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Spotify「David Jackson supported 20」

David Jackson という名前を認識してもらえる読者は、果たして何人いるのでしょう。Van Der Graaf Generator 略してVDGGのサックス奏者、と詳しく紹介したところで、かえって混乱するかもしれません。VDGG自体が現在では認知不足、というより、ほぼ絶滅危惧種のような扱いでしょうから。かつては (70年代)、プログレ好事家のあいだでコアな支持を集め、場合によってはクリムゾン以上の求心力を誇ったバンドだったのです。

David Jackson

で、VDGGの自作プレイリストを解説するのが本筋なのですが、これがずっと難渋しており、完成のメドが立ちません。この一年、幾度となく取り掛かっては頓挫。仕方がないのでスピンオフ形式にできるものから小出しにしよう、ってわけです。その一発目が David Jackson。

David Jackson が VDGGに参加したのは1969年です。再結成したバンドがカリスマ・レコードに移籍して、ちょうど 2nd「精神交遊」をリリースした頃ですね。VDGGは Peter Hammill 中心のバンドで、その特質を思いきり簡略化すると、詩人 Peter の内省的/文学的な歌詞をいかに音に乗せて表出するか、というもの。つまり、基本は歌詞偏重スタイルであって、多彩で演劇的なヴォーカルはときとして弾き語りに没入するため、バックを支えるサウンドには配慮が必要になります。D.Jackson のサックス・プレイにも、この特徴が露わです。Peter が囁いたり吠えたりするとき、メロディは途切れてリード部分が空っぽになります。その空隙を埋めるかのように、サックスはリード部分をユニゾンするのです。コード伴奏の厚みも担保しながら。

だから、まあ、David のサックスは忙しい、忙しい。彼のプレイスタイルでお馴染みのダブル・ホーン & ブロウ奏法は、パワフルで爆発力のある印象を如実に表していますが、それよりも、彼の献身性/オーバーワークを象徴しているようにぼくには見えます。

これは、実はVDGGを聴くときの (耳の) コンディションを確かめる指標になります。もし David のサックスがやけに耳につくなら、VDGGを聴くのに良い状態ではありません。反対にまったく違和感を覚えないなら、VDGGサウンドにどんどん溺れられるでしょう (似た例は、Steve Howe の手数の多いリード・プレイと Yes の関係)。それどころか、1972年の前期VDGG解散まではバンドがギターレスであることを気づかせないほど、David のサックス&フルートはサウンド面を支えます。前期の作品を聴いても、おそらく誰も不協和は感じないはずです。エレキのないロックなのに。

プレイリストの 1曲目に「Black Room」を持ってきたのは、パワフルなサックスのインパクトを印象付けるため。4曲目「Scorched Earth」では先述した D.Jackson の奏法を存分に味わえます。名盤「Godbluff」からのナンバーですが、この後期 VDGG (1974~76) が最盛期だった、とぼくは思います。プログレ絶頂期とは若干タイミングがズレていて (ロック史のエアポケットに咲いた徒花みたいで)、それもまたVDGGらしい。ことほど左様にプレイリスト前半は、70年代の VDGG & Peter ソロの、ホーン・セクションが前面に出たナンバーをチョイス、後半はその他のアーティストとのコラボ作品を収録しています。注釈が要るのは10 & 11曲目。The Long Hello の 2nd & 4th からのエントリーですが、本来 D.Jackson 名義は 3rd なのです。

あっ、The Long Hello は VDGGから Peter Hammill を除いたメンバーで構成されたインスト・バンドです。なぜか 3rd はサブスク解禁されていません。

もうひとつ、サブスクで解禁されていないのが1979年のレディング・フェスティバルにおける Peter Gabriel のサポートを務めた音源。Youtube もかなり漁ったのですが、D.Jackson の確認はできていません。VDGGがもともとプログレ草創期からの主要バンドだったので、まあ、この界隈のアーティストとコラボをするのは、もっともな話です。そういう意味では、Mel Colllins と否応なく比較されたのは、David には不幸だったのかもしれません。個人の技量は度外視で、所属バンドの知名度ばかりが先行したきらいもあって。ううむ、悲しい現実。

しかし、これはイギリスに限った話です。土俵を欧州に広げると (D.Jackson の名誉のために付言すると)、事情はかなり違ってきます。本質的に Peter Hammill の詩的世界が欧州の頽廃的な美学と通じやすいのは、想像に難くありませんよね。その好例が、前期VDGGの傑作「Pawn Hearts」。本国イギリスではお世辞にも売れたとは言えないのに、なんとイタリアのチャートでは堂々の1位を獲得しました。また Le Orme の名盤「Felona e Sorona」をカリスマ・レーベルから英国盤として発売した際には、その英訳を Hammill 自身が担当しました。欧州、特にイタリアでは、英国以上にVDGGの人気は高かったのです。そういった経緯を踏まえたうえで21世紀に実現した D.Jackson と Osanna のコラボ。

この来日ライブ、I 藤くんと拝めたのは幸運でしたが、結局 D.Jackson といえば「Theme One」に始まり「Theme One」に終わる、みたいなまとめになるのは、正直ぼくの本意でありません。むしろ、その逆を伝えたかったのになあ、まあ、文章を書いているとこんなことも稀にあります。


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