アッレグリ論文「中盤3枚の特徴」とサンフレッチェ広島の中盤3枚の在り方―地獄の残留争いを楽しむ方法のひとつとして

どうもこんにちわ。2週間の中断期間を経ていよいよ地獄の上位連戦が始まります。

状況を整理すると、サンフレッチェ広島は16位と勝ち点差なしの15位。そして残る対戦相手は鹿島、川崎、浦和、神戸、FC東京、柏となっており上位陣との対戦が続きます。こうして並べるだけでもちょっと帰ってパラッパラッパーでもしようかなという気持ちになってきます。

とはいえ、ヤン監督体制になってからは試行錯誤が試合の中で効果的に見える形になってきています。いわゆる「成長」を感じている今日この頃。それを頼みに立ち向かえればというところです。

中断期間を経て今節は4-2-3-1から4-1-4-1に変更しそうだと小耳にはさみました。布陣変更によってどのような変化がみられるでしょうか。

逆三角形の中盤といえばマッシミリアーノ・アッレグリによるUEFA-Proライセンス修了論文が公表されたことで話題になりました。この論文を見てみることで、三角形型の中盤がどのような狙いで用いられているのか、どのように動けば「成功」なのか、なぜ成功/失敗したのかというところを判断する基準にできれば、試合の中身をより楽しめるのではないかと思います、ということで小話をこさえてみました。

なお、10年以上前の論文なので、近年の実務レベルでの構成や構成論自体の在り方とはいささか離れているところもあると思われますが、この論文ほど日本語のテキストで簡単にアクセスでき体系的なものを知らないのでこちらを用います。もっといいのがあるぞとご一報くださると上階の床を破らんばかりに飛び跳ねます。宜しくお願いします。

引用元:マッシミリアーノ・アッレグリ「中盤3枚の特徴」 http://schumpetercalcio.hatenablog.com/entry/2017/08/01/194500

◆逆三角形型の中盤3枚

4-1-4-1ないし4-3-3という表記で表される選手の配置は、4人のDF、サイドと中央に1人ずつ配されたFW、そして自陣ゴール方向へ頂角の向いた逆三角形型の中盤のという形になっています。

便宜上背番号をつけて各ポジションを呼称します。脱線しますが、なぜこのポジションがこの背番号なのか…というところも歴史があり、深みがあります

サッカーの背番号 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%81%AE%E8%83%8C%E7%95%AA%E5%8F%B7

この論文では中盤の底を「4番(レジスタ)」、前目の中盤を自陣右から「8番、10番(インサイドハーフ)」と呼びます。

◆逆三角形型中盤3枚に求められる資質

さて、さっそく論文から引用する形で各ポジションの役割と求められる資質についてみていきます。元論文では図解付きで詳しく説明しているので、参照してください。

①中盤の底(4番、レジスタ)

理想的なレジスタとして最初に求める要件が
・守備時の中盤2人と前線3枚を統率できるようなカリスマ性
である。
また、自チームが攻撃を終えた際、レジスタはボールを奪い返すために中盤2人と前線3人をすぐさま正しいポジションに呼び戻すことも重要である。
他に挙げる資質として、
・チームに時間を与えるためのテクニック
・ボールを回す必要がある際に手早くプレイし、味方全員の基準点として機能するよう常にマークを外しておくためのポジショニングのセンス(戦術的センス)
・素早くカウンターに移り、特にプレスをかけられているときにサイドチェンジを行い、また敵の守りが薄いと思われるエリアを容易に突くために、長く正確に蹴れるような精度
がある。

さらに、レジスタは縦パスに長け、ポジションを離れてはならない。相手のDFやMFがFWに向けて出す縦や斜めのパスを防ぎ、守備時にフィルターとして4バックを遮蔽できる(図6)からだ。
したがって、戦術的センスたるポジショニングのセンスはレジスタに最も重要な特質だろう。
スペースへの飛び出しについては、中央のエリアを空けないために回数は少なく熟慮の末になされるだろう。
したがって、レジスタは最も重要なゾーン、つまり中央のゾーンにバランスをもたらすことを期待される。

攻守におけるコントロールセンター、司令塔の役割を握るのがこのポジションになりそうです。ワンボランチ状態になるわけですので、すべての局面において高水準の関与が求められてきます。

②インサイドハーフ(8番、10番)

レジスタと異なり、2人のインサイドハーフには走力が必要とされる。特筆すべき理由として、1人のCFと2人のウイングでは攻撃のための人数が足りず、彼らの飛び出しが多く必要であることが挙げられる。
それはミドルシュート、あるいはクロスのようなとりわけ逆のサイドから作られるコンビネーションでフィニッシュへ持ち込むために重要である。

4-2-3-1の状態ではトップ下(3の中央)が常駐するので敵陣に攻め込む枚数を用意しやすいのですが、中盤が逆三角形になった場合、インサイドハーフの飛び出しがなければ相手の守備を打ち破る物量が足りなくなってきます。守備の際にも2トップで行っていた前線の守備の枚数も1枚減るので、それを補填するのもこのポジションの役割です。

