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大きなロボットと小さな心


ギャラリーに関しての話。まだ数えるほどしか参加してないので、専門的な見解というよりは個人の感想というか成長記録的なものです。過去の作品を載せるのは恥ずかしいですが、供養として載せます。ぐだぐだ長いです。


初めてギャラリーを通して作品を売る、ということに参加したのは大学二年生だった2014年頃の冬だった。講義を受けたこともないMark Toddと言う先生からお誘いのメールが来て、Giant Robot というサンタモニカにある小さなギャラリーが毎年恒例でやっている「Post it Show」に出展することになった。未だに会ったこともない先生(現役イラストレーターの彼がキュレーターだった)からメールが来たのは不思議だが、自分は当時よく学校内での展示に積極的に参加していたのでそこから知ってもらえたんだと思う。Post it Show というのは名前通り、ポストイットに絵を描いて参加者みんな同じ25ドルで売るというなんともシンプルな趣旨のものだった。



落書きが好きだった私は「なんだこれ!楽しすぎる!」と手が止まらなくなり、描きまくった結果初参加で合計20枚ぐらい描いた。他の参加者は、1枚だけという人もいれば私のように数描く人も多数。そして迎えたオープニング。不誠実なことに人混み&狭い空間が苦手な私は行かなかった。


(オープニングの様子。画像はギャラリーウェブサイトから。)

なんでこんなに人が多いのか(徹夜組の行列ができるほど)というと、実はこの膨大なポストイットの海の中にあのJames Jean寺田克也氏などの有名画家のポストイットが息を潜めているからだ。普段は手の届かない値段だったり、ましてや原画など一生手に入らないだろうに、それがここではなんとたったの25ドルで購入できる!ファンにとってはたまらない機会だ。なので初日には我先にと行列ができる。そのことを理解していたので、そのおこぼれで誰か私の絵を買ってくれればいいな、と呑気に考えていた。

そしたら次の日、授業中に自分のインスタグラムのお知らせが次々と光った。なんと、たくさんの人が自分の作品を買ってネットに載せてくれたのである。会ったこともない、縁もない、友達でも先生でもない、ただの他人がわざわざお金を払って学生の自分の絵を家に持ち帰ってくれた。これとない喜びを初めて味わった日だった。インターネット上で「いいね」をたくさん貰うのも嬉しいけど、この感情は別次元のものだった。しばらくは周りに自慢し、これほどまでに浮かれたことは無かった。後々に小さなプレッシャーが自分に近づいて来ていることも知らずに。


初参加にも関わらずほとんど完売した私はオーナーに一目置かれたようだ。次の月にはGiant Robotから30人ほどのグループ個展のお誘いが来た。当時の恋人であり現在の戦友、レオと共に。二人で喜んだ。他の学生たちと差がついたぜ!私たちは一歩先に行く!と慢心していた。私は何を描こうか何も考えず、大きなキャンバスを2枚ほど買い、絵の具を乗せ、手が動くままに書いた。(万が一売れたら…)と考え、値段も高めに設定した。


(当時のフライヤー。私は今までマメに記録を撮ってこなかったので、ほとんどインスタグラムのスクショしかないです。すいません。)



いつも通り、作業の行程をインスタグラムに投稿しながら、作品は完成させた。しかし、完成作品の写真は無い。それはそうだ。だって、気に入らなかったから。何も考えず、ノリと描きたいものをパネルに吐き出しただけだった。そもそも、今思えばこの小さなギャラリーにはこの2つの絵は大きすぎた。30人のグループ展の中で、一番大きくて下手くそな自分の絵が目立って恥ずかしかった。もちろんオープニングには行かず、クオリティに対して高すぎる値段の自分の作品も売れなかった。数ヶ月後に2枚の絵は私の手に戻って来て、のちに実家の物置に眠るように置かれた。

あーあ、これでもう次の展示には声がかからないや。だっていい作品つくれなかったし、売れなかったし。チャンスを無駄にした。くそ。

と落ち込んだ。とにかく恥ずかしかった。


しかし数ヶ月後にはまたお誘いが来た。驚いた。だが落ち込んでる暇はない!チャンス到来!次こそはちゃんともうちょっと頭を使って描くぞ、と心に決めた。よし、自分だったらどんな絵が欲しいか考えよう。



今度は購入しやすい(大きい絵は余裕ある人しか買えないイメージがあった)小さめな8x10インチのパネルを買い、「絵」というよりはポスターよりというかグラフィックよりというか、お洒落アイテムとしての物体を意識して描いた。値段の設定に関してもサイズは小さいし、ギャラリーのメインターゲットである若者でも買いやすいように2万以下に(当時の値段を覚えていない)設定した。そしたら売れた。しかも購入者から「素敵な絵!ちゃんと大事にします。これからも応援してます。」とのコメント付き。嬉しかった。と同時に確信した。よし、自分に足りなかったのは腕じゃなくて頭だったんだ。もっと「売れる」絵を描けばいいんだ。「自分が描きたい」じゃなくて「民衆が好き」な絵にすればいいんだ。


