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【補論】ファジアーノ岡山のサッカーとヴァンフォーレ甲府による攻略について



現地観戦記に記した通り、岡山は甲府に完敗を喫することになりました。「完敗」と表現したのは、この試合が岡山の築いてきたサッカーの仕組みを丸々逆用された形だなあと現地で見ていて感じたからです。

上野監督の展開した今節のサッカーは攻守共に精緻で、淀みなく変化する幾何学模様に感動しました。サッカーを観る楽しみにはシンクロナイズドスイミングに近い側面があると気づかされます。

今回は観戦記の補足として、そのへんもうちょっと詳しく、というentryをこさえてみました。まあ、今年は全然試合の分析が出来ていないので一種のリハビリテーションです。



◆スターティングメンバー


両チームともに並びは3-4-2-1。甲府は水曜日に大宮と順延分の試合を消化しており、逃げ切り勝ちも中2日のハードな日程。岡山は不動の右ウイングであったむっくん負傷のお知らせでおじさんが個人的に死にます。DFラインが負傷でしょっちゅう固定できないのが悩ましいところです。







◆ファジアーノ岡山のやりたかったこと


まずはファジアーノ岡山のやりたいサッカーについて。今季の試合内容からして目指していそうな内容についてまとめてみています。



①ボールを持ったらサイドの裏にFWを走らせ1対1背走を狙う。そこで競り勝って攻めきる速攻か、折り返して中盤のサポートを使ってクロス攻撃へ。


岡山が第一に狙うのは裏に抜けるFWを狙うフィード。今季はイ・ヨンジェ、斎藤和樹といった強さとスピードを兼ね備えサイドに開くことに強みのあるFWを揃えています。残念ながら負傷などでメンバーが揃う期間が少ないのですが、序盤はイ・ヨンジェが強烈なプレーを見せスタートダッシュを牽引し、斎藤和樹も夏ごろまでの間にサイド攻略FWとして定着しました。(なぜかチームで一番クロスがうまい)

また、仲間隼斗は両者に比べて小柄ながら競り合いでの身体の使い方とドリブルの技術、スピードが図抜けており、サイドに開く第一FWの代わりにゴール前を攻略する役割で活躍しチーム最多ゴールを生み出しています。







②フィードが塞がれている場合は3バックのポゼッションから両ボランチを経由してコースをつくり直す。基本的には最終ラインで長くボールを持ったりはせず可能な限り前にボールを移す。





映像ではカットされているのですが、もちろん相手も守備をするわけで簡単に裏で勝負させてもらえません。そういうときは遅い攻撃になってくるわけですが、基本的には2,3回最終ラインでパス交換をして前のコースが見えたらそこまでロングボールを蹴る形になっています。ボランチまでプレッシャーをかわせた場合はボランチからより正確なフィードを飛ばします。

撤退されてしまって運ばないといけないなという場合は左サイドのストッパー喜山康平、ボランチの上田康太を中心に運び、敵陣で仲間隼斗・ウイング三村真のドリブルを狙う場合が多めになっています。

右サイドはあまりよくわかっていませんが、基本的にはむっくんとサイドに開いた前線の選手とのアドリブ的なやりとりでボールを進めるようです。むっくんが欠場した今節はびっくりするくらい右サイドが音沙汰なかったのはそのへんが関係しているのかもしれません。


③ボールを奪われたら基本は前線5人で前進守備を狙うが、それが無理なら中央のレシーバーを潰しながら撤退し5人-4人の2列隊形でゴール前封鎖。いずれも目の前の相手を1対1対応で捕まえることに重点。


守備に関しても攻撃と同じく理想は敵陣で完結させること。3-5-2のときと3-4-2-1のときがありますが、いずれにせよ前線は最終ラインに寄せに行きSB誘導からウイングとボランチが連動して奪いにいきます。サイドの数的不利をカバーするためWBは積極的に前に奪いに出てきます。

前からいけない状況の場合は5-4-1の形で撤退。自陣を固めて目の前の選手を逃さないことで相手の攻撃の進行を食い止めます。増田繁人、濱田水輝の加入によって最終ラインは高身長なっており純粋に跳ね返す力があがっていますので簡単に蹴らせるのもOK



④ボールを奪ったら膠着させた自陣をすっ飛ばして①→②のループを出来るだけ狙う


そうなっている状況がいわゆる「こちらのペース」というやつです。


⑤困ったら上田康太のセットプレー。まず1対1の球際が大事。球際は裏切らない。


自陣にせよ敵陣にせよポゼッションはほとんど志向しないので、ボールを持たされる状況だと結構な頻度で困ります。そういうときもセットプレーの決定力が高いので崩しの方法を練っていくというよりかは試行回数を増やして①のチャンスを増やしていきたいという志向のようです。キッカーはレフティ上田の他にも右足の伊藤大介や今季加入の末吉隼也と豊富。ロングスローもあるよ。

