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メーカネースの余興

 赤錆びた廃ダンジョンの浅層、T字路。

 俺の後をつける即席の相棒に向け、声には出さず静止のシグナルを送る。
 相棒の名は、カルシラ。
 ブロンドの長髪に、カジュアル寄りのウェア。そして赤いピンヒール。顔もいい。

 「ミハルちゃん、なにか見つけたの?」
 通信からでも分かるほどの、余裕を持った態度。
 油断ならない女だ。
 こういうヤツこそ、腹の内ではしたたかに互いを出し抜くための方策を練っている。

 「角の向こう、サイクロプス。単体だ」
 無駄なく短文で知らせる。
 二世代前のものとはいえ、ファインダー・サイト社のサイバネは頼もしい。
 人造の目は、通路の奥で徘徊する単眼の魔物を、壁越しに捉えていた。

 「回避できそう?」
 「無理。どう動いても見つかる」
 視覚データも共有し、それを証拠とする。
 程なくカルシラも、見解に同意した。

 「なら、ウチらの初戦闘だね。女の子と組むのは久しぶりだー」
 「ふん」
 準備を整える。
 手札は見せない。
 右肘からブレードを展開し、電力を流し込む。
 サイクロプス程度であれば、これだけで十分だ。

 カルシラの方を横目で見る。
 彼女は、何もサイバネを起動していない。
 ふざけてやがる。全部俺に押し付ける気か。

 苛立ちとともに舌打ちをする。
 すると、
 「だってアタシ、魔女ウィッチだし」
 と、雑な答えが返ってきた。

 (魔法なんか、太古の存在だろうが)
 ため息を付き、サイクロプスの前に躍り出ながら、脳内で愚痴る。
 現代の人類は、魔力の出力適正が無い。
 少なくとも、アカデミーではそう聞いていた。

 「えいっ」

 だから、目標のサイクロプスが内側から爆発し、輝く無数の星とロリポップのパーティクルに分解された時は、理解が追いつかなかった。
 一撃必殺。
 ブレードだと、三十秒は掛かる相手。

 キラキラとしたパーティクルは、時間が経つにつれ小さくなり、ポン、ポンと弾け、消えていく。

 【続く】

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