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編集の神様、ソニー・メータの訃報を大晦日に聞く

大晦日にまったり飲んでいるときに、SNSで親戚の人のツイートとして回ってきたソニー・メータの訃報を目にしたので、いっぺんにお正月気分が吹き飛んでしまった。

アメリカではクリスマス休暇でとっくの昔にマスコミの人もお休みに入っているから、マスコミに訃報が載るのが遅くて苦笑い。もしかしたら親戚の人が酔っ払ってホラ吹いちゃった?と思いたかったけど、本当だった。

(ムダなトリビアだけど、ニューヨーク・タイムズともなると日頃から著名人のobituary(死亡記事)を書き溜める部門があって、ちゃんとアップデートされていくので訃報も早かった。ウォール・ストリート・ジャーナルは番記者のジェフリー・トラクテンバーグが急いで書いて、後で書き足してた感じ。きっと休暇先から入稿したんだな。他は大手でも第一報はAP通信をそのまま使っていて、これからもメータをよく知る人が長い追悼記事を出していくはず。以上ニュース・ジャンキーからのメディアウォッチでしたw)

アメリカで本に関わる仕事をしている人にとって、ソニー・メータはまさに神様のような存在だった。ちょっと近寄りがたくて、でも実際に話をしてみるとあったかくて、一緒に仕事をしてみるとやっぱり厳しくて…。彼の追悼記事にはaccolades(賞賛の言葉)がたくさん使われるので、それを拾ってみるとどんなにすごい人だったかわかると思います。私も伝説のような数々のエピソードを見聞きしてるんですが、うん、すごいよね。

要するにペンギン・ランダムハウス傘下の随一の文芸図書インプリントであるアルフレッド・クノップフの発行人/編集長で、ワシントン・ポストのサラ・ワインマン番記者はIf you love books, you owe a debt to Sonny Mehta(あなたが本を好きだというならソニー・メータに借りがあるはず)とまで書いてる

実はその昔、こんな文学賞を始めるのを手伝った事があって、メータさんとなんどかオフィスでやりとりしていた。K社のトップ編集者との会談で「どこかとびきりいいレストランにブッキングして」と言われて、ダメモトでMasaに予約の電話を入れたらキャンセルがあって奇跡的に個室がとれたので、幸先がいいかもと単純に浮かれていた記憶があります。

ソニー・メータの奥様であるギータさんは本も書いていて、もう絶版になっている『リバー・スートラ』、もし古本屋さんででも見かけたら即買いをお勧めします。この席でお会いしたけど、今頃どうなさってるだろう。

メータ夫妻を前に、小説とは何か、著者とは何者か、文学賞はどうあるべきか、みたいな話を必死で通訳したわけですが、彼の言葉にいちいち感動してしまって、十分にうまく訳せてない気分になってきて、せっかくのMasaでの食事だけど、味なんてほとんど覚えてないw

だけど一応、懐石のフルコースだったんで、次々に贅沢な食材をふんだんに使った(なぜこの季節に私はニューヨークで鱧を食べている?みたいなひと皿もあったけど)料理が次々に運ばれてきては、シェフのウンチクに話が中断されるんで、最後にはメータ夫妻(インド系)と日本人とで、アメリカ人の「飽食」についての批判話にもなったりした。

そうしているうちにソニーが私個人にも話を振ってきた。私の友人で、クノップの編集アシストのアンバーがもうすぐ結婚するかも、みたいなおバカな話をしたら色々(でもまあ苗字から判断してあんまりド派手なウェディングにはならないだろうなぁ、とか)教えてくれたし。

さらに突然「なんで君は本の仕事に行き着いたの?How did you end up in book publishing?」とも聞かれた。これって、お前は何者か?みたいな鋭くて深い質問でしょ?それを文学の神様みたいな編集者がまっすぐ私の目を見て聞いているわけですよ。どう答えたかは恥ずかしくてとうてい書けやしない。今もちゃんと答えになっているモノが自分の中にあるとも思えない。ソニーさん、どうぞ安らかに。


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