海外出版ニュース 5.5.2020 ピューリッツァー賞発表で勝手な言い草

もちろん今年は例年のような式典なし、オンラインでの発表。ピューリッツァー賞って日本でも有名だけど、実際に受賞した記事を読んだ人は少なくて、媒体名だけが知られているような。

今年もレポーティング部門では常連のワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、ニューヨーカー、プロプーブリカに混じって、州知事の恩赦が不透明なことをすっぱ抜いたケンタッキー州のクリエ・ジャーナル紙が健闘。やっぱり地元議員の汚職を洗い出すのが地方紙の仕事なわけで。

今年からオーディオ記事の部門が新設されて、This American LifeというポッドキャストのThe Out Crowdというエピソードが受賞。これは面白そうだな。

ということで、書籍部門の受賞作品を見ていこう。

いちばん気になるフィクションは…コールソン・ホワイトヘッドが『地下鉄道』に続き、The Nickel Boysで2度目の受賞!いや〜、ごめんなさい、積ん読してあるので今から読みます、読みます。歴史物じゃなくて、もう少し年代が近いストーリーだから、たぶん読んでてつらい(フロリダの少年院で虐待される男の子のお話)かなと敬遠していた。レビューが読みたい人はデジハリの橋本先生のフェースブックにあるのでどうぞ。

いやね、昨年とあるトークイベントで『地下鉄道』を推すあまり、日本語版に巻かれている帯に「ツイッター文学賞受賞」ってのがやたら大きく前面に出てるけど、全米図書賞とかピューリッツァー賞とか総ナメしてるんですよ!って言ったんだが、それをツイッター文学賞に対するディスりと受け止めた人がいたようで。

しかもその時、いやもうこの時代、黒人目線で奴隷制度の遺産を語る素晴らしい本はいっぱいあるわけで、今さら「ハックルベリー・フィン」読むより、こっちでしょう!みたいなことを言ったら今度はそれが柴田先生のディスりと取られたらしく…勘弁してくれw

『地下鉄道』はハヤカワさんが1章分無料で公開しているみたいですね。相変わらず太っ腹だな。

でも、出版社といえば白人男性しかいなかった時代にマーク・トウェインというこれまた真っ白いおっちゃんが書いたものより、コールソン・ホワイトヘッドが書いて、クリス・ジャクソンが編集した本の方を応援したい気持ちがあったのは確かです。

クリスはダブルデイ時代からの知り合いで、詳しいプロフィールが読みたければニューヨーク・タイムズのこの記事がおすすめなんだけど、とにかく今も白人(とジューイッシュ)のおばちゃんばっかりの米書籍出版業界にあって、稀有な存在。自分のインプリントOne Worldも率いている。

オバマ大統領も大絶賛のノンフィクションライター、タナハシ・コーツを発掘してきたのもクリスだし、ジェイZのラップ歌詞集、Decodedを世に出したのもクリスなんだよ〜。今見たら、Between the World and Me『世界と僕のあいだに』は日本語版が慶應義塾大学出版会から出てるんだね。渋いw

ピューリッツァー賞の話に戻ろう。歴史部門のSweet Taste of Libertyも奴隷制度による人権侵害の保障を求めて戦った女性の話だし、評伝部門はスーザン・ソンタグの天才とその闇の部分も描いたベンジャミン・モーザーの力作。ノンフィクション部門には歴史部門の受賞作も入れて2作あるけれど、あ〜、これは日本語版は出ないだろうなというテーマのもの。

日本でノンフィクション、っていうとなんかお手軽な新書をイメージしちゃいそうだけど、このカテゴリーに対する認識のズレもいずれはもう少し掘り下げないといけないかもな。とにかく日本のノンフィクションはお粗末なものが多くて海外に紹介できないんだよ!みたいな内容になりそうなんで、またあちこちで顰蹙を買いそうだけどね。


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