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【映画感想】「ナポレオン」(2023)

すごく好きな作品でしたのでネタバレありで語りたいと思いますので、見に行く予定がある未視聴の方はそこだけご注意ください。



世知辛い値上げ

12月ももう第1週を過ぎかけて、ハッとしました。「水曜日は映画がお安く見れる!行かねば!」という事で、当日に予定を決めるなんぞ私には信じられないスピード感で予約を済ませ行ってきました。

昔語りになりますが、私が子供の時は映画館がそこらに点在していて2、3駅もあれば一つは見つけることが出来ました。今実家がある最寄り駅の駅前にもありましたねえ。
規模は小さかったですが一度だけ行った記憶があるので成人映画館ではなかった模様。当時は入れ替えもなく一度入れば、時間の許す限りずっと見れていたんですよね。懐かしい。

とはいうもののシネコン系の映画館はいつぶりだったか思い出せない私ですが、あまり設備は考慮せず、場所やその後の目的なんかで選んでいます。

音響や大画面にこだわりを見出したところで「どうせ見えんし、聴こえない」のですが、共感力でそこは補完。
映画館には家ではないワクワクと非日常感、その世界観に没頭できる、鑑賞のみに集中できるというメリットだけで行っております。
逆に見ず知らずの人が視界にいることで乱されることもありますが、それもまた修行。

まず、シアターをどこにするか?

リドリー・スコット監督の作品とあらばIMAXで見ないわけにはいかんでしょ、とばかりにそれ以外の選択は不思議と最初からなかったです。

今日こそは余裕をもっていくんだと思ったにも関わらず、またしても時間に追われてしまう。不慣れな場所なので最短ルートのつもりがシミュレーション通りにいかない。バタバタとして座席につきましたが、映画泥棒にはなんとか間に合いました。

IMAXはたぶん「ファンタスティック・ビースト 魔法使いの旅」以来なので7年ぶり!本編までこんなに長かったっけと思いつつ「SPY×FAMILY」の予告でヒゲダンの『SOULSOUP』流れて思わずニッコリ。
結果的に前の座席を確保する事で視野が狭くなってピントも合わない感じになってしまったのとシートがイマイチしっくりこないのが惜しかった。
規模と比べて前列すぎるのもあるんだろうけども、少し前に「オオカミの家」で行ったシネ・リーブル梅田のシートがめちゃくちゃ良かったので、ちょっと比べてしまいます。

しかしスクリーンの大きさや大砲の射出音なんかはすごく良かったです。ブルブルと振動が腰骨にくるほどの伝わり具合。
あと作中にクラシックや民族音楽っぽいのやら音響にはかなりのこだわりが感じられたのでその点はIMAXを選んでよかったと思いました。

絵画のように美しい

冒頭はいきなりマリー・アントワネットの公開処刑。断頭台へ向かうシーンから始まります。映像が優美でリラックスしている最中に、興奮した群衆から発せられる罵声やら暴力といった負のエネルギ―がスクリーンから漏れ出してくる。「開始5分でいきなりのグロか!」と場内で高まる緊張を感じずにはいられない。

しかし混乱の中でも、頭はそうやって固定して…上の刃は黒く染まっているが錆びないのかなとかどんな構造をしているのか考えるように仕向けられているようで、自ずと自分もその広場に存在しているかのように誘導されていく。アントワネットの首を持ち上げたりするもののそんなにグロさは強調されていない撮り方で、精巧に作られた生首に美しさを覚えるほどでした。

ホアキン・フェニックスの目元も直線的で彫りが深くて人間らしくないというか絵画に最適化した美しさの造形をしているなあと感じます。


内容は簡単にいうと

ナポレオンと最初の妻ジョゼフィーヌとの出会いから、かなり癖のある結婚生活を経て、世継ぎを得られないという事から世間体のために引き裂かれてしまう二人といったストーリーが本筋としてあります。
その肉付けに戦争シーンがあるような感じ。しかしその戦闘シーンがガチガチに鍛えられたマッスルボディなのです。

戦時下に置かれた極限の中で交差する精神のぶつかりあいや飛び散る弾丸や肉片などリアルすぎる描写を得意とするスコット監督。ナポレオンという誰もが知る人物をタイトルとしていることもあって史実を描くことに重きを置かれていると期待していた人も多く、かなり賛否両論な作品でとにかくフランスでの評判がめちゃくちゃ悪いらしいです。

