海浜サナトリウム#5

結核。肺病。
彼の脳裏に常によぎっていた言葉が軍医の口から発せられた途端、彼はひどく狼狽した。
「そうか…俺が、肺病に…」
「診断確定は検査結果が出てからですが、いずれにせよ早急に入院し治療を行う必要があります。本日から軍議、任務、戦陣への出撃は全て中止してください。」
治療なんて。やっとの思いで軍に入隊したのに、全てを捨てて馬鹿のように日光にでも当たり続けるのか。彼は自嘲気味に笑った。
「日光に当たって新鮮な空気を吸ったって、それで肺病が治るわけがない。あんたたち医師もわかっているんだろう。」
軍医は表情を変えず、彼にも理解できるようゆっくりと咀嚼するように応える。
「はい。日光曝露療法や呼吸療法は全く効果はありません。結核とは、結核菌が肺に巣食うことで発病します。ですので、その菌をやっつけないと、治ることはありません。」
「だが…それではどうすればいいんだ?」
軍医は大きく息を吐いて、静水のように穏やかな笑みを湛えて言った。
「大丈夫。僕は、結核菌に対してよく効く薬を知っています。それを毎日欠かさず飲むことで、必ず完治に導くことができます。」
「完治…だと?肺病…結核は、不治の病だと聞いたが…」
彼の瞳に一瞬光が差し込んだのを軍医は見逃さなかった。朝日のように、未来溢れる若き光だった。
「この大陸では結核は不治の病かもしれません。ですが、僕の国では…結核は、治る病気です。」

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