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「家族法制の見直しに関する中間試案」に関する意見の提出

Catherine Henderson氏より公開された、オーストラリアがパブコメに提出した意見をノートに転載しました。

 オーストラリア政府外務貿易省及び司法省は、共同親権案の検討を含む、法制審議会家族法制部会による家族法制の改革に向けた取り組みを歓迎する。オーストラリア政府は「家族法制の見直しに関する中間試案」に意見を述べると共に、両親の離別後、子に対する親の責任を共有するオーストラリアの原則について情報を共有する機会を歓迎する。


子の権利と最善の利益についての根本的原則

 オーストラリアの家族法では、子の最善の利益になると共に、安全が保証される限りにおいて、子の権利は彼らの両親や親族、文化とのつながりにまで及ぶ。この考え方は児童の権利に関する条約の履行を意図としており、ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)の目的とも一致している。児童の権利に関する条約には、以下の内容が含まれる:

  • 第 9 条⑶:締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又 は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。

  • 第18条⑴:締約国は、児童の養育及び発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。父母又は場合により法廷保護者は、児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有する。児童の最善の利益は、これらの者の基本的な関心事項となるものとする。

 親子の関係は、暴力や虐待、保護の怠慢(ネグレクト)または他の危害がない場合、独自のものであり、子の身体的、情緒的、社会的発達を促すものである。健全な親子関係における離別の長期化は子のみならず、離別した親の精神的健康や幸福に大きな影響を及ぼし、継続的な苦悩の原因となる。子や両親、彼らの親族(祖父母やおば、おじ、いとこ)は悲しみや喪失感といった有害な感情に苛まれる可能性があり、こうした人々の幸福に長期的な影響が及ぶ場合がある。

 オーストラリアで、関係崩壊後の子や財産をめぐる取り決めを解決する主要な法的枠組みを提供するのは1975年家族法である。養育や財産をめぐる争いが当事者間で解決できない場合、家庭裁判所がこうした争いを聞き、解決にあたる。親の責務や子の監護の問題を扱い、養育面での争いを解決する上での目的は、子の最善の利益の確保、及び児童の権利に関する条約にある国際的権利や義務の履行であると、家族法は定めている。

オーストラリアの家族法改正の提案

 オーストラリアは子の最善の利益を支えるべく、制度の見直しや改定に引き続き取り組んでいる。オーストラリアの1975年家族法改正の提案は、2023年1月30日に発表された。この改正は、子の幸福に主眼を置きつつ、本法の明瞭化や簡素化、強化を図るものである。2023年家族法改正案では、数ある変更のひとつとして、子の最善の利益を決定するにあたって裁判所が検討すべき要因を以下の6つの原則に絞るよう提案がなされた。

  • どのような取り決めが、家庭内暴力や虐待、ネグレクトや他の危害からの安全を含め、子や子の監護者の安全を最も促進するのか

  • 子が示したあらゆる意見

  • 子における発達や心理、情緒面での必要性

  • 安全が保証される限りにおいて、各親や他の大切な人々との関係を維持できることの利点

  • 監護者が世話においてサポートを求めることができる能力や意思を考慮した上で、提案された子の各監護者が、子の発達や心理、情緒面での必要性に応えられるか

  • 子が置かれた特定の状況にあてはまる、その他すべての要素

 提案された改革についての情報は、以下のウェブサイトより参照できる。 Family Law Amendment Bill 2023 - Attorney-General's Department - Citizen Space (ag.gov.au)

離別後の養育に対するオーストラリアの取り組み

 オーストラリアでは多くの場合、両親は離別後も養育において、引き続き積極的な役割を担う。言い換えると、双方が子の教育や医療、法的及び資金的問題などの点で、子の養育についての決定に関わる。両親は安全が保証される限りにおいて協議を行い、意見を合わせるよう促される。この内容には各親とどのくらいの時間を過ごすかや、子の居住場所、週末や休日を過ごす場所、さらには食事の準備や宿題のサポート、しつけ、学校の送り迎え、スポーツや社会活動といった日常の養育においていかに責任を分担するのかが含まれる。こうした取り決めには、祖父母や他の親族など、子の暮らしに欠かせない他の人物が関わることもある。このアプローチには、家族は夫々に異なるという考え、及び通常は両親こそが、子にとって最良となる監護の形態を定める上で最も適した立場にあるという考えが反映されてい る。

