見出し画像

『あなたへ(Dears)』伊藤郁女(Compagnie Himé):亡くなった大切な人への手紙から創作したダンス

フランスなどヨーロッパを中心に活動する振付家・ダンサーの伊藤郁女(いとう かおり)が主宰するカンパニー「Compagnie Himé」のダンス公演。1人の俳優と5人のダンサーと作り上げた作品で、伊藤はけがをしたダンサーの代役として出演した。

