海外出版ニュース 5.12.2020 コロナぐらいじゃメゲないイギリスの書籍出版業界

つい一昨日、イギリスの業界誌Booksellerが、小出版社の6割がこのままだとヤバイ、みたいな記事を載せていたのに、英ガーディアン紙の日曜版The Observerは「ロックダウンは書籍産業の新しい幕開けの魁となるだろうか?」とまぁ、同じ状況をここまでポジティブに書くかねぇ、という見出し。こちらは小規模出版社だけでなく、インディー書店、チェーン店ウォーターストーンズ、出版社、エージェント、業界誌にまで広く話を聞いた長めの記事を載せている。以下、大雑把に紹介する。

例えば、2年連続でウェールズでベストのインディー書店に選ばれるも、ロックダウンで閉店を余儀なくされ、急遽それまでイベント告知や販促にしか使ってなかったウェブサイトで直販を始めたBook-ish書店。ときには1日50件もの宅配本を送り出すも、お店を開けていた頃より売り上げは半減。だが他の書店での売り上げを平均すれば昨年の18%しかないという。店を再開するにも、狭いスペースだし、本好きの人が「集まれる」ことがウリだったのに、とまだお店のあり方を模索中、9月までかかるかも、という。

イギリスで3月23日に施行されたロックダウンで、チェーン店のウォーターストーンズは280店舗を全部閉店。ジェームズ・ドーントCEOが取材に応じている。再開にあたっては、具体的な行政指導のない中で、書店員向けに感染予防策の再教育も必要だし、顧客に理解しもらわないといけないし、内装を整えるための投資も必要だ。「うちはインディー書店よりは店舗も広いし、顧客同士の距離もとれるようテーブルを動かすなどすればできるだろうが、あらゆるレベルでリテールを考え直さなければならない」。だが彼は、「これまでもキツイ時期を乗り越えてきたし、人々が買いたいものを売っているのだから」とポジティブだ。とあるアンケートに答えた40%の人が「ロックダウンの間、本があってよかった」と答えているとか。

その一方で、ロックダウンの間、イギリスでもアマゾンが本の出荷の優先順位を下げたので、オンラインの売り上げが深刻な影響を受けた出版社が頭を抱えている。酷いところでは6割減という出版社も。対応措置として、大手出版社のマクミランは、役職のあるエグゼクティブが20〜50%の給料カット。一方で、名門文芸出版社のフェイバー&フェイバーでは営業チームが全員休職。

だが、アマゾンや書店で本が売れない状態が続いても、出版社は直販に対してはあまり積極的ではない。直販ビジネスは出版社にとってややこしいし、投資する金もない。だが、今回ようやく、アマゾンに頼っている限り足元をすくわれる可能性があることが身にしみた。エージェントのジョニー・ゲラーは直販の方向に積極的だ。テレビ業界だってコンテンツを作りっぱなしではなく、どうやってそれをテレビ以外のチャンネルを使って届けるかを考えたし、という。

イギリスでもアメリカ同様、人気作家の新刊刊行日にいっせいに本を宣伝するやり方なので、刊行日が先延ばしになって宙ぶらりん状態の著者も少なくない。だが当分は刊行日に合わせてイベントやったり、全英の文学フェスに出席するのもムリそうだ。イギリス国内では、ヘイやエジンバラといった有名な文学祭も早々に取りやめになったし、全てのイベントがオンラインでできるわけでもない。

ガーディアン紙は、業界を俯瞰してきたBooksellerのレポーターにも取材しているが、番記者の感覚では、コロナ禍で出版のエコシステムが根本的に変わるだろうし、今はもう長いトンネルの向こうに明かりが見えているという。今まで競合他社をどれだけ出し抜けるかで競っていたのが、インフラの上流から下流までお互いが大丈夫かどうか確かめながらビジネスをしている。政府の経済予想に違わず、今四半期は前年比の30%ぐらいまで落ち込み、第3四半期は50%ぐらいを予測しているがそれ以降はほとんど以前と変わらないぐらいに持ち直すかも、と。

個人的な感想:イギリスは書籍の定価販売をやめた時もかなりすったもんだしたけど、乗り越えてきて元気になった。今回も感じるのはエゲレス人の図太さというかしぶとさというか…帝国が斜陽になっても平気だよ〜ん、伝統はあるけど、どう転んでも様変わりしてもうちらはエゲレス人だもんね〜、という器の大きさを感じてしまう。クール・ジャパンもいいけど、こういうところも見習ってはどうだろか。


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