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生分解性LIMEXに挑む「練りの職人」、混ぜる技術を極めたい!

テクノロジーセンターで生分解性LIMEXや混練技術の開発に取り組み、社内では「練りの堀江」の異名で知られる堀江さんにインタビューしました。※所属や業務内容は、インタビュー当時(2023年5月)のものです。

堀江/テクノロジーセンター:近江化学工業株式会社にて約3年間、プラスチックコンパウンドの加工や、炭酸カルシウムをはじめとする粉体の物性評価に従事。2021年9月にTBMへジョインし、素材の研究開発を担うチームにて生分解性LIMEX及びその他新素材を活用したLIMEX・CirculeX製品の開発、混練技術の開発に携わる。

オーケストラのバイオリニストが化学の道に進んだ理由


──どんな子供時代でしたか?

ずっとバイオリンをやっていました。親の勧めで3歳くらいから始めて、小学生6年から高校を卒業するまでは、出身地の三重県伊賀市の市民オーケストラで活動していました。大学でもオーケストラ部に所属していました。とはいえ、伊賀は忍者の里だけあって山ばかりですから、山登りもしたりアウトドア派でもありました。

子供の頃は「バイオリニストになる」とか言ってましたけど、そこまで練習が好きではなかったし、バイオリンで食べていくのは難しいだろうと思っていたので、普通の大学に入ることにしました。富山大学の理学部化学科です。

理系になったのは高校から。化学の授業がいちばん得意だったからです。何かと何かを反応させたらこうなるっていう問題を解くのが、パズルみたいで面白かったんです。ルール通りにコトが進むというか。そういう意味では数学も好きだったんですが、数学より化学の方が仕事がありそうだな、と。

──バイオリンでは食えないけど、化学なら仕事があるかもって、結構、現実的な選択ですね(笑)。

化学で仕事をしようと考えた理由は、ものづくりというか、そもそも手を動かすことが好きだったので、“やってる感”をちゃんと感じられるというのもあります。何が正解か失敗か、目に見えるかたちではっきりわかるところもいいんですよね。

音楽は目には見えないじゃないですか。音楽を聞いて喜んでくれる人はたくさんいるかもしれませんが、本当に人の役に立ってるのか感じにくいとも思っていて……。あくまで私の感じ方ですけど。

──大学では何を専門にしていたんですか。

専門は有機化学です。ある構造を持つ分子の光物性について明らかにするのがテーマだったので、合成経路を考えたり、その物質の特性を調べたりしていました。

ある物質とある物質を反応させて最終的にその目的物質を作るんですけど、反応性の問題とか、分子の大きさが違ったりして、なかなか収率よく反応しないんです。反応を進めるためにいろんな溶媒や触媒を試して、これを使うと収率がいいとかわかったりするのが面白かったです。

でも、作れたからって、それが人の役に立つのって言われるとちょっと困るんです(笑)。応用的なことではなかったので。これ、合成できたらかっこいいなと思って取り組んでいました。

──他の人がやっていないことを成し遂げるのは確かにかっこいい。けれど、それが何の役に立つかは一般の人にはわかりにくい分野なんですね。

一般の人どころか、私も答えられない(笑)。すぐに何かの役に立つというより、次の研究を進める上での知見を貯めるという感じですね。

材料開発の醍醐味とTBMに惹かれた理由


──大学卒業後は、滋賀県の近江化学工業に入社されたとのこと。炭酸カルシウムや酸化カルシウムをベースにしたコンパウンドメーカーですね。

2018年に入社した近江化学工業では、無機フィラーと樹脂を練り合わせて、コンパウンドやマスターバッチ(*)を作る仕事を主にしていました。私が“混ぜ混ぜ”して作った材料を、お客さんがいろいろな形に成形加工していく。最終製品メーカーだと文字通り「それで終わり」ですが、材料というのはものづくりの真ん中に入って様々な製品に携われます。大学のときと違って、目に見えて役に立つものをつくっているという実感がありました。

*コンパウンド:原料樹脂に、目的とする機能や性能を得るために異なる樹脂やフィラー(充填剤)等を混ぜ込み、そのままの状態で成形加工できるようにしたもの。
マスターバッチ:
コンパウンドと同様、樹脂に着色剤や機能を持った材料を高濃度で練り込んだもので、プラスチックの成形時に所望の樹脂で希釈して用いる。

──TBMとの出会いは?

