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Spotify「Maybeshewill 20」

いつかは書きたいと思いながら、今日まで延び延びになってしまったぼくの一推しバンド Maybeshewill。もうお気づきでしょうが、ぼくのアカウント名はこのバンドを文字っています。それほど愛して止まない 、ぼく的にはポストロックの期待の星だったのですが、いかんせん実績が……。もっとメインストリームで売れてもいいのに、という忸怩たる思いを抱きつづけた、ちょっと残念な/厄介な推しでもあります……。


2005年〜

Maybeshewill は 2005年、当時音大生だったギターの Robin Southby と John Helps を中心に結成されます。当初は、前面に押し出すギター + シーケンサーの彩り少々、といったいわゆる轟音ギター系のポストロック・サウンドでしたが、ベース Tanya Byrne とドラム Lawrie Malen が加わることで音質が劇的に変貌します。特に Tanya のドリルン・ベースは Squarepusher や Aphex Twin を連想させ、総合的な音質にブレイクコアの要素を持ちこみました。デビューEP (2006年) からかなりの完成度を見せた彼らは、期待に違わぬ評価を得て上々のスタートを切りました。

そのサウンドの魅力は、静と動の圧倒的なコントラスト。美メロピアノと爆鳴りギターが織り成す、優美なカオスに溺れます。

ぼくにとって Maybeshewill はポストロックの理想形でした。90年代後半からポストロックが注目されるにつれ、その主要な役割を担ったのは次の 3バンドでした。オルタナティブ系の耽美派 Sigur Ros、シカゴ音響派 Tortoise、轟音ギター系 Mogwai。なかでも最後の一派が、Mogwai フォロワーとしてギター・インストを重層的に進めてはいたものの、悪く言えば似たり寄ったりで、頭ひとつ抜け出すほど独自性のあるバンドはなかったのです。一曲だけなら記憶に残っても、アルバムとしては没個性、ましてバンドの名声が確立するほどの傑作はまだない……。Explosions In The Sky、Leech、God Is An Astronaut、Caspian、If These Trees Could Talk、Gifts From Enola、Russian Circles、sleepmakeswaves、etc……。

この流れから「新しい動きかも」とぼくの関心を引いたのが 65daysofstatic でした。Mogwai meets Aphex Twin、と形容されたように、このバンドには基本的なギター・アンサンブルにブレイクビーツの魅力がプラスされていました。2nd「One Time For All Time」を聴いたぼくは、次世代のポストロックはこの方向で決まりだ、と膝を打ったほどです。その要件をすべて兼ね備え、かつ凌駕していたのが Maybeshewill だったのです (この 2バンドの音楽性は非常に近しく、後発の Maybeshewill が先輩をぶっこ抜いたイメージがありました)。

2011年〜

2008年に 1st「Not For Want Of Trying」をリリースした Maybeshewill は、2009年に 2nd、2011年に 3rd、を立て続けに発表します。サウンドの基本構造は変わりませんが、ぼくがとりわけ魅了されたのが 3rd「I Was Here For A Moment, Then I Was Gone」です。叙情的なインスト・ロックでアルバム全体を貫きながら、お約束の轟音ギター、美メロを誘うピアノとストリングス、ブレイクコア、ミニマリズム、等々のエッセンスがバランスよく採り入れられ、ものすごい疾走感で駆け抜けます。Mogwai のギターサウンドに Sigur ros の多幸感を二倍速で加え、しかも Tortoise のマス・ロック的な変拍子をガンガン放り込んでくる、これはもうぼくの考えるポストロックの理想形/最終形ではないか。

と言えば、あまりに図式的ですが、2011年当時のぼくの認識はまさにそういうもの。いや、現在もその見方/評価は変わっていません。さらに、21世紀のロック・バンドには不可避な、ライブ演奏力 (人力プレイ) と電子処理 (サンプリング、打ち込み) の比重においても、Maybeshewill は完璧に思えたのです。エレクトロニクスの進歩は享受しつつも、人力で演奏する矜持は失わない、みたいな。

果たしてこの 3rdアルバムはシーン的にも大好評で、バンド独自の世界観を確立させることに成功した、と思えました。次作でもう一段ステップアップすれば、メジャーバンドとして認知されるのも時間の問題、それぐらいの期待を抱かせるには充分でした。

そして 3年のインターバルを挟み、満を持してリリースされた 4th「Fair Youth」……。これが、ぼく的には大いなる肩すかし……。

なぜか、アグレッシブなギターが影を潜めていました。全体的にマイルドな電子音のオーラを纏わせたサウンドに変わっていました。持ち味の「静と動の対比」はなくなり、ほとんどが静のテイストのみ 、大衆受けする路線を狙ったのならそっちは絶対ダメ、というほうの回答です。すると、2016年ヨーロッパ & アジア・ツアーから戻った彼らは、これまでのようなメンバーチェンジではなく、呆気なく解散してしまいます。

2016年〜

このあたりからです、ぼくとの波長がズレるのは。解散理由が分からないこともあり、ぼくは 4th「Fair Youth」の変節にそれなりの根拠を見出そうと試みましたが、正解なんてありません。頭のなかではずっと分裂症気味の独白が渦巻き、そのうち新型コロナのパンデミックに世界中が震撼。すっかり音沙汰がなくなったところに、今度は 2021年、ニューアルバムを引っ提げての再結成です。はあ? もう訳ワカメ?