 関係の崩壊はとりわけ子にとり、情緒面で試練の時となる。オーストラリアの家族法制は、多くの両親が子へのサポートや監護について、可能な限り早く簡素な形で円満に合意するのを助ける点を目指している。これには、両親が裁判において対立的な法的過程を経る場合に 生じるストレスや争い、費用や時間の回避という重要な側面がある。両親は代わりに、揉め事を円満に解決し、子の監護や養育の分担を取り決める協議を行うのを助けるような、政府 が拠出する一連の無料もしくは低価格の支援サービスを利用できる。これには Family Relationships Advice Line(全国民が利用できる無料電話サービス)や、Family Relationships Online (familyrelationships.gov.au) のような他の情報サービスがある。これらはオンラインや電話、対面によるカウンセリングを行ったり、家庭内紛争解決サービスや、役に立つ様々な 情報源の提供を行っている。両親は自発的に養育の取り決めを結び、こうした取り決めや期待について明確に定めることが可能である。地域に根差した家族支援サービスは、各家庭に固有の状況に見合う両親による養育の合意の形成を支援することができる。

 オーストラリアの特徴は、離別する両親が暮らしにおける困難な変化を乗り切れるよう、情報やツール、サポートを提供する点、及び子の利益が最優先される点にある。オーストラリアでは、大方の両親が裁判所を経由せずに、首尾よく、協力的な形で子の扶養についての取り決めを自らで定めている。だが合意が不可能な場合、あるいは家庭内暴力や子の安全にまつわる不安がある場合、オーストラリアの家庭裁判所に決定が持ち込まれることがある。

家庭裁判所の役割と、危害からの子の保護

 残念ながら現実を見れば、家庭内暴力や虐待、ネグレクト、その他の危害の事例はいくつか存在する。このような場合、子や彼らの監護者に決定的な影響が及ぶことがある。これらはより広範な社会的問題であり、政府や社会のあらゆるレベルが一丸となった取り組みが求められるが、家族法制には、家庭内暴力や虐待の危険を特定し、子を守る適切な安全措置を定着させる上で大きな役割がある。

 通常、最も複雑になるこうした事例では、家庭裁判所は子の監護のため、養育にまつわる命令を出すことができる。裁判所はまた、片方の親あるいは両親に、家族カウンセリングや家庭内紛争の解決、あるいは養育の講座やプログラム、他のサービスに参加するよう命令が可能である。裁判所から命じられた場合、両親にはこれに従う法的義務がある。裁判所命令に違反する両親には、強制的な罰則が科される。

結 論

 オーストラリア政府は、日本にいる子との再会を待ち望むオーストラリア人の親への支援を継続する。多くの親が何年も子に面会したり、話したりしていない。影響を被ったオーストラリア人の親は政府に対し、現行の日本の家族法制と関わる中で経験した障壁や、子との関係維持に努める中で、今も直面する心理的、情緒的、資金的困難を強く訴えている。

 オーストラリアは、安全が保証される限り、養育において双方の親が積極的な役割を担うことが、子の最善の利益になると考える。オーストラリアは日本に対し、子が離婚後も両親や彼らの親族との継続した、意義ある関係から恩恵を得られるよう、分担された養育のあり方を確立するような家族法の改革を導入するよう勧めたい。

 オーストラリアの担当当局は、自国の現行法や改正法案の中身及び施行について、日本の当局と関わりを持つと共に、子の必要性を安全な形で支えるために、家族法の過程を最良の形で活用する方法について意見を交換する用意がある。



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