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コロナ時代に向けたデジタル本のシェアリングを考える時がやってきた

私の予想通り全米の外出禁止令が解かれてきたタイミングで、(コロナ禍のどさくさに)インターネット・アーカイブが始めたNational Emergency Library 国立緊急図書館が訴訟対象になりました。このアーカイブ図書館設立のニュースを聞いた時、パンデミックで世界中の人がおこもり生活に入ったタイミングで、いち早くこういうのやってくれてありがた〜いと思った人も多かったでしょうけれど、無断でタダで貸し出されちゃった著者の立場も考えないといけないわけです。

インターネット・アーカイブの緊急図書館についての第1報は2月22日なので、けっこう早かったですよね。その時点で「あ゛〜、これ出版社や著者の許諾どうなってんの?」とは思いました。この直後から、アメリカの出版業界関係者が黙ってないだろ、と見守っていましたが、ほどなくして正式に抗議が入りました。

インターネット・アーカイブはとりあえず期限付きでこの電子図書館から本を引き上げるつもりだったのかもしれませんが、新型コロナウィルスによるパンデミックはこのまま収束せず、第2波を見据えた法的な改革が必要なのは誰の目にも明らか。アメリカでこういう場合、とっとと法廷で訴訟というプロレスにもちこんで決着をつけるわけです。両者が納得できる落とし所を探り合いながら殴り合う感じ。原告となっているのがアメリカの著者協会 Authors Guildと、全米出版社協会American Association of Publishersという点でピンときた人は、アメリカの出版事情に詳しすぎ、あるいは私のコラムの読みすぎですw

そう、ちょうど10年ぐらい前、グーグルを相手取ったブックスキャン訴訟ってあったじゃないですか。グーグルが世界中の図書館を相手に、蔵書をデジタル化して提供してあげるから、その本の情報が検索できて、一部文章がネットで見られるデータベースサービス始めるよ〜ん、ってやつです。参加していた図書館に慶應大学図書館が入っていたことから、日本でも「黒船が〜!」とけっこうな騒ぎになりました。(懐かしいなぁ。♪あれは元年前、電子、データ、紙に残〜し〜、動き始めたグーグルに〜なんてちあきなおみっちゃいました。)

つまり、グーグルが(勝手に)紙の本をスキャンしてネット上で検索できるようにしたんで、そりゃそこにアクセスするユーザーにとって便利なことは便利なんだけど、絶版になっていた本ならいざ知らず、著者がまだ生きてて著作権も持っているのに許可も取らずにコピーするような行為は合法なのか、ってけっこう長いこと法廷で争っていた件です。ようやく2013年に判決が出たところで私もnoteにも殴り書きのような長い解説文を書きましたが、マガジン航でわかりやすく編集してもらったバージョンもあるので、参考までにどうぞ。

さて、このグーグルのブックスキャン訴訟、著者や出版社の許可なく紙の本をデジタル化するその行為自体は、アメリカのフェアユース法と照らし合わせてアリなのかナシなのか、その辺が問われていたわけです。グーグルのサービスには他に、出版社から許可を取ったデジタルコンテンツを売る「グーグル・ブックス」というのもあって、そっちの方は問題なかったことからわかるように、著者がオーケーを出し、出版社から提供されたコンテンツをグーグルが売ることによって、そこからちゃんと印税という形で著者に還元されるのなら誰も文句言わないよ、という話ですね。

で、今回のインターネット・アーカイブ訴訟、次の3段階の3に当たると思うんですね

1)Authors Guild vs. Google: 紙の本をデジタル化する→合法

2)Google Books: 出版社がデジタル化した本を売買する→合法

3)Authors Guild and U.S. publishers vs. International Archivesデジタル化された本を無料で貸し出す→?

今回の訴訟の概要は以下の通り。

訴訟はニューヨーク州南部地区地方裁判所(グーグル訴訟と同じ)に持ち込まれた「著作権侵害」、インターネット・アーカイブのopenlibrary.orgで閲覧できる本の中に違法にスキャンされた130万タイトルの本が含まれているので、即時停止命令を出すよう訴えている。原告のAAPにはアシェット、ハーパーコリンズ、ペンギン・ランダムハウス、ジョン・ワイリー&サンズなどの大手中堅出版社が名を連ねている。

一般市民に無料で合法的に本を貸し出す国内の図書館と違い、インターネット・アーカイブは図書館の名を冠した一大海賊版サイトであり、非営利団体とは言いながら寄付金などによって毎年何百万ドルもの収入を得ている。

訴状はここで全文読めます。今回はざっとね。色々なニュースで疲れてるんで。グーグル訴訟の時と同じく、この訴訟も下手したら判決が出るまで何年もかかるかもしれません。アメリカ合衆国憲法修正第1条の解釈に照らし合わせなければならないとなると最高裁までいくかもしれないし、インターネット・アーカイブのブルースター・ケールがすんなり和解に応じるとは思えないし。

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