塩谷司選手の移籍について:過ぎたるは及ばざるがごとし


塩谷司選手がUAEのアルアインへ移籍することになりました。

このタイミングでの移籍は正直驚きましたが、彼自身の陥ってしまった境遇を考えるとスピード決着は当たり前というか、それくらい救いようのない状況になっていました。パンクした状況のまま出場することが続いていたので。クラブとしては言うに及ばず。むしろよく売り抜け綺麗な別れにしてくれたなと思います


◆相思相愛の過剰と使命感の過剰

塩谷司が水戸ホーリーホックからサンフレッチェ広島にやってきたのは2012シーズンの夏のこと。森脇良太の後釜としての獲得でした。

撃退守備の名手として、貴重なサイドのロングパサーとして、そして前線が膠着した時のパワープレイヤーとして、2013年の戴冠を期にサンフレッチェ広島の中心選手となった塩谷司は青山敏弘とともに5年契約を結び…さらっと書きましたが、5年契約を結べる体力がつくまでに紆余(浦和に)曲折(年貢かよというレベルで毎年移籍すること)がありました…森崎兄弟&佐藤寿人に続く広島の旗手になることになります。県外から広島に来てくれて活躍した選手あるあるですが(広島で育つと外に出たいという気持ちもよく分かる)、塩谷司も広島と相思相愛の関係になっていきます。

持ち前の攻撃性能…ウイングのタイマン優位を生み出すロングパス、中空の青山の横スペースに持ち出しボールを前進、そして最も卓越していたフィニッシュ…と前線選手の相次ぐ移籍によるダイレクトプレーの機能性低下、それによる青山敏弘のタッチ数とプレーエリアの低下があいまって塩谷司はサンフレッチェの攻撃のほとんどすべてを請け負うことになりました。

ドリブルを仕掛ける数はウイング並みに多いですし、1トップ2シャドーで崩し切れない上にウイングはサイドでタイマン限定な現在の広島では後方からのサポートはほとんど塩谷一人の仕事になっています。ボールの前進をほとんどすべて依存していたといってもいいかもしれません。(パスサッカーとは…?)

それでも塩谷はそれに応えるかのように目の覚めるようなドリブルやスーパーゴールを炸裂させ続けますが(応え続けてくれたのも異常なんですが…w)、機能不全の攻撃陣に代わって最前線でフィニッシュに絡む・本職の撃退守備のために全速力で自陣に戻るという奇妙な二重生活を強いられることになりました。たまにならいいんですが、2014シーズンでの威力が凄かったためもう前線に固定しろよレベルでの恒例行事になっていきます。

2015シーズンにはドウグラスというクロスとショートカウンター絶対沈めるマンと浅野拓磨というロングカウンター兵器がそろっていたので、速攻で攻め切ることが出来ポゼッションは休憩という意味合いを持たせることが出来たので、塩谷も切り替えで落ち着けていたのですが、浅野拓磨が旅立ちピーターウタカとチームの歩み寄りで拗れてしまった2016年シーズンあたりにこの歪さが目立ってきます。それがちょうどひとつのピークに来ていた時期が、リオ五輪でした。

リオ五輪直前の塩谷は3-5-2の右ストッパーとしてますますオープンスペースが増えたので、モリモリ進出してスーパーゴールを量産していましたが、それ以上に広くなってしまった守備範囲で苦しみマークを見放して失点の原因になることが続出していました。決して状態が良かったとはいえないでしょう。

リオデジャネイロでのパフォーマンスはご存知の通りで、OAの意味がまるでない結果になりました。塩谷が不在の間に右ストッパーを務めていた宮原和也もさすがに課されるタスク多すぎ状態をさばききれず目立ったパフォーマンスを見せられなかったのでほどなく復帰しましたが、五輪に行く前よりもますますの落ち込みをみせていました。あとで雑誌で知ったことですが、かなり落ち込んでいたようですし、その落ち込みを振り切れないまま2017シーズンに差し掛かっていたようです。(ネットの書き込みとかみるなよ…w)



