見出し画像

「社員ファースト」から「結果を出した人ファースト」へ:経営者が追求すべきバランスとは?

最近、多くの大企業がSDGsやESGを宣言している中、何となくモヤモヤとした感じがしていました。そんな中、「社員ファースト」というタイトルの本を見かけ、そのモヤモヤの原因とこの経営哲学の関連性に気づきました。この「社員ファースト」という考え方は、従業員を企業の最も重要な資源とみなし、その幸福や満足度を最優先に考える経営哲学です。しかし、多くの企業がこのアプローチを取り入れている一方で、実際のビジネスの現場では別の視点も必要になることが考えられます。なので思ったことをまとめてみました。

社員ファーストとは

「社員ファースト」とは、文字通り従業員を第一に考える経営哲学のことを指します。この考え方は、従業員を企業の最も重要な資源とみなし、彼らの幸福や満足度を最優先に考えるものです。

以下の要点でこの哲学が成り立っています。

  1. 従業員の満足: 企業が成功するためには、従業員が働きやすい環境を提供し、彼らの満足度を高めることが必要です。

  2. 成長の機会: 従業員に継続的な学びやキャリアの成長の機会を提供することで、彼らのモチベーションや能力を向上させることができます。

  3. 公平な評価: 従業員の能力や成果を公平に評価し、適切な報酬や昇進のチャンスを提供することで、彼らの努力や献身を報いることができます。

このように、「社員ファースト」の哲学は、従業員が幸福であり、その結果として企業全体が成長するという考えに基づいています。しかし、この考え方を実践する上での難しさや問題点も存在します。

結果を出した人ファースト

「社員ファースト」のアプローチは、従業員の幸福や満足度を高めるために非常に有効ですが、その裏で過度に保護された環境は、怠けたり手を抜く人が優遇されることに繋がるリスクがあるとも考えられます。この結果、組織内部での不平等や、業務の皺寄せが外部の下請けや孫請けに転嫁される可能性が考えられます。このような状況を避けるために、実際の成果や貢献度に基づいて従業員を評価・優遇する「結果を出した人ファースト」という考え方が必要になってきます。これにより、明確な評価基準が設けられ、組織全体の生産性の向上や公平な評価体系の確立が期待されます。
「結果を出した人ファースト」のメリット:

  1. 明確な評価基準: 成果を基準にすることで、評価が明確になり、従業員のモチベーション向上につながる可能性があります。

  2. 高い生産性: 成果を重視する文化が根付くことで、組織全体の生産性が向上することが期待されます。

  3. 競争意識の醸成: 優秀な成果を出すことが報われる環境は、競争意識を高め、一定の緊張感を持って業務に取り組む動機を与える可能性があります。

注意点や考慮すべき側面:

  1. 短期的な視点: 成果のみを追求すると、短期的な成功を優先する傾向が生まれる恐れがあり、組織の長期的な発展が犠牲になる可能性がある。

  2. チームワークの低下: 個人の成果を重視する文化は、チームワークや協力の精神を損なう恐れがあります。

  3. 過度なプレッシャー: 常に高い成果を求められる環境は、従業員のストレスや過度なプレッシャーを生む可能性がある。

  4. 多様な価値の見落とし: すべての役割や業務が明確な成果として表れるわけではない。そのため、見えない貢献や長期的な価値を持つ業務が評価されにくくなる可能性がある。

「結果を出した人ファースト」と能力主義のリスク

「結果を出した人ファースト」という考え方は、実際には能力主義の一形態とも言えるでしょう。能力主義とは、個人の「能力」や「実力」に基づいて報酬や評価を行う思想を指します。つまり、明確な成果や実績を上げた人々を優遇するこのアプローチは、その人の「能力」や「実力」を正当に評価するという能力主義の原則と直結しています。
能力主義が持つリスクや問題点を考慮すると、単純に「結果を出した人」を優遇するだけではなく、その背後にある条件や過程も評価の対象として含めることが求められます。

また、マイケル・サンデル教授の著書「実力も運のうち 能力主義は正義か?」にも、能力主義のリスクに関する考察があります。サンデル教授は、能力主義がもたらす「運のない者は努力が足りない」という偏見や、社会的な格差の拡大について警鐘を鳴らしています。結果を評価することは重要ですが、その背後にある過程や条件、そして運の要因も等しく考慮する必要があるという視点を持つことが重要です。

経営者に必須なバランス感覚

経営者の役割は、組織全体のバランスを取りながら、さまざまな利益関係者のニーズや期待を考慮し、全体の最大利益を追求することです。皺寄せを完全になくすのは難しい場合もありますが、その影響を最小限に抑え、公平で透明な経営を目指すことが重要です。

「社員ファースト」の考え方を実践するためには、経営者のビジョンや意思決定の迅速性、そして公平性が求められます。一方、「結果を出した人ファースト」の考え方を取り入れる場合、経営者の柔軟性やコミュニケーション能力が特に重要になります。

経営者のセンスやスキルは、以下の点に現れると言えるでしょう:

  • ビジョンの明確さ: 組織の将来の方向性や目標を明確にし、それを共有し理解させる能力。

  • 意思決定の迅速性: 必要な情報を収集し、的確に判断を下す能力。

  • 柔軟性: 環境の変化や予期せぬ事態に対して迅速に対応し、組織を適応させる能力。

  • コミュニケーション能力: 従業員やその他のステークホルダーと効果的にコミュニケーションをとる能力。

  • 公平性: 各ステークホルダーに公平に対応し、信頼を築く能力。

経営者がこれらのセンスやスキルを持ち、組織の多様な要素をバランス良く調整することで、皺寄せの問題を減少させることができるでしょう。

SDGsやESGと「社員ファースト」の真の実践

現代の大企業は、サステナビリティや環境、社会、経営のガバナンスに関する取り組みとして、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境、社会、ガバナンス)を前面に押し出しています。多くの企業が「社員ファースト」を掲げる中、この取り組みが真に意味を持つのは、単に自社の従業員の幸福度を向上させるだけでなく、ビジネスの連鎖において下請け、孫請けの人々までが豊かになった時です。

SDGsやESGの真の実践とは、全ての関わるステークホルダーが持続可能で公正な取り組みの恩恵を受けること。従って、社員ファーストの思考を持つ経営者は、自社の利益だけを追求するのではなく、全ての関係者が豊かになることを追求すべきであり、それがSDGsやESGの精神に真に則した実践と言えるでしょう。

また、経営者がこのようなバランス感覚を持つことにより、企業は急激な成長を追求するユニコーン企業ではなく、「ゼブラ企業」としての持続的で健全な成長を目指すことが可能となります。ゼブラ企業は利益を追求するだけでなく、社会的な課題の解決や多様なステークホルダーとの協働を重視します。

最後に

経営者のバランス感覚とその真の意味での「社員ファースト」の実践は、現代のビジネス環境において不可欠です。SDGsやESGの精神を真に体現し、持続可能な成長を追求するゼブラ企業のモデルを採用することで、企業は社会的価値を創出し、同時に経済的な成功も実現できる。この二つの要素は相反するものではなく、むしろ相互に補完しあう関係にある。企業のリーダーたちがこのバランスを理解し、適切に取り組むことで、より公正で持続可能な未来を築くことが可能となるでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?