TBMは取引先のひとつとして、入社1年目から知っていました。新しいLIMEXのレシピの試作などを結構な頻度で依頼してくるので、社内でもよく名前を聞くようになりました。どんなことをやってるんだろうと調べてみたら、新工場ができていたり、LIMEXだけでなく廃プラスチックのCirculeXなど資源循環ビジネスも始めて、どんどん事業が広がっていることに興味を持ちました。

そんなときに、ちょうどTBMのサイトで「コンパウンド開発」という職種を募集しているのを見つけて、「これ私にピッタリじゃない?」と応募しました。

生分解性LIMEX開発を通じて誕生、「練りの堀江」


──2021年9月に入社して、どんな分野を担当していますか。

コンパウンド技術の開発と生分解性LIMEXの開発を担当しています。TBMでは入社前に上司になる人から手紙が来るんですよね。そこに生分解性LIMEXをやってほしいと書いてありました。生分解性樹脂は扱ったことはなかったのですが、周りのみなさんが教えてくれるのでやりやすかったです。

テクノロジーセンターには、さまざまなバックグラウンドを持った人、それも前職で射出成形とか高分子とかを極めてきた人たちが集まっているので、わからないことがあっても必ず聞ける人がいるのが、スタートアップというか、TBMのいいところだと思います。

──生分解性LIMEXは、TBMが資本提携している韓国SKグループの化学素材大手SKCとのジョイントベンチャーで事業化を進めています。生分解性LIMEXの難しさはどこにありますか。

一般的なオレフィン樹脂は加工性に優れており、物性の安定性も高いですが、生分解樹脂は「分解」が求められているので、物性の安定性が低下します。分解しやすいので、適切な加工条件でコンパウンドしないと、物性を安定化させることが難しいです。生分解LIMEXは、製品として使用されるときに強度が十分に保たれている必要があるので、いかに分解させずに炭酸カルシウム(石灰石)を生分解性樹脂の中に分散させるか、というところに難しさがあります。混練時に分解してしまうと強度が低下しますし、炭カルを均一に分散させないと、フィルムにしたときダマになってそこから破けたりするので。

──TBMでは毎月、入社半年以内で目覚ましい活躍をしたメンバーから「Best Rookie賞」が選ばれます。堀江さんは22年3月に受賞されました。全社集会での表彰時、テクノロジーセンターの高松センター長が「練りの堀江」と紹介して一躍、社内で有名になりました。あの呼び名はどんな経緯で生まれたんですか?

生分解性樹脂は分解しやすいので、マイルドな条件でコンパウンドしないと物性が落ちてしまうんです。「二軸押出機」を使って混練するんですけど、それまで使っていたスクリューデザインだと、生分解樹脂にとっては過酷な条件で混練しなければならなかったので、分解して物性が低下してしまう問題がありました。なので、「こういうスクリューデザインにしたら物性を損なわずに炭カルをしっかり分散させられるのでは?」と提案したんです。実際それで混練してみたところ、想定通りの結果が得られました。

──元々バイオリニストだから手先は器用なわけですし、てっきり「ゴッドハンド」みたいな、職人的な技を持っているのか、と。

二軸押出機ならなんでも練れると思ってます。まあ、職人っぽいところはあるとは思いますけど(笑)。スクリューデザインと製造条件の関係とか、テクノロジーセンターや装置メーカーで実験して混練に関するデータを蓄積しています。

混練技術はLIMEXの要なのですが、まだまだ課題はあります。樹脂の劣化抑制とフィラーの分散、生産量アップなど、様々なことを両立させる必要があります。LIMEXのコンパウンドにはどういうスクリューデザインがいいのか──。これからも「混ぜる技術」を極めていきたいです。