◆ズブズブ共依存カップルを断ち切ってくれた白馬の騎士


過大なタスクを使命感を背負って追い詰められる気質の選手とその選手にチームの旗頭を任せてしまったクラブ。プロテクトも5年契約を結びなおして万全で、スタメン争いをしていた生え抜き選手たち(宮原和也・大谷尚輝)もごっそりレンタル脱出してしまい、悪い意味で絶対的な選手になってしまいました。

ハイプレス導入の模索で守備範囲は2016年よりも広がっていましたし、前線メンバー総入れ替えにより攻撃参加はますます必要とされました。そりゃ試合もめちゃくちゃになりますよね。今でも思っていますが、そういうサッカーはACLのターンオーバーでしていたのでその時のメンバーを中心に据えるべきだと思いますし、右ストッパーに大谷尚輝を試してほしかったなと思います。

左ストッパーに塩谷の負担を減らすことのできていた佐々木翔の復帰が順調に進んでいればもう少し違ったでしょうが、悲劇というものはよくできています。2017年は塩谷司が明確に狙われる場面が目立ってしまいました。

攻撃参加は格好のカウンター機会となってセットプレーでも明確に穴認定(札幌の四方田監督が明言していましたが素人にもわかるレベルで振りに弱いのですべてのチームがそう思っているでしょう)されており、落とした試合は数知れず。特にハイプレスは諦めましたと転換した試合(横浜FM)でのセットプレーの軽率な失点はチームに与えたダメージとしては甚だ大きく、今に至っています。

もちろん彼個人よりもチーム戦術がどうしようもない責任なのですが(森保監督にもう打つ手がないことはハッキリしているんですが…)、今季はますます使命感と現実のジレンマを生んでいたような状況に見えていました。青山敏弘にも言えることですが、これだけ穴認定されて出場させられ続けるのは精神的に参ってしまっても不思議ではないのではないかと思います。見ていた私は3月ですでに参った。2007年の降格時も森崎和幸が同じ状況に陥っていましたね。それで出場させざるを得なかった、そういう関係性が両者にはあったと言えるでしょう。歴史は繰り返すのか…

そのような状況で現れたオイルマネーはまさにホワイトナイト。ここ1年の塩谷を見てると「なぜ?」という思いしかないところが率直なところですが、サンフレッチェ広島の戦術面・象徴面でのズブズブの依存から解放され、遠い異国の地でリフレッシュできるだけでもだいぶ違ってくるでしょう。ドウグラスを見るためにUAEリーグをチラ見したことはありますが、ゾーンとかコンパクトとかへったくれもなく広島ではわりとポジショニングが迷子だったドウグラスさんでもさっくりとクロスにフリーになれていたレベルでした(ワントップが普通に機能していることにも驚きました)。DFは筋肉が全てを解決する形なので向いていそうです。塩谷は外国籍選手にやたらと強かったのでそういう意味でも向いているかも。

塩谷の移籍をきっかけに状況が改善すると思うほど純粋ではないですが(たぶんそもそも何を直せばいいのかがわかってらっしゃらない印象があるような試合を繰り返している)、歪になってしまった"広島のサッカー"の破局スピードを遅らせること以外に何もできない惨めな現状を少なくとも加速させることはできるでしょう。

機能不全になっている現状の維持を選択し続けて希望も何もあったもんじゃないのですが、白馬の騎士の登場で少し気持ちが上向いてきました。より深刻な破局を迎えたとしても、まだ動かざるをえないだけマシなのではないかと思う程度には現状は惨めですので。

まだかろうじて残留"争い"であるうちに現状の打破にチャレンジしてくれれば。おそらく森保監督では手に余るミッションであることは昨年後半からの試行錯誤で示されているのですが…どうなっていくでしょう。

サンフレッチェ広島の"理念"とは果たして"忍耐"という言葉で誤魔化した"放置"と”依存”のことなのでしょうか。少なくとも自分がサンフレッチェ広島を見始めたころの"理念"はそうではなかったと思います。


では。