けると、ずいぶんと時間を要していた事に気づく。


もう寝た方がいいなと思いつつ

目を瞑るとアルノちゃんの顔が浮かんでしまうような気がして

また低い天井を睨みつけた。





コンコン

!!

普段自室で聞く事の無いノックの音が響く。

和:お兄ちゃん、ちょっといい?

いつもは無遠慮に入ってくるなぎの声が、扉越しに届いた。


【続く】





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