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ジミ〜な全米図書賞翻訳部門でじみ〜に柳美里が選ばれたことの意味

以前から機会あるごとに、アメリカ随一の文学賞であるはずのNational Book Award全米図書賞って、賞としても授賞式のイベントとしても地味なんですよ〜と言い続けてきたんだよね。こんな風に。

とはいえ、今年は推しのダグラス・スチュワート著Shuggie BainがこのNBAフィクション部門と、イギリスのブッカーで最終ノミネート作品に残ってたから、どっちか取れたらいいな。取るんだったら原書というか、最初に発掘したアメリカの版元Grove Atlanticに取ってもらいたいし、編集者のピーターは知り合いだし(彼は村田沙耶香の『コンビニ人間』も担当したエディターなので)、新人でいきなりブッカーはムリぽだし、取れるとしたらNBAの方だよな、と思ってたんで、とりあえずちょっぴりガッカリしてたんですが…

意外にも柳美里の『JR上野公園口』が翻訳部門でとったんだよね。そういえば、ちょうどこの火曜日にJEPAさんのオンライントークイベント(自分でこれを講演と呼ぶのはおこがましく〜w)やった時、最後の最後の方で日本発のコンテンツの可能性ということで、TIME誌の「今年の(これまでの)一冊」リストの中に、日本の本が4冊も入ってますよ〜、4冊とも著者は女性で〜、みたいなことを言った記憶があるのだが、柳美里が全米図書賞の翻訳部門でノミネートされたことは言わなかった気がする。(YouTubeでしばらく観られるようだが、自分ではゼッタイに見返すなんてヤダw)それほど地味だってことなんですがw

ちなみにアメリカの版元は元ペンギン傘下(現ペンギンランダムハウス)のRiverhead Booksというインプリント。訳者のモーガン・ジャイルズ(写真はわざとこっちを選んでみた。みんなもう柳美里の顔くらい知ってるだろうしw)も、担当編集者のローラ・パーチャセピも女性、というのもやっぱり時代の流れを感じるな。これはShuggie Bainのケースと逆に、最初に英語版を出したのはイギリスのTilted Axis出版という、非営利団体として主にアジア発の作品を出していこうという意欲のある新興小出版社。刊行は去年の3月になってるから、イギリスではそんなにインパクトはなかったようで。というわけで、腐ってもビッグ5のリバーヘッドが後発としてアメリカで出したら、評価された、という感じですね。リバーヘッドはオルガ・トカルチュクも出してるし。

これまでアメリカで翻訳作品を出す大御所の二大版元といえば、クノップフとファラー・ストラウス&ジルー(FSG)で、クノップフは去年亡くなったソニー・メータが、FSGはずっとジョン・ガラッシがPublisher(発行人、編集責任者)として長らく君臨していたのが、一昨年FSGはミッツィ・エンジェルが引き継いで、クノップフでは今年からリーガン・オーサーがパブリッシャーになって、ここでもトップが女性、という構図ができつつあるのだ。

こういう流れを理解してそろそろ毎年ハルキストが「今年もノーベル逃した」と騒ぐあのバカ騒ぎはそろそろおしまいにしてはくれまいか。柳美里は3.11後福島に本屋を開いたり、日本の文芸誌の原稿料が安いことを吐露してくれたりしてるのに、ネットではバカウヨにザイニチだ〜と虐められててスゲーもん見ちゃったなという感じでしたよ。英語圏のメディアにはしっかりKorean-Japanese authorだと書かれているし、これからも日本のコンテンツが海外で評価されるとしたら、この息苦しい日本社会を赤裸々に描いた女性やマイノリティー作家の作品であろうことは想像に難くないわけで。


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