うちのこ洗脳SS-18「紅恭也、童心に還る」-序章

まえがき。本作は
・『有限会社F.E.A.R.』『株式会社KADOKAWA』が権利を有する『ダブルクロス The 3rd Edition 著:矢野俊策』
・『株式会社セガ』が権利を有する『ファンタシースターオンライン2』
・与太屋の皆様が権利を有するはずの『バンブーエルフ』『ポテサラエルフ』
の二次創作物です。
 低レベルの引退済みダブルクロスPCが本編後のオラクルに飛ばされ、現地に居たエルフどもに良いようにされてしまうので、苦手な方は覚悟してください。
 序章はシリアスになってしまったので隔離しました。

 「キョウヤ! やっぱこいつら強い!」
 腕をブレードに置換した少女が、巨躯のバケモノと打ち合う。
 一発、二発。少女がバケモノの拳を受けるごとにガードが崩れ、前線が後退していく。
 「ってもなあ……!」
 俺が相対するは、髪をワイヤーじみて操る魔人。
 相手はほとんど無傷。こちらは何度か拘束されかけたものの、辛うじてまだ戦える状態だが……。
 「ホホホ……ファルスハーツと言えど、末端のエージェントはこの程度ですか」
 実際、相手が強い。
 それも、多少の浅知恵ではひっくり返せないような大きな差がある。
 「油断するなよ“ワイヤフレーム”。こいつら、若ェのにまだ戦意を捨ててねえ。奥の手を警戒しろ」
 相手後衛のリーダーが指示を出す。

 戦力だけでなく、場の流れでも、情報戦でも負けている。

 だが、それでも可能性があるなら。

 「キョウヤ! シラカ! 準備できた!」

 ダクトの奥から、なんとか隠し通していた“切り札”――アヤメの声が飛ぶ。
 それを合図に、二人は己の力の源から、限界以上のエネルギーを引き出す……!

 「やっぱりな……“キュクロプス”、射線開けろ」
 リーダーの言葉と同時にバケモノが退避。
 彼は2丁拳銃を構え、躊躇なくアヤメを撃つ。
 何発かもらいつつ、俺とシラカは、自壊しながら弾を叩き落としていく。

 「行くぜ、俺達の最期の一撃……!」
 言葉は、言霊に。
 アヤメの力が、戦場と化した研究室を埋め尽くしていく。
 「……ふむ」「お守りしますよ」
 髪の魔人はスタスタとリーダーの元へ歩き、即席のバリアを編む。
 俺たちは、異常増幅された雷と炎で組み上げた大剣を振りかざす。
 「「行けーーーーッ!」」

 振り下ろす。

 振り下ろそうとした。

 「まずいッ!」
 アヤメが叫ぶ。
 あまりのエフェクトに空間が耐えきれなかったか、ピシ、ピシとヒビが入り始める。
 ヒビはまたたく間に拡大し、何もかもを吸い込み始める。
 
 いや、何もかもではない。

 髪の魔人が地面に根を張り、バケモノとリーダーを縫い付けていた。
 「クソッ!」
 引力の嵐が、一番排除したい相手以外を飲み込む。

 せめて。せめて一太刀与えたかった……!

 最後にそう思いながら、意識に帳をおろした。

 ◆◆

 死んだのか、俺は。

 物心ついたときには親は居なくて。
 パイロキネシスと、砂を固めて武器にする能力しか、俺にはなくて。
 孤児院から拾ってくれた人は、汚職で追放。唯一の親友も、この手で引導を渡した。
 その重みに耐えきれず別の組織に逃げたら、今度は下っ端戦闘員。

 本当に、何もかもがクソだった。
 体も、とても痛い。

 ……待った。死んだのに体が痛いって?

