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金木犀 《詩》



月が大きく欠けたとき
私は曲がった道の夢を見た
ぐにゃりぐにゃり
空は低く地面はせり上がり
歩くと足元がぶよぶよと定まらない
道はまるで生きた蛇のように
蠢いている

待って、待って
ごめんなさい、私が悪いの
遠くへと
曲がった道を滑るようにゆく我が子は
私に小さな背中しか見せない

遠ざかる我が子へ
差し伸べる私の手に
引き留める術はない

涙がとめどなく溢れ
河になって
見失った我が子の名前を呼ぶ私は
二つ折れになって
渦に巻き込まれる


気がつけば
白い天井と白いカーテン
大丈夫ですか
はい

あぁ喉が乾いた
あの子にも飲ませてやりたい
自販機に見た桃ジュース
硬貨を持って我に返る

そうだ
あの子はもういない
永遠に失ってしまった
我が子の命を

ふらりふらりと道を歩く
絶望の底から
這い上がれないままに

金木犀が道の両脇で咲き誇る
むせかえるような香りは
我が子への神の哀悼





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