ArcTanGent 2013

だ〜か〜ら、何がしたいのよ、きみらは。せっかく 3rdで確立したバンドのオリジナリティわざわざ捨てるような真似して。轟音ギターのないポストロックなんか、大谷翔平のいないエンゼルスみたいなもんやろ。耳をつんざくノイズと微かなピアノとの相克の果てにあるやな、なんつーか、カタルシスやな、そのカタルシスまで失くしてどないすんねん。それって生命線と違うの? オルタナ・ギターから繋がるロックの命脈やろ? 重低音のエフェクター続けろとは言わんけど、ギター音を消してゆく方向性っておかしくないか?  あっ、わかった、ひょっとしておもねったな? 2010年代は「ロック受難の時代」とか言われて、ビビりよったな。知ってるで、今時の若いもんがヒップホップや EDM に流れてるのは。

はじめて手にする楽器はサンプラーか DJ プレイヤーで、ギターがロックの基本つーことすら知らんらしいがな。ギター音どころか、サブスク時代はイントロまで邪魔って。はい、さーせん。映画「トップガン」でトムが言うとったやろ、今日じゃない、って。無人飛行の時代が来る、それは確かやろうけど「今日じゃない」。泣けたわ、オレはあそこで泣いたで。大体きみらだけやない、65daysofstatic も 2010年「We Were Exploding Anyway」以降まったくの別人になってしもた。Vessels も 2015年「Dilate」からはテクノアクトに振れてもうて、これまたギターレス化や。物理的な楽器と違うで。ギター音の非在化。ポストロック組は次々とギターレス化して、エレクトロ二カの方向に流されっぱなし。はい、あざーす。

それって時代の要請か? 未来志向のつもりか? そういや、きみらのメンバー交代な、特にベース担当、Tanya がすぐ辞めたあと 2、3人変わってから Jamie Ward に収まったけど、どうもオレは落ち着かん。ベースの影響って大したことないように見えて、実はメチャクチャ重要やで。Jamieって元 KYTE やろ、彼が 3rd以降ミキシングやプロデュースに関わってるのも、なんだかな〜。そーゆー意識で聴くと「Fair Youth」のフワッとアンビエントっぽい感じ、いかにも、やんか。同郷 (レスターシャ―) のよしみで変に Jamie に気つかってるとは言わんけど。ていうか、Robin なり John なり結成時からの中心メンバー、ほんまに音楽的イニシアティブとってるのか? ちゃんと腹くくってサウンドの方針きめてるのか? 

ArcTanGent 2022

2021年、Maybeshewill は新譜「No Feeling Is Final」の発表とともに再結成します。そこに至るまでには新型コロナによるパラダイムシフトがあり、彼らのクリエイティビティーにも大きな影響を与えたそうです。リセット。質/音こそ違え、ギターの存在感はたしかに原点回帰しています。

2021年〜

しかし、とぼくは思うのです。ロックを聴き続けて 50年超、これまでいくつものアーティストを応援してきた経験から、ある種の未来像はもう透けて見えます。本質的なサウンド面の革新がなければ、解散しようが再結成しようが、メディアに採りあげられることはなくなり、新譜を出そうがライブを敢行しようが、一部のファンが縮小再生産に付き合ってくれるばかり。厳しいようですが、それが現実でしょう。もちろん、商業的成功を尊ぶつもりは毛頭ありません。しかし、一般リスナーの熱狂は移ろいやすく、芸術的価値に目を瞑ってくれるほど寛大ではないのです。

↑ 二枚の ArcTanGent の序列 (あるいはフォントサイズ) を見てください。10年の歳月が流れても、Maybeshewill の収まる場所/大きさは定位置化しています。悲しいかな、同類に扱われるバンドのカテゴリーも。これが世間からのフィードバック (=現実) です。

実は、ぼくのプレイリストで「Maybeshewill 20」は唯一の未完です。1曲目から 5曲目までを最新アルバムから選曲したのは、過去を刷新したいけれどできない中途半端さを表しています。反対に 6曲目から 24曲目までは最愛の 1st~3rd から抜粋したかったところ、なぜか 2ndだけがサブスク対象外というこれまた中途半端のために放棄。結局どっちつかずのノンポリシーのまま打っ遣っています。自分でも笑ってしまいますが、決して自暴自棄になっているわけではありません。なぜなら、Maybeshewill の音楽との取組は、その逡巡や転向も含めて、現在もまだ続いているからです。そして、それはぼく自身の姿見かもしれないからです……。中途半端で、ひとかどの物事を成さず、周囲を傷つけ、誰一人として幸せにはできず……。

note でぼくが採りあげるアーティストは、結果的には有名どころになってしまいます。ただ、現実には Maybeshewill ほど売れず、一枚の公式アルバムさえ出さずに消えていくバンドのほうが多いことは、いつも心に留めています。世の中を成り立たせているのは圧倒的にそちら側、その等身大の姿をそっくり提示することも、ときには誰かの支えになるのではないでしょうか。勝利や成功とはまるで別の次元で。

不束かなバンドですが、よかったら試しに聴いてやってください。ぼくのアカウント名は今後も変えるつもりはありません。

1位「I Was Here For A Moment, Then I Was Gone」91点
2位「Not For Want Of Trying」90点
3位「Sing The Word Hope In 4-Part Harmony」88点
4位「No Feeling  Is Final」86点
5位「Fair Youth」81点

ライブ盤・コンピ盤は対象外

原題表記


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