そのため、中盤前の2枚には敵陣と自陣を往復するタフネスが何よりも求められます。

通常、片方(伝統的に「10番」)が満たすべき資質に
・ドリブルで相手をかわして数的優位を生み出すこと
・ラストパス
・ミドルシュート
を挙げ、とりわけ
・前線3人がフィニッシュに持ち込めるような縦への展開
を求める。
もう一方の「8番」としての要件については、「10番」とは異なり、
・より高度な戦術のクオリティ
・より中盤の仲間を助けること
・守備時により動くこと
・レジスタがチームにバランスを与えボールを奪取するためのサポート
を挙げる。
「10番」よりテクニックが劣っていたとしても、プレイに関与しフィニッシュ(ミドルシュート)まで持っていかねばならない。
さらに、「8番」はヘディングに強く(ゴールキックからの競り合い)、優れたフィジカルの持ち主である。

そして2枚のインサイドハーフはより前線でボールを持てる選手とより中盤のサポートに秀でているタイプとで色分けがなされています。空中戦要因としても計算されなければならないというところも中盤としては特徴的でしょうか。

◆サンフレッチェ広島の中盤3枚について

さて、ヤンヨンソン体制からサンフレッチェ広島は4-2-3-1の布陣で戦ってきました。Jリーグで一時代を築いたシステマティックな3-4-2-1が内憂外患により機能不全に陥ったためです。

※脱線※

このあたりは五百蔵氏の丁寧な分析シリーズがあり、傷心の身に沁みました。2014シーズンから続いてきた戦術更新の失敗の歴史であることも見逃せない点ではありますが、その部分の考証は広島を継続して追いかけている者の責務でありましょう 

森保一は、広島に何を残したのか。栄光をもたらした戦術を徹底分析https://victorysportsnews.com/articles/4687/original 

森保一の広島は、なぜ機能不全に陥ったか。最後の一手が尽き、万事休すhttps://victorysportsnews.com/articles/4706/original

※脱線終わり※

中盤3枚の構成は、ほとんどの試合で野上、青山―柴崎晃誠の敵陣方向に頂角の向かった三角形になっていました。

一方、「4番」「8番」のボランチ2人と「10番」のトップ下1人で構成される場合、3人全員が備えるべき特質は上述したそれと全くもって異なる。
両ボランチはチームのバランスにとって重要である。

彼らは中央のゾーンを空けてはならない。常にプレイに関与するとしても、攻撃時に常にボールのラインを超えてはならないし、守備時にはなおさらである。

ボランチの一方はビルドアップで4バックの基準点であるためにレジスタの特徴が要求される。
もう一方は、運動量、走力、ヘディング能力を備えねばならない。
後者はかつてクルソーレと呼ばれた選手である。

そして、両者には、守備時のDFをプロテクトし、チームにバランスをもたらし、攻撃の担うトップ下と前線3枚へ絶え間ないサポートを行う役割がある。

中央の防護に優れた野上、レジスタを期待しての青山という中央の2枚は試合が進むにつれてその狙いが形になりつつありますが、どうしても攻撃時の精度の低さと枚数の少なさが勝ち点を稼ぐ機会を減らしてしまっていました。柴崎晃誠も「10番」というよりは「8番」寄りの選手であり、質の高いフィニッシュはパトリックに当てた準速攻に限られていました。

その中でギリギリのタイミングでしたが、フェリペシウバが「10番」としてフィット。(3-4-2-1下ではスペースとプレーの制約の多さに全く発揮されなかった)フィニッシュワークの才覚を見せつつありますし、稲垣祥はカバーの判断で少し危うさを感じますが攻撃時の枚数不足と守備時の強度不足を解消しうる卓越した運動量を見せています。

交代出場で中盤の戦術的な質を劇的に向上させていた森崎和幸の離脱は非常に痛いのですが、中盤に個性が揃ってきました。前線のタレントになれそうな宮吉が再びの長期離脱というかなしみの最中、皆川もパトリックと被るということで4-1-4-1の試行ということになっているのかもしれません。工藤壮人さん is どこ…

スタメン予想では「4番」=稲垣、「8番」=青山、「10番」=柏となっています(*)。どちらが8番でどちらが10番かはちょっとアレですが、最も「10番」らしいフェリペがサイドに配されいるのが面白い。

(*)http://www.totoone.jp/blog/datawatch/detail.php?mid=11273&tid=479 より

柏好文は左ウイングのころから中央に入り込む形で広島のフィニッシュ局面の数少ない有効な選択肢の一つになっており、ヤン体制下では日増しにその頻度と連携が高まっています。運動量に秀で、攻守のどこにでも顔を出し、飛び出してフィニッシュ局面の精度を高める、言われてみればまさに「インサイドハーフ」かもしれません。

といってもプロ入り前はトップ下だったとはいえずっとウイング一筋の選手なので不安しかないですが…絶対に中央から離れちゃダメなポジションに動いてナンボの稲垣がいるのも怖い…どうなるんだ…w

蓋をあけてのお楽しみ。残留を争える喜びをかみしめます…

では。

◇追記◇

鹿島戦、見ました。本当に4141でした。いい意味でも悪い意味でもたまげた...これ、あと5試合、上位との試合しかない、降格圏内の緊急事態で、やっていい賭けなのか、、わしには分からん、、、

◇追記の追記◇

鹿島戦翌日の練習試合でも試しているという噂を耳にしたのでこれはチームがもう腹を括っていると考えるべきだと判断します。ワイも腹括るわ。