 違和感を覚え、目覚める。
 軋む肉体が痛まぬよう、ござの敷かれた床に、大の字で寝転んでいる。 
 がばっと飛び起きて見渡すと、明らかにオーバーテックと分かるなめらかな壁、天井。
 科学に抗うかのような、竹で編まれた家具。
 乱雑な調度と対象的に、しっかり手入れされたイモ科の観葉植物。

 室内に、星の灯が差し込む。
 少しホコリを被った鏡が輝き、傷だらけの俺の顔を映し出す。 
 「生きてる……のか……?」
 鏡の中の俺は、抜け殻のような目で俺を見つめている。
 「なんでまた生き延びちゃうかな」
 そう吐き捨て、起き上がる。
 
 「ぐッ……」
 起きた瞬間に、肉体の痛みと忌々しい破壊衝動が魂を貫く。
 俺の生きてきた世界の能力者――オーヴァードは、須らくなんらかの衝動を抱えている。
 その衝動を思うがまま受け入れるか、あるいは抗うかは……所属する組織による。
 俺が属するファルスハーツは、衝動を受け入れる組織だった。
 「あぐ……あ……!」
 右手に、燃える刀を生成。
 なんでもいい、なんでもいいから何かを壊せば治まる。
 ……鏡の中の、力のない俺と、また目が合う。
 「ッ……。あああああっ!」
 慟哭とともに、一閃。
 鏡は真っ二つに割れ、熱によって溶け落ちた。

 呼吸を一つ、二つ。
 己のレネゲイドによって生まれた熱は、急速に霧散する。
 さらに三つ、四つと繰り返すと、背後に気配を感じた。

 「誰だ……!」
 振り向き、刀で牽制しようとするも、その気配に抱き寄せられて、阻まれる。
 「誰だじゃねえよ、この部屋の主だ」
 声の主は、金髪で隻眼、耳の長い、そしてとても筋肉質な女性だった。
 「うっ……」
 さらに言えば、とても酒臭い。
 美人ではあるが、今この場においては残念さが上回っている。
 「離せ……!」
 もがく。
 「つってもなあ。飲み会行って帰ってきたらそこに刀持ったガキが居たんじゃ、拘束解除できんわな」
 「くうっ……!」
 この女、シンプルに力が強い。
 悔しいが、俺の腕力ではどうしようもなかった。

 ならば。
 「ワーディング……!」
 領域を展開し、オーヴァード以外を無力化する。
 「ああ?」
 ……あれ、効いてない……?
 「今何したお前。フォトンがゾワっとしたぞ。一般人じゃねえな?」
 効かないということは。
 「貴様、オーヴァードか……!」
 「オーヴァード? 初めて聞く言葉だな」
 そら、と室内に突き飛ばされ、よろめく。
 「気が変わった。なにか持ってンだったら酔い醒ましに相手してやるよ」
 「望むところだ!」
 刀を意思で切り詰め、閉所戦闘に適した長さに整形する。
 そして、突撃。
 カァン、という音とともに、女は竹の短刀を抜き放ち、眉間を狙った突きをギリギリで逸していた。
 「軽いが、スピードはあるな」
 己の命を奪い取るはずの一撃を目にしても、彼女は平静を保っている。
 「つか、手負いだな? 左腕と右脇腹を庇っている。よくそんな状態で“望むところだ”などと言えたな」
 「黙れッ……!」
 相手の獲物から刀を引き剥がし回転。奇襲めいた逆袈裟は軽やかなステップでかわされ、潜り込まれる。
 「ハイーッ!」
 後方、下部。その巨躯からは想像もつかぬような俊敏性から放たれる、全身の質量を乗せた鉄山靠。
 「がはっ……!」
 直撃し、竹のタンスに叩きつけられる。肺の空気が空っぽになり、脳が酸素を求めあえぐ。
 「ふむ……」
 彼女は追い打ちをかけず、こちらを見て何やら考えている。
 「『動きの初歩だけ教えられ、後は実践で全部賄う』系の動きか。お前何歳だ。身長を見るに、ヒューマンなら14くらいか?」
 刀を支えに、どうにか立ち上がる。
 「もう17だ……! ナメやがって……!」
 精一杯、強がる。そうでもしないと、心が折れる。
 「わりィわりィ。どうも歳を取ると子供の見分けがつかんのでな。まだやるなら付き合うぞ」
 指をクイクイッと曲げ、煽られる。
 「クソ……!」
 怒りのまま、能力を引き出す。己の刀に、炎がまとわりつく。
 「焔刀、焼き払え……!」
 滑るような踏み込み、横薙ぎに一閃。
 
 しかし。

 「お客様、ここは火気厳禁ゆ」
 入り口ドア前に立っていた新手の少女がむにゃむにゃとつぶやいた途端、俺は四肢を蔓で絡め取られ拘束された。

 【本編へ続く

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