見出し画像

中国映画撮影の記録② 1st AD

前回ちょっと長くなったのですが、1st ADの仕事は多岐に渡っていることが分かっていただけたかな・・・と思います。日本にはどうやらないらしいこのポジションですが、海外のプロダクションではとても大きな役割を担います。前回に続き、自分のやっていた範囲の仕事内容をつらつらと。チームごとに内容は微妙に違うことをご了承ください。

演技編
中央戯劇学院の演技科で修士課程を修了したディレクターはたぶん私だけのような・・・気がしています。
それだけで希少価値です。
ですから、演技の経験がない監督たちからはよくお声をかけていただくことになりました。

俳優を目指す方達、もしくは監督を目指す方達にちょっと質問。
映像演技ってなんでしょうか?
・・・
すみません、突然むずかしいことを言い出して。

いじわるではなく、本当に単純に、それって何なのだろうかと・・・
きっと絶対的正解はないのです。
現場で1st ADを任せていただいた最大のミッションがここ問題へのアプローチでした。

監督ごとに欲しい絵は違う

監督って何でもできる人でしょうか?答えはNOです。演技ができる監督もいますが、ほとんどの人はできない。カメラのオペレーションができるでしょうか?そこまでいません。
照明は?衣装デザインは?音響は?
彼らは神様ではないです。
ただ、欲しい絵が誰よりも明確にあるということは言えます。新人監督さんで迷い続ける人はいましたが、ベテランになると編集後までを想像して演技している俳優に向かって「カット!」と声をかけるのです。

私の経験上、顕著な特性を持っているのはカメラマン出身や美術出身の監督。彼らは頭の中で見たい画を100%再現できているんだろうなと思わされました。だからちょっとでもずれるとリテイクがかかります。残念なことに俳優にはリテイクの理由が分からない。負の連鎖ですが、カメラマンだったり美術出身の監督ほど、口が上手くない傾向にあります(汗)ですからなかなかリテイクする理由を伝えられない。俳優は理由が理解できないままでは気持ちが入らないので演じられないです、と答える。監督焦る・・・。ということがかなり起きました。

私の出番です(苦笑)
りり、行ってきてくれ。
と、なる訳です。

中国の俳優さんたちはほとんどが専門の大学を卒業、4年間朝から晩まで演技漬け、演出漬け、脚本の脚色漬けの日々を送った学士取得者です。=プライドお高めです…
私はそんな彼らの様子を日々見ながら自分も演技の勉強をしていましたから、脚本もどれくらい深く読み、演技プランを考えてきたか、だいたい想像がつきます。
その辺りを尊重し、寄り添いながら彼らの演じるキャラクターの心の変遷をなぞっていきます。
もちろん最後は監督の見たい絵になるように、です。

俳優の仕事はロボットでは置き換えられません。しかも感情をものすごく動かす非常にストレスフルな仕事です。キャラクターの心の動きがすとんと落ちないことには演技もしようがない。そんな状態で何度も同じことを繰り返すことはとても疲れることです。
ただ、現場では私の守るべきスタッフ全員が日々の撮影で疲弊しています。彼らはその日の撮影が終わるまで仕事が終わらないのです。そして毎日のスケジュールも細かく決まっています。
一番良いのは全てのカットが一発OKで撮影が進んでいくこと。それは誰でも思っていることですが、そうもいかない時が多くあります。
そんな時に俳優さん自身の焦りを取り除き、キャラクターの心の動きを整理し、もう一度カメラの前に立ってもらう手伝いをするのが私の大きな役目でした。この仕事はとっても好きでした。トラブルが好きだというのではなく、俳優がいかに大変な仕事であるか分かっているが故に、彼らの役に立てることが心の底から嬉しく思いました。


前のカットをどのように撮ったかを許亜軍さんに確認してもらっています

スタントを「替身」といいます

そして、時々はスタントの方にも演技についてアドバイスさせてもらいました。スタントとは、アクションのスタントマンではなく、カメラ位置を確定させるために選ばれた方たちです。彼らは大抵俳優の卵で、メインの俳優さんと同じような背格好の人たちの中から選ばれます。その方達に立ち位置に立ってもらい照明やカメラの位置、アングルなどを決めるのです。衣装もメイクもメイン俳優さんと同じような色味です。そしてごくたまになのですが、動いてみて欲しいとかちょっと演じてみて欲しいという要望が監督やカメラマンから入ります。これは新人俳優さんにとってはまたとないチャンスです。
もちろんこれも簡単な訳ではありません。ですから、その一声がいつかかっても良いように、大体のカメラ位置が決められたら、そこを確認して自分の目線を決めるんだよ、とか、動き方もカメラを意識するんだよ、とか。耳元でささっと呟いていました。じゃないとね、だいたいカメラマンチームとか照明チームに怒鳴られるんですw
だから、ささっと動いて見せたりして。
長い撮影期間中、一回あるかないかではありますが、その時が来たら絶対に光って欲しい!と俳優仲間として思うのです。
ちょうどよい写真があったので載せておきますw 疲労で日に日に痩せていったのですが私はどうしてこんなに楽しそうなんだろwww

本番ではメイン俳優さんが座ります

余談ですが、演技について、最近中国人の俳優を目指す方達から相談を受けることが増えました。その内相談会でもしてみようと思います。

では次回は技術部門の方達について書こうと思います。

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?