時間を巡る旅

ありがたいことにインスタ映えする宿として紹介いただくことが多い香林居ですが、ただ映えだけを狙った薄っぺらい空間だったらここまで愛されなかったと個人的に思うのです。キラキラした目で写真を撮ってくれる皆様は、言語化せずとも、無意識的にデザインに関わった職人たちの大きな思い・願いを感じていただいてるんじゃないかって思います。

香林居はたくさんの職人たちが意見を練りあいまくってできた、ひとつの作品だと出勤するたびに感じています。香林居をつくった職人のひとり、ひとともりの長坂氏の香林居公式HPに寄せていただいた言葉を紹介します。

完成に近づいた香林居に居る。 ラウンジに居ても、レストランに居ても、客室に居ても。ずっとそこに居たくなるのは何故なんだろう。実に居心地が良い。 見上げると50年前に作られたコンクリートが現れている。今作れる風合いではない美しさがある。耐震補強の壁はアーチ形状で角が丸く、人の手で丁寧に作られているのがわかる。ほとんどが手仕事。ケミカルな素材は見当たらない。木は微妙にコントロールされた質感。ビンテージ家具のアームを摩りながら既存ファサードのアーチ越しに見える成熟した美しい緑を眺める。 風に揺れるカーテン。蒸溜された木の香り。心地良い音楽。品のある照明計画。良いなぁと感じるビンテージ家具。拘り抜かれたセンスの良い備品、アート、書籍。 そしてフレンドリーで礼儀正しいホテルスタッフがチームワークよく準備を進めている。 居心地の良さを書くときりがない。 建築やインテリアのデザインを極力消そうと思いながら進めていたが、ふと気付く。 僕達はこの建築に「時間」をデザインしたのだと。だからここにずっと居たくなるのだと。 ホテルコンセプト「新しい金沢時間を処方する」に今僕は浸っている。


香林居の一番の特徴であるアーチのファサードは、ホテルとして生まれ変わる際、全て塗り替える案もあったそうだけど、あえて残したという。その心にこの場所に流れる「時間」そのものに敬意を感じる。香林居から感じる素敵さ、優しさ、言葉にできない温かさみたいなものは、ホテルづくりに携わった職人たちの場所に流れる「時間」への敬意が反映されているんだろうなあと思う。

ここでいう「時間」というのはただの時刻というわけではなく、今までこの場所に関わった人たちのいろんな想いを含んだ時の流れのことで、

例えば、長らくこの場所を守ってきた眞美堂のご主人の想いだとか、建築家の奥様がビルが取り壊されると噂で聞き駆けつけ、じっとアーチを見上げ、亡くなった旦那様を思ったときの気持ちだとか、ここを訪れて九谷焼を買って行った人のホクホクした気持ちとか、そういう人々の想いを尊重する想いこそ、新築では感じられない温かみを醸し出してると思う。

そしてホテルとしてまた新たに時を刻み始めた香林居。
できることなら私たち住人も、訪れてくださる客人の皆様も、優しく、温かい想いが残る場所でありたいなあと思い、ついつい目先の仕事ばかりに目が向きがちな自分を今日も戒める。

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