次に私は「トトロ」をモチーフにした展示に誘われた。


前回と同じように小さめな8x10インチのパネルに、今回は色鮮やかな世界観の絵を描いた。「上手な絵」と言うよりは「色が綺麗で見ていて楽しい」の感覚を重視してみた。後ろに関してもサインだけじゃなくて小さなイラストが入ってたら嬉しいかな、と思い小さなトトロを追加した。


今回は初めてオープニングに顔を出した。流石にずっと顔を出さないのはまずいと思ったからだ。オーナーに挨拶して友達とラーメンを食べてすぐ帰ったが。やはり、私は作品の完成写真(又はスキャン画像)をちゃんと残すことはしなかった。というか、したいと思わなかった。つまりはそういうことなんだと思う。完成に満足してない。だから行程しか記録に残してない。というか完成に興味がないことに後々気が付いた。

ただ、描きたいだけなんだ。線を、筆を走らせたい。それだけだった。


次にはプリントショーといって、原画ではなく印刷したものを売る展示に誘われた。そもそもデジタル派だった私はこれだ!と思い、気合いを入れて描いた。同時期に誘われた戦友たちは1枚しか提出しなかったが、私は3枚も提出した。デジタルに関しては本領発揮ができたような気がしたから。



この3デザインに関してはちゃんとウェブサイトにも載せたし、完成画像もアップした。やはり、完成に満足していたからだろうか。売れ行きはまぁまぁだった。いや、というか完売し、結果的には良い方だったのだがプリントは基本的に値段設定が安めで、ギャラリーが50%売り上げを持っていくので、自分の懐に入る額は少なかった。だが心に何かストンと落ちるものがあった。ここら辺で私は自分の強さに気が付いた気がする。しかしその小さな発見は忙しいアートセンター学生の身でその上日々更新される膨大な情報の量に流されすぐ忘れてしまった。


そしてしばらくギャラリーからは音沙汰がなく、年の終わりで忘れた頃にまたポストイットショーのお誘いが来た。もちろん参加した。




ポストイットショーに関してはもう描きたいものを描くことにした。アンニュイな女の子やレース、模様や葉っぱなどとにかく細かいものを詰め込んだ。そして、今回も合計16枚ぐらい描いたと記憶している。そしてやはり完成した画像は無い。なぜスキャンするという発想が無いのか。(いやあったが、しなかっただけだ。)この年もわりかしほとんど売れた。一枚25ドルで販売し、売り上げを50%ギャラリーが持っていくので一枚に対し儲けは12ドルちょっとだが、それが10枚以上となれば100ドル以上はいく。自分では落書きしたつもりなのにそれがその額となって返ってくるので私にとっては楽だった。何より学生にとっては嬉しいお小遣いだった。この気軽さと楽しさを忘れずに作品を作ろう、と思いながら眠りに着いた。


しかし、ここから少しずつ私の迷走が始まる。自分の体と脳と心とが合わさった歯車が狂い初めていたことに気がつかなかったのだ。



前回のトトロショーで私の作品が売れたせいか、またお誘いがきた。よし、今回は今までのペインティングじゃなくて線画をメインしたものを描くぞ〜!みんな、細かい線画って好きだしね、と軽い気持ちでペンをとった。



良い感じだ〜!そもそも野いちごや色んな植物を描くのが好きだったので、描いている間は楽しかった。墨で影もつけ、完成に近づいていった。

しかし、気がつくと私は描き込み過ぎていた。

途中で辞めればよかったのに、余計なものをいっぱい詰めてしまった。この時は気がつかなかったが、私は息抜きをする術を知らなかった。原画は全てを注ぎ込んで、細かいものにしないと売れにくいと思い込んでいた。何より、シンプルにするのが怖かった。自分はシンプルなものが好きなくせに。あとで見たら視線のフォーカスがない、ラインがオーバーラップしている、強弱がない、見所が定まってない、なんともやりすぎて勿体無い森となった。これがエディトリアルの仕事だったらボツだ。



結局作品は売れず、私の手に返ってきた。そして「トトロ」という民衆が大好きな題材を使って値段設定も低めなことにも関わらず、誰も買わなかったと言うことは私の心に大きな傷を与えた。やっぱり、自分はもうちょっと考えて絵を描かないと駄目なんだ、と思った。


