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弁当を食べる男|#疑似人物図鑑

通り掛かった見ず知らずの実在の人物を目視で分析し、どういう人となりの方なのか、どこからきてどこへ行こうとしているのかなどを空想で書く…

疑似人物図鑑「小学校を見つめる女」より

そんな企画があるようです。

面白そうなので、さっそく先日見かけた方の妄想記事を書いてみたいと思います。




知人と駅の地下街へ降りるエスカレーター脇で人を待っていた。周りには私たちと同じように誰かを待つ人が何人もいたが、ほとんどはデートの待ち合わせ…な感じだった。一人を除いては。(私じゃないよ)

その人はお弁当を立ち食いしていた。けっこう背が高く私より年配の男性だった。ほぼ真横にいたのだが、最初はお弁当を食べていることに気づかなかった。後ろを向いて立って(食べて)いたから。

私たちのいたエスカレーター脇の場所には、ずっと昔にモニュメント的なオブジェがあったのだが今はなくなっている。その話を知人に語る時、隣の男性とたまたま視線が合ってしまい『あ、お食事されていたんですね…お騒がせしてごめんなさい』な会釈をしたら、男性も『気にしないでいいよ』みたいな微笑みを返してくれた。

私はほっとして「それでね、水車みたいなしかけのモニュメントがあってさ…」と話を続けていたら、隣から急に怒号が聞こえてきた。私たちに…ではなくて、どこか明後日の方向に向かって何かを叫んでいた。で、また食べる…  申し訳ないが、ちょっと怖くなって場所を移動した。

弁当を食べながら、途中で叫ぶことを何度か繰り返していた。

あの人はどうして叫んでいるのだろう。誰かに「こんな所で弁当食ってんじゃねぇよ」みたいな失礼なことでも言われたのだろうか。春の陽気で、気分がたかなってしまった残念な方なのだろうか。でも、さっき私と目が合った時は、穏やかな優しい紳士な感じだったのに。

あの場所でわざわざお弁当を食べるなんて、やっぱり普通の神経ではないかも…と思ったが、あの場所で食べなければいけなかったのかもしれない…とも思った。彼にとっては大切な場所で、そこで飲食しながら時を過ごしたかったのかもしれないと。

そう言えば、以前あったモニュメントの方をずっと見ながら食べていた。(手すりに弁当を置いての立食スタイル)まぁ、食べるならそうせざるおえないけれど。

もしかして、彼はあのモニュメントを作った作家の方なのではないだろうか!ご在命なら…多分…あの人と同じくらいの年齢だと思うし。かつての作品を全国行脚して見て周っているひとときだったのでは…なんて思えてきた。

モニュメントが撤去されたことを知らなかった、ということはないだろう。設置する時にその辺の契約もなされていただろうから。だから、その後の風景を見たかったのかな…なんて。で、たまたま私がそのモニュメントのことを覚えている話をしたから、嬉しくてニコニコしていたけれど、他の若い人たちにはそういう思い出とか無いわけで。

かつてそこに自分の作品があり、多くの人々が自分の作品を見ながら人を待っていて。時が流れて作品がなくなり、それでも同じ場所に人が集って誰かを待っている風景… なんか、自分の作品があっても無くても同じなんて、たまらなく虚しいのではないのかな。そりゃ、叫びたくなるよね… なんて。




記事を書いてから、モニュメント造られた方のWikiの写真見たら、気のせいかもしれないけれど似ている気がしました。まさか…ね😅

でも、個々に自分のスマホとか見ながら下を向いて人を待つ姿より、大きなモニュメントを無心に見上げながら時を過ごす姿の方がステキだったと思うのです。

おしまい。

#疑似人物図鑑

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