ハーレムみたいなバイトシフト
大学の学食でバイトをしていたことがある。
学食のバイトよりラクして稼げそうな候補はあった。だけど、この学食のバイトを選んだのは、女子と接する機会を得たいという邪な考えがあったから。
というのも、物理学科には女子が非常に少ないし、サークルにも入っていなかった僕は、日常生活で女子と話すことが、ほとんどなかった。人間として大事なものを失いそうな予感がして、女子と話せそうなバイトを始めることにした。
飲食店という枠組みの中でも、学食は比較的ゆるそうだったし、大学の授業が終わって、そのままバイトに行けるというメリットもある。
そして、ここも大事なポイントで、なんと、まかないもついてくる。大学生にぴったりのバイトではないか!
さっそく面接に行き、人手が足りてなかったので即採用決定。スタバみたいなバイトと違い、申し込めば誰でも採用される。店長の人柄もよさそう。業務内容の全貌はまだ分からないけど、ここのバイトでうまくやっていけそうだ。
面接後は厨房や洗浄、料理を盛り付ける場所の様子を、見学させてもらった。綺麗だとはお世辞にも言い難いが、和やかな雰囲気があった。
「じゃ、来週からよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「シフトができたら、グループのラインで伝えるね」
「わかりました」
少し緊張も感じながらその場をあとにし、家路に着く途中で「どんな人たちとシフトが一緒になるかな」と考えていた。
もしかしたら、全員男だという可能性もあるぞ。それでは、わざわざこの学食のバイトを選ばなくても、他のラクして稼げそうなバイトでよかったではないか、という話になる。
まあそうなったらそうなったらで、よしとしよう。新しく交友関係が、広がるだろうから。
シフトの発表を心待ちにしながら、数日を過ごした。
*
「今タームのシフトが決まりました」
ついに待ち望んでいた、ラインが送られてきた。
恐る恐る、グループラインに掲示されたシフト表を見てみる。
自分の名前を見つけた。他は誰だろう。
ん。
名前から察するに、これって、僕以外みんな女子じゃね。
まだ顔合わせたことないけど、名前を見る限り、僕だけが男子で、あとは全員女子ではないか。
ま、まじか。いくら女子と接する機会が欲しいと望んだからといって、程度があるでしょう、神様。何も、僕以外、みんな女子にしなくても。
練習が全然できてないのに、いきなり大事な試合に、スタメンで出される感覚。
不安な面持ちのまま、バイト初日の前夜を過ごした。
*
バイト初日。
初めての顔合わせ。やっぱ僕以外、全員女子じゃん。えっ、浜辺美波みたいな目をしてる子おるやん。そ、そんな目で見られたら、僕の瞳孔が勝手に開いてしまうではないか。
「〇〇です、よろしくお願いします」
「ギア3です、よ、よろしくお願いします」
たじろぎまくり。物理学科にきて、彼の症状はかなり深刻化していたそうだ。話を広げることもできず、軽い自己紹介で終わった。
始業時間になったので、さっそく仕事にとりかかる。
初めての仕事ばかりで、教えていただいたことを、必死にこなしていく。授業終わりの学生が、夕食(学生は夜のシフトしかない)を食べにぞろぞろやってくる。長蛇の列をなして。
店長は業務中、よく冗談を飛ばして、みんなを笑わしていた。もちろん真剣に働きながら。こういう上司になりたいな。
「ごめんギア3くん、ハーレムみたいなシフトになっちゃった」
と僕に向かって、言ってきた。このバイトを選んだ理由を、見透かされているのだろうか。
なんて返していいのかわからなくて、とりあえず笑っていた。横にいた女子も笑っていたが、あれはどういう意味の反応だったのか。
*
客足が少ない時間帯もあった。
一緒に働いている女子に話しかけようと思えば、話しかけられる。
・・・
結局、
僕は全然、話しかけられなかった。
環境のせいにしていたが、それはただ自分の問題なだけであった。
あと、
バイトが終わったあと、余った料理をみんなで食べるのだが、女子たちの会話に入っていけなかった。
店長もその時は、別のことをやっていて、その場にいなかったので、女子5人 対 僕1人だった。
たしか、あつまれどうぶつの森の話をしていた。本当は内容が分かるのに、知らないフリをしていた。
人見知りが炸裂したのだ。
そのシフトは、2ヶ月ほど続いたのだった。
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