サークルの後輩がマルチ商法にはまって、ある時はごま油、ある時はベビーローション、ある時はコチュジャンなんかをお土産にくれるようになった。彼女の結婚式でも、お見送りの挨拶では自分たちでラッピングしたその会社のハンドクリームを配布してくれた。一人1200円ｘ100人…。この利益は誰に行くのだろうか。

　大学を卒業してそれほど仲が良かったわけでもない友人が「久しぶりに会おう」と連絡してくるとだいたいマルチの勧誘だった。ランチ食べて、喫茶店に行ったら知らない人を呼んで、商品の良さと夢語り。ある時友達が連れてきた女性は「私の夢は高級車のタクシー会社を作ることなの。そのためにこのビジネスをしてる」と目をキラキラさせて話した。友人は「私この話聞いたときに、会社辞められると思ったの！」というので、私は「舐めてんの？彼女、夢があるって言ってんのに、あんたは何？仕事辞められる？」と言って友人を泣かし、いろんな意味で彼女とは音信不通になってしまった。風のうわさで結婚したと聞いたが、私の住む町には高級車のタクシー会社はどうやらまだできていないようだ。

　しかし、後輩はずいぶん前からうちに遊びに来るし、集まりに私を誘ったりはしないし、喫茶店に呼び出されることもないので世の中にはいろんなマルチがあるけれど、彼女も彼女の旦那さんもおそらくもっぱら買うだけの人なのかな、と思っていた。

　同じくサークルの友達とたまたまご飯を食べる機会があって彼女も結婚式に参加していたので、あのハンドクリームは1200円の代物だったんだよと話すと驚いていた。

「実は私、何回かボーリング大会とか誘われて行ってきたんだわ。うん、ちはるは誘わないと思うよ。一回釘さしておいたから。私はいいけど、後輩たちはこういうのに誘われても先輩だからと断れなくて契約してしまうこともあるからね。友人関係を壊すこともあるしね、気を付けてねって。」

ええー！？ボウリング行ったの？誘われなかったの？

「されたされた。最初は普通のボーリング大会なのに、あとから利益がどうとか商品がどうとか始まって、あの商品興味ある？試してみない？とか言われたから、にっこり「あ、全然興味ないんで。うふふ。(*^-^*)」って言ったら誰も誘ってこないもの。そっか、あれ1200円か。つかっとこう。」

あら、ハンドクリームでしたら私の一押しはこちら！興味あるならぜひ一度試して！ユースキンって会社ご存知？ユースキンハナはラベンダーの香りがすごくアロマ！使ってみる？

「私もおすすめ商品があるんだけど、サラダソルトって言ってかけるだけでサラダがおいしくなるの！興味ある？キューピーなんだけど！パクチーがおすすめ！よかったらどう？」

と言って二人で笑って帰った。

　「全然興味ない」「結構です」「帰ります」

　それが初めて会う人でもそうでない人でも、相手が自分の発言で気分を害してしまうかもしれないと、穏便な言葉ばかり選んで相手を期待させてしまい、危ない目にあってしまい、それも自分のせいだと反省すること、一度や二度ではなかったように思う。マルチ然り、セクハラ然り、おそらく友達関係でもこういうことは多くあったような気がする。いつも「舐めてんの？」と言える相手とはもちろん限らないわけで。どちらかというと初めて会う人のほうが強く出られない部分がある。明日からはもう会わない人なのに。なぜなのか。

　彼女の「あ、全然興味ないんで。うふふふ(*^-^*)」はほんとに気持ちよくて、相手を不快にするようなものでもなんでもなくて、それこそ素敵な笑顔で、これをぜひとも練習して自分のものにしたいと思った。こういう時は彼女を私の中に降臨させよう。

「私全然興味ないです。(^^」「結構です。(^^」「あ、帰りますね。(^^」

　それは自分をちゃんと大切にしているって証でもあるんだと思う。二度と合わない人を気持ちよくして、自分に無理をしてどうするの？私？

　断る勇気を持とう！って思うと、なんだか武器を持たなければいけないように思ってしまうけれど、この方法なら、武器を持たなくても自分を大事に守れるような気がする。いい大人がこんなこと練習するなんてばからしいって思わずにやってみよう。これは私に必要な能力だ。