通底しているのはボールの取り合いで負けないこと、「球際重視」の姿勢であると言えそうです。






◆現実に起きたこと


というような上記の「岡山のサッカー」が今節では全くできませんでした。この岡山の仕組みを機能させない周到なサッカーを甲府が展開していたからです。



❶1対1対応を逆手に取るJ.バホス起点の攻撃


まず、岡山はほとんどボールを奪うことができませんでした。岡山のボールの奪い方は目の前の選手とタイマンを制すというものが基本線、なので、誰とタイマンを張るのかをはっきりさせることが守備のポイントになります。

岡山の選手が自陣を守る際は視界に捉えた選手を捕まえるという意識が高く、それぞれの選手が個別に目の前の選手を捕まえても計算の合うように守備に人数を割いています。特に今節は同じ3-4-2-1だったので、岡山の後ろの5人は甲府の前線+ウイングの5人を完全に1対1の関係で押さえるようにしていました。

そのため甲府は最前線のJ.バホスを中盤に近い位置まで引っ込めることでこの1対1対応の関係を惑わしにかかります。そのままDFの選手が付いていくと、ゴールががら空きになってしまいます。ゴール前を守るという役割を優先すると1対1の関係が崩れてボールを奪えなくなってしまう。

岡山はこのバホスへの対処がうまくいかず、もちろん奪いにいくのですが体格で劣るストッパーやボランチが寄せ、タイミング的にも後手となり背負われてしまいます。甲府はバホスのキープによって生まれる時間とスペースを曽根田と小塚の2列目に飛び込ませることでゴールに迫り、これが面白いようにはまります。





二点目が特に象徴的で、エデルリマの攻撃参加によって目線が変わったところからあれよあれよと1対1をはがされてゴールまでいかれてしまいました。まさしく岡山の守備がhackされたというシーン。これは生で見られて感動してしまった。下口と上田の対応のまずさはなかなか象徴的なところです。マークの受け渡し、どうやって侵入を止めるのかという組織的な意思疎通で混乱が起きてしまっていることがうかがえます。 





❷自陣殺到によって仕組まれた遅攻からの反転攻勢


バホスが降り、中盤の6人が取り囲むようにパスをもらう形は守備の人口密度でも利点となり、岡山に思い通りの速攻を許しませんでした。ボールの逃げ場となるボランチとウイングへの戻りながらのマークは執念を感じるレベルで、前線の厳しいチェックを受けるDF陣からいいボールが飛んでこないのでイヨンジェも仲間もほとんど競り勝てず攻撃の形はほとんど見えないまましたたかに3トップにカウンターを許すことになります。


GK時の岡山は伊藤大介がトップ下気味の3-4-1-2で珍しい並び方だったのですが、おそらく3バックのサイドを前線二人で狙って伊藤大介はどちらのサイドにもサポートに行けるようにしていたのではないかと思われます。ビョン・ジュンボンがあんな競り勝つと思ってなかったので(新卒時の印象だけで見ててごめんね)ほとんど甲府ボールになってしまっていて、伊藤大介は右サイドの守備に追われているうちに交代となったのでここのところは不明です。課金サイトなどで教えてくれたのかもしれませんが...


結局リカルド・サントスに加えてジョン・チュングンまで投入してパワープレイで押しきった残り10分まではたったのシュート2本。パワープレイからのセットプレー攻勢だけで7本のシュートはこれはこれですごいなとは思うのですが、中2日で足が止まってしまった甲府のパフォーマンスによるところが大きいでしょう。交代投入のフェフージンだけ異様な元気さで笑った。疲労困憊のチームに一人ナチュラル・ハイがいて浮きまくっていました




◆未来へ

ファジアーノ岡山の試合を真剣にみるようになったのは昨シーズンからなのでその期間に限った推測にすぎないのですが、上記した「岡山のサッカー」は昨年から大きな変更はなく、長澤監督の志向であると思われます。

今季は昨季よりも積極補強を行っているように見受けられますし、実際ポジションごとの選手の能力は昨季よりも高くなっているように感じます。それによる恩恵もあれば、個々のポジションを補強できているのに一緒や、というような今回の負けっぷりもあり。順調に大きくなっているクラブだと思われるのですが、悩ましい局面になってきているでしょうか。

リソースの大きなクラブが普通に居座ることが増えていたり、革命の風がスペインから吹いていたり、曲者監督の巣窟になっていたり。J2リーグ自体が大きく変わっている中で岡山はどのように舵を切っていくのだろうかというのは面白いテーマかもしれません。とりあえずはむっくんの肉離れがはやめにカムバックすることを願っています...


それでは。