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青の追憶

名を馳せた  年上のムード系 女性歌手さんと
プライベートで交流していたことがある

きっかけはおしごとだったのだけど
わたしの持ち物や なにげなくつくったものを
いつもきにいってくれて
もっと教えて わたしにもつくってと
音楽と関係ないことで親しくなった

さんざんテレビでみていた方だったから
ふたりでお茶をしてると 不思議なきもちになった

陽射しの柔らかなテラスで
わたしね  って いろんな打ち明け話をしてくれた
ものすごいひととおつきあいしてたのよ  なんて
少女漫画みたいなヒミツにわくわくした
でも
最近やっと回転寿司にいけるようになったのって
うれしそうに言われたときに ハッとした

優雅で色っぽくてイイ女 が 彼女のイメージだったから
もう華々しい活動からは遠ざかっていても
意図的に あるいは無意識にそうふるまい続けてしまう
ピンを経験したひとにしかわからない苦悩のかけら

もちろん 高級なお寿司にしか行かなかったなどという
自慢なんかではない 本当にうれしそうだった

あぁ 回転寿司に躊躇なくいけるわたしは
コストコで試食をもらってよろこべるわたしは
なんてしあわせなんだろう

でも わたしのような誰も知らない存在ですら
たまたま冴えない日常買い物をしているところを
以前ライブに来ていた方に目撃され
悪気なく 笑いのネタにされていたりして
顔をだす活動が こわくなったこともある

みんなに顔を憶えてもらうことは目的ではないから
自由でいられるしあわせをわたしは選ぶ
発信する表現をたのしんでもらえたらさらにしあわせ

いろんな経験を経て
ひかりの分だけ影も濃くなるんだということは
わたしごときでも  いやというほど理解した
あれだけ名を馳せた彼女は
その分の大きな暗がりも抱えていたんだろうな

しあわせって きづきのなかにある
なんでもない日常がしあわせっておもうのに
比較するものがないとうっかり忘れていたりする

回転寿司の話をしたその日
わたしはコバルトブルーのマスカラをつけていた

テラスの藤棚では 青い小さな虫が
午後の陽射しを浴びて ふわふわと舞っていて
あなたのまつげと同じ色ねって
虫をつかまえようといたずらっこのように
彼女は大きく手を振ってわらっていた
こんな普通の時間が愛おしい という表情だった

次はいつにしようかって やりとりしていたのに
まもなくしらせが届き
異世界へ旅立ってしまったことを知る

大病を患っていたことはきいていたけど
あまりにも早かった

2度と会うことはできなくなった

いまでも彼女の名前をみかけるたびに
そのヒット曲の数々よりも
ひかりと青が舞うあのテラスを 瞬間を憶い出す

すてきな時間をありがとう


リリィミンツ
SSMP
* ずっとウタうシゴトしています*

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