20150918_05ホイアン

ゆずれないもの/おじさんとの戦いと葛藤(ベトナム・ホイアン)

旅2日目 ベトナムの朝は早い

宿の前の細い通りをバイクが往来する音で目が覚めてしまった。

外で朝食をとりながら、三人乗りのバイクや天秤棒で野菜を運ぶ人が道を行き交うのを眺めていると、ベトナムに来たんだなぁと感じる。

12時のピックアップまで時間があるので、宿で自転車を借りてホイアンのビーチに行くことにした。

ビーチまでは片道30分くらいの距離で、街から一本道だからとてもわかりやすく行ける。

街を一歩出ると、田んぼや畑ののどかな景色が広がっている。暑いけれど、青く澄んだ空に、海からの風が気持ち良い。

途中で自転車を降り写真を撮っていると、ひとりのおじさんが「日本人か?」と声を掛けてきた。

そうだよ、と答えると、「近くに古い日本人の墓があるから見せてやる」と言う。別に日本人でもお墓に興味はないが、急いでいたわけでもないのでついていくことにした。

おじさんは、ハス田のあぜみちを抜けていく。なんということもないが、ベトナムらしい気がして、絵になる。

おじさんの言う墓はハス田の真ん中にあった。周りには何もなく、墓石の他に説明が書かれた石が置かれている。

日本人の名前は「谷弥次郎兵衛(たにやじろべえ)」。日本史に詳しくないのだが、有名なんだろうか。ロマンチックな話が書かれている。

ヤン(おじさんの名前)は、この説明文を彫ったのは俺だと誇らしげに話してくれ、お祈りの仕方などを教えてくれた。僕も手を合わせ、見知らぬ日本人に祈る。

墓地の脇に腰をかけ、日本の話やくだらない話をしばらくした。虫が多かったが、風が抜けて気持ちいい場所だった。

そして、そろそろ帰ろうとした時、ヤンはチップをくれと言ってきた。

出会ったときは偶然かと思ったが、墓に線香まであげてくれたころから、普段から勝手にガイドを始めてチップを要求しているタイプかもしれないなと思っていた。

「お金は渡せない。代わりじゃないけど、よかったら、お礼として日本のお菓子をあげるよ。」

「いや、金じゃないとダメだ。金をくれ。」


チップを要求してきたから信憑性はないかもしれないが、ヤンは本当に悪い人ではない。強引に何かをしてきたわけでも、急に表情を変えて恐喝してきたわけでもない。とても親切に案内をしてくれ、なにより、話をしていてとても楽しかった。

だからこそ、最後にチップの要求に応えて金銭の関係になるのが本当に嫌だった。本来のチップの意味もこれとは違うだろう。

しばらく問答したあとで彼は、もういいと、立ち去ってしまった。せめてと思って、「さよなら」と声を掛けたが、彼は振り返りもしなかった。


観光地とお金のこと

出発前に、ベトナムについて数人の友人から行った感想を聞く機会があった。

大抵は、他の国より客引きがしつこくて疲れたとか、下手な英語を一方的に使われた挙句に「話が通じない」、と言われそっぽを向かれて困ったとか、あまりいい話を聞かなかった。

どれも観光地での話だったけれど、僕は基本的に観光地はその国の姿を何も表してくれないと思っているから、本当にそうなのかな、と疑う気持ちが大きかった。

特に途上国の観光地というのは、その国の中でも特殊な環境にあって、急速に観光地化されている場所が多く、旅行者の落としていく金を求めている。そんな中で、ちょっとした案内をしただけで簡単に金をくれる観光客がいる。するとそれまで農業を生業にしていたような人の中でも、自然と、半ば騙すように金を求める人も出てくるのだと思う。

観光地化される前に、たまに訪れる外国の客人に親切心で接していたような人は、次第に姿を消してしまう。

そうなっていくのは、その国の文化や国民性には関係なく(例えば「ベトナム人だから」ではなく)、大部分が観光客を含めた環境の変化のせいだと思う。
僕はそう思って、お金を渡さなかった。

しかし結局、相手は怒り、僕には嫌な気持ちが残り、誰もハッピーにならなかった。お金を渡せば相手は多少は喜び、僕はほんの一瞬の嫌な気持ちで済んだかもしれない。

ただエラそうなことを思ったって、自分の目の前さえどうにもできないのか、、、と、悶々としながら残りのビーチまでの道を進んだ。

白い砂浜、パラソル

ホイアンのビーチはとても綺麗だった。なにより人が多くないのが良い。遠浅の浜に、何本も白波が立っている。

長く続く白い砂浜に沿って、パラソルや屋外カフェが並んでいる。あまりに日差しが強いので、砂浜にいられずカフェに逃げ込んだ。シーズンではないのか、どこも客はあまりいない。

海側のソファー席で冷たいフレッシュジュースを飲んでいると、近くの席に白人の老夫婦がやってきた。暑さに疲れてしまっているようだが、いかにも老後のバカンスといった感じで、ホイアンのビーチにとてもよく合っている。

静かなバカンスには最適な場所なんだろうな、そうぼんやりと眺めるのと同時に、自分がゆっくりとする場所ではないような気がして、気持ちは次の街サフンに向かっていた。
どんな街で、どんな人がいるだろうか。


ヤンとの再会

ビーチからの帰り道、広い道の反対側から、自転車の列がやってきた。

そのまま通り過ぎようとしていると、一番後ろの人が僕の方に手を振っている。よく見ると、それはヤンだった。

さっきの別れ際とは大違いで、微笑みながら手を振っている。
みぞおちくらいにあったそわそわしたものが、スッと消えていった。

彼に何の変化があったのかわからなかったけど安心した。
このまま別れたままだったら、ずっと気がかりな気持ちが残り続けたと思う。
よかったぁぁ!

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