落ち込んでいる間にまたお誘いがきた。次のテーマは「植物」。よし、大得意なテーマだ!今度こそ挽回するぜ!!と息込んだ自分。


実家の猫に邪魔されながらも、珍しくスケッチをして(私は驚くほどに下絵を描かない。これが吉と転ぶこともあるし凶になることもある。)tumblrで参考資料を見ながらお洒落な植物に囲まれたバスタブと動物をイメージしながら描いた。今回はちゃんと息抜きも大事すると決めた。

そのはずなのに。



しかし結局、完成画像はない。満足しなかったからだ。あーあ、もうギャラリー向いてないかも。やっぱりデジタルじゃないと自分の本領発揮できないのかなぁ、と諦め掛けていた頃にまた違う展示のお誘いがきた。ちなみにこの時点で大学4年生で23歳の自分の卒業は8ヶ月後に迫っている。


「干支」がテーマの展示だった。猿を描いた。この頃はもう色々疲れていて、気を抜いて描いた。完成には満足してなかったが。どーせ売れないしと思いつつ数ヶ月後には売れた。嬉しかったが、忙しく余韻に浸れなかった。


テーマは忘れたが売れなかった。この時もショックを受けた。日本モチーフだったらなんでも売れると思ったのに!自分はさらに落ち込んだ。3年経った今になって見返してみれば、改善点はいっぱいあるのだが当時はとりあえず作品を作り続けることに必死で、「どうやったら完成に見えるか」なども考えずにひたすら手が動くままにペンを走らせていた。


珍しくGiant Robot以外からのお誘いもいただいた。近所のco-LAb galleryと言う新しい小さなギャラリーで「$100ショー」という予算が100ドルで作品を提供すると言うものだった。この時もキノコを描いている間は楽しかったが、やはり完成には満足してなかった。そして作品が売れたかも残ったのかも覚えてない。その程度だったのだ。


このギャラリーからまた「植物」をモチーフにお誘いがきたので3点出した。今回は枠にも色を取り入れて目立つようにした。が、やはり完成画像はない。この時は卒業準備と重なり色々迷走していたからだ。ちなみにこの作品たちは売れなかったし、取りにも行ってないし、ギャラリーは色々頑張っていたが結局売り上げが伸びずに2年で幕を閉じてしまった。この作品たちがどこに行ったかもわからないし酷い話だが興味がなかった。



時は数ヶ月遡り、またGiant Robotに戻ってUgly dollをテーマに作品を出した。この頃には最初に売れた色鮮やかなトトロの絵を思い出してカラフルにポップに描いてみた。これは珍しく自分でも気に入ってたし、ちゃんと売れた。この頃は旭ハジメさんの「物を沢山描いた絵」に影響を受けている。


そして前回売れなかったのに、またトトロ展に呼ばれた。



いつまでもうじうじしてられないし、次はちゃんと絵本というかジブリ感を大事にした絵を描こう!と思い、原作のナウシカを読みつつトトロ映画を見直し、線画タッチに戻した。これはなんと締め切りより大幅に終わらせたせいかフライヤーにも使われた。嬉しかった。ちなみにこの時点で私は大学を卒業し、2ヶ月ほど経っている。仕事に繋げるためにはいい作品を作らないと、と焦っていた。と同時に焦っても何にもならないことは知っていたが、焦らずにはいられなかった。




そうこうしているうちに年の終わりが近づいて、またポストイットショーの季節となった。有難いことに毎年お誘いがきた。この年も。


この時は卒業したばっかりだし、数射ちゃ当たる!!と思いなんと24枚も描いた。やっぱりポストイットに描くのは楽しい。これだけやっていたい。なんかパネルに気合いを入れて描くと毎回描き込みすぎて失敗する。永遠の悩みのテーマだ。そして今回も私は完成画像を記録に残さなかった。こんなに描いても満足いかなかったのだろうか。私が作品を写真に撮るまたはスキャンして、記録を残す。そんな日は来るのだろうか。いやプロとして来なければならない。そう思いながら私はGiant Robot宛てに作品を送り続けた




とりあえず一旦ここまで。何日に渡って下書きも編集も何回かしたんですがやっぱり2部にする方がいいと思ったのでキリのいいところで切ります。そして今ものすごく恥ずかしい気持ちでいっぱいです。過去の作品って見てられない。でも、やっぱりこういうのを見返して研究したりしないと成長に繋がらないと思うので腹をくくりました。あと意外にギャラリーに出展してさせてもらえたんだな、と気づいたので感謝の気持ちでいっぱいです。いつも「良い絵を楽しみにしてるよ!」と言ってくれるオーナーのエリックには頭が上がりません。これからも頑張るよ。また近いうちに続きを書きます。

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