最初のシーンで大砲が直撃して馬が可哀想な事になるシーンがあったり、
当時社交場として賑わっていた劇場で「ギロチンハレルヤ」と歌いながら笑う貴族たちのシーンとかはちょっと皮肉的過ぎるのではないかなと思わなくもなかったですが、一切笑っていないナポレオンと対比するために必要なカットであったとも言えるし何とも微妙ですね…

そんな緊張の連続にあっても豪邸に住まわされている犬も沢山でてきてそこの緩和も効果的であったりします。中世フランスでの金持ちであるステータスか貴族はみんな犬を抱いています。
ジョゼフィーヌに雑に抱かれたポメラニアンがドレスの生地に何度も足を滑らせているシーンが一番お気に入りです。

性的な表現も監督の作品にはよく見られますが、行為真っ最中の二人があけすけに映し出されていても無表情だったりなんとも作業的。素っ裸の間男のお尻が大写しになり「見えちゃう!」となるのですが、とにかく部屋が豪奢だったり映像が美しいので下品に感じられません。

あと食事シーンもわりと多く、そこでのコミュニケーションが割と重要な分岐になっていたりします。ショートスリーパーだといわれていたナポレオンですが会議中に居眠りを決め込んだり三大欲求が懇切丁寧に描かれていると感じました。

”何かを変えることが出来る人は

       大事なものを捨てることが出来る人だ” 


進撃の巨人でアルミンも言ってました。なかなかの名言ですね…

同盟を結んだはずのロシア皇帝に寝返りをされ、忠義を尽くしてきたフランス軍からは何度も追放を言い渡され、ナポレオンが突き進んできた革命というものにはまた別の方面からの革命がつきものです。

プライベートも当然ハードなものでありました。
そもそもがむしゃらに熱意をもって仕事に取り組んでいかねばならぬ立場の人はプライベートなんてあるものではないのかもしれない。

出世したナポレオンも世継ぎを作ろうと奮闘するのですが、なかなか恵まれず苦渋の選択を強いられます。
世間体を気にしていたのでしょうか?当時のフランスはそこの婚姻関係が不可解です。
武家社会の日本も似たようなものだったと思いますが、上流階級では政略結婚しか考えられなかったらしく未亡人であるジョゼフィーヌとの結婚も型破りなものであったと推察できます。
日本とは違いフランスでは妾や側室のように公に持つことは許されず、愛人や不倫はスキャンダルとして不名誉な出来事。ですが実際のところ蓋を返せばやりたい放題といった有様。

戴冠式を迎え皇帝として最高位にあったナポレオンですので子供が出来ないとなるとどれだけ愛しあっていようが「離婚」せざるを得ないという辛い結果が描かれています。

18歳の女性を相手に「実験」をしたところナポレオン自身に不妊の問題があるわけではなくジョゼフィーヌとは離婚することになってしまいます。
ジョゼフィーヌも前夫との間にすでに二人子供がいたのでこればかりはどうしようもなく。
二人をつないでいた愛という絆も執着のように憎しみも絡み合っている様相でしたが、離婚式のようなものをやっていたのがまた新鮮でした。
婚姻関係が継続出来ない理由を泣きながら復唱させられ、書類にサインします。その場面が衆人環視の中、執り行われていました。

そのシーンがまた象徴的で、作品の終盤シーンへの伏線となっているのですが…今思い出してもまた胸が熱くなります。

ジョゼフィーヌと離れてからボロ雑巾のようになってしまうナポレオン。
犠牲や手段を問わない圧政を続け畏れられた彼は王位をはく奪され、エレナ島へ流されてしまいます。
本国がカオスな状態にある中、奮起して本土に戻ってくるのですが、その少し前にジョゼフィーヌは病死していました。ナポレオンはその事実を知らされる事もなく。

そしてワーテルローの戦い。ここの戦争シーンも瞬きを許さないほどの見どころ満載です。

そして敗北、セントヘレナ島への二度目の島流し。

島流し中はあまり詳細に描かれておらず淡々と進んでいきますが、持ち前の忍耐力で口数少なく忍んでいたのでしょうか。
ジョゼフィーヌが亡くなるまで手紙を書き続け、今際の際に彼女の名前を呼んだ事からも、彼女の存在がどれだけナポレオンの心の灯であり衝動の礎であり続けたのか伺えます。

完全版が存在するらしい

なんとこの158分の本作とは別に4時間の完全版も存在していて、のちに公開されるかもとの情報もあるのでそちらも楽しみに待ちたいと思います。

余裕がなく映画館で同じ作品を複数回見たことはないのですが、こちらはもう一度見たいと思えるほど感情移入できる内容でした。

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