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ロサンゼルスタイムズに載った私


「15分以内に返信。納期は数時間。予算は300ドル。記事の内容は次期大統領選について。できるなら2時間以内にラフを送ってくれ。」の世界。

前回私が書いた「ニューヨークタイムズに載れなかった私」の後日談。仕事内容をもっと個人的に詳しく書いたものとなっております。長いです。


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Even Better


2年後。ニューヨークタイムズに載れなかった私だが、イラストレーターとして初めてロサンゼルスタイムに載れる機会を頂いた。経由としては、私が大学時代にインターンをし、その後も何かとお世話になったロサンゼルス・マガジンのアートディレクターがロサンゼルスタイムズに転職したのだ。単にコネである。

転職する際、「これから新聞だからバンバンお前に依頼する!いつでも仕事を取れるよう準備しといてくれ。」という数種類の書類と共に連絡をいただいたのだ。しかし書類を全て記入し、数ヶ月経っても音沙汰がなかった。なので所詮社交辞令だったのかな、気長に待つかと気落ちしないよう自分に言い聞かせた。


とある秋の昼ごろ、午後4時に映画「プロメア」を友達と見る約束をしたことを考えながらうどんを食べていた時に、一通のメールが届いた。


「件名:ロサンゼルスタイムズ oped spot できるか?          本文: 予算は300ドル。できるならすぐ返事してくれ。          添付: 環境問題についての記事」


な、なんと本当に彼からOp-Ed依頼が来たのだ。

すぐさま返事をし、向こうが電話でイメージを伝えたいということなのですぐ連絡をした。(電話で内容を話すのは稀であり、これは私と彼が友人関係ということもあってのケースである。)軽くお互い挨拶をし、色の指定や記事についてのおさらいを5分ほどで済ます。

「今12時だろ?午後2時までにスケッチ、4時までにファイナルが欲しい。できるか?」と聞かれ、午後に家を出る用事があった私は「3時に家を出ないといけないのでファイナルは3時まででもいいですか?」と伝え「Even better! よろしく頼む。」と電話は終わった。

添付されていた記事を読み込む。現在の環境問題とそれに関連する食問題についてみっちり2ページ書いてあった。Op-Edイラストについては日々考えていたが、念のために初心に戻る。数年前の授業ノートをめくった。母校のアートセンターでは、Op-Edイラストに特化した授業が現役イラストレーター二人による(元NYT AD) Brian Reaと(レジェンド)Paul Rogersの元で行われたのだ。


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(実際のノート。まず記事のタイトル、内容の要点、ビジュアル化できるもの・単語をいくつか、そして数種類の構図を素早く描きだす。)


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(実際の課題スケッチ。授業内容としては実際の仕事と見立てて、授業外の時間にメールで先生達から「仕事(課題)」が送られ、記事を読み彼らをADと見立てて返事をし、スケッチを送り、進行する。ファイナル納品後は教室に持っていきで他の生徒の意見も交えて講評する。実践的。)


初心に戻ったところでまず中心に線を引いた紙を用意した。左側は記事のおさらい、右側には「ビジュアル化」できるものをどんどん単語・短文でリストアップしていく。30分ほどして、まとめた。

初めてのopedなのでネットで先輩方の作品を一通り見ておさらいする。

( コントラストが強く、遠くからでもわかりやすく、一発で伝えたいことがわかるような、)

スケッチ。


環境がメインについてなのでまず人が思いつく「地球」「土地」や「グリーンハウス」などを描く。しかし誰もが思いつくようなアイデアだとボツになる可能性が高いのでそれに自分の持ち味を足したり、視点や角度をを変えてユニークなものにシフトチェンジする。

送ったスケッチは4種類。別にスケッチの数や色付けまでなどは指定されてないが、個人的に完成に近い方がお互いの意図がわかりやすく講評しやすいと思うので私はそうする。


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(黄色を背景に使うこととハンバーガー案はADのアイデア。)


午後1時。残り2時間。すぐさまスケッチを送り、「では3番で!」との返事が返ってきた。指定されたスケッチにもう少しディテールを加え、また2種類のスケッチを送った。「2番で。そのままファイナルに取り掛かってくれ。」


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そしてファイナルに取り掛かり、3時少し前に納品。「私はこのまま家を出るところですが、修正点はありますか?」と一応確認をする。「ドーン!有難う!ロックだぜ!」(彼はバンドマンでもある)と改善点は無いようだったので安堵して友達と映画を見に行った。


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2日後。ドキドキしながら行ったスタバにはお目当の新聞がなかった。アメリカは日本のような何でも売っているコンビニもなく本屋自体もものすごく限られていており、近場で新聞を売っているとすればスタバ、酒屋、大手スーパーの入り口などしかない。

気を取り直して近所の酒屋に行きロサンゼルスタイムズを購入。

レジのおじさんに「お嬢ちゃん、新聞を読むのかい?このご時世に偉いな!」との声がかかり「いえ私の絵が載っているもんで、久しぶりに買おうかと。」「おお!すごいじゃないか!見せてくれ!」と世間話を始める。

(新聞って4ドルもするのか、思ったより高かったな。そういえばイラストに使用した蛍光イエローはちゃんと印刷されているだろうか?影が濃すぎて変になってないだろうか?植物をもっと描き込む時間が欲しかったな、雑に見えないだろうか)などぐるぐる考えながら新聞を開いた。

数枚ページをめくる。すると私が心配していたようなことは1つも起こっておらず、パソコンの画面と同じ画像が目に飛び込んできた。クレジットもミススペルせずちゃんと記載されている。良かった。(苗字のKOGAWAがJAGAWAやKAGAWAなど一文字間違っていることが稀にあるのだ。)


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これで夢の第一歩に近づいた。就職しなさい(フリーランスだと食べれないから)と言われ続けている両親にも褒められるだろうか。この画像を送ったところ「何で早く言わないのよ!家族用に余分に新聞買っておいて。」とツンデレ母からメールが届いて少しほっこりした。この後も友人達から「初Op-Edおめでとう!お祝いでご飯行こう〜」などと誘われ楽しい時間を過ごした。しかし現実では300ドルの仕事を一件こなしただけだ。先輩達は同時に数多くの案件を同時進行している。まだまだこんな序盤で満足している場合ではない。これからも上を目指し続けよう。




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Dreamy, but not too much


一ヶ月もしないうちに次の案件メールが届いた。今回はもう少し納期があるようである。少し安堵した。今回は時事問題の記事ではなく、ロサンゼルスタイムの土曜日恋愛コラム「LA Affair」の依頼だ。


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「LK (Lisa Kogawaを略して)夢心地な雰囲気に丘と亀とカップル。色は緑単色のグラーデションがいいかな?締め切りは一週間後。」(予算450ドル)


早速記事をおさらいしてスケッチを描く。内容は著者がロサンゼルスという海のような広い場所で切磋琢磨しながら自分と合う価値観のあるパートナーを探すいうものだった。タイトルに「Swimming」とあったので(水中とはいえば、)パッと浮かんだ丸紅茜さんの画集を参考にしつつ色を選ぶ。「夢心地」というキーワードをメインにして、海洋生物たちを加え、記事の中ででた大切な場所の「丘」を遠目に描いて先方に送った。


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すぐさま返事が。「もう一回ちゃんと記事を読んでくれ。ただの丘じゃなくてハイキングトレイルだ。あと鯉などはオレンジにしてコントラストを。鯉や亀が一緒にトレイルを歩いている感じもいいかな。」と少し注意されてしまった。二回読んだつもりだったが、思い込みで少し走り描きしてしまったようだ。どうやら「夢心地」をプッシュしすぎたらしい。あと亀の資料も添付された。ウミガメではなくリクガメのイメージだったようだ。解釈違い。しかしこういう両者のイメージが若干違うことはよくあるので、コミュニケーションの大事さを再認識する。改善点を修正し、またスケッチを描き直した。


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返事は「3番でファイナルに進んでくれ。宮崎駿味が良いね。右のほうに低めに飛んでる鷹か鷹の影を入れるのもいいかも。あとカップルはちゃんと成人女性に見えるように描いてくれ。あと亀がもうちょっと大きくても良いかな!イエーー!有難うLK」とのことだった。(ちなみにアメリカのADは皆こんなフランクであるわけでは無い)ひとまず依頼終了。

数日後。このコラムはオンライン版にも載るのでまず朝起きて記事をチェックし、無事載っていたのでまた同じ酒屋に新聞を買いに行った。同じ店員に「また絵載ったの?おめでとう!見せてくれ」と聞かれちらりと見せた。


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前回の仕事は比較的に小さな範囲だったが、今回の絵は新聞の1/4をしめていたので少し驚いたのと同時に嬉しかった。が、左下の亀が少し色が濃かったようで、新聞に印刷された時は少し色が暗くなってしまった。いつもなら画像を白黒にしてコントラストチェックしていたのに、忘れていた。しくった。気をつけなきゃなと再認識した依頼だった。


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また両親に新聞の画像を送ったところ、「ロサンゼルスタイムズ、またうちで定期購読でもしようかしら」とのメッセージが来た。



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以上がロサンゼルス・タイムズから頂いた2件の仕事です。いつも同じアートディレクターさんとお仕事させて頂いたので、簡潔かつフレンドリーに順調に進みました。が、その後イレギュラー(?)案件も数件頂いたので次回はそれについて書いてみようと思います。全てが上手く行くわけじゃない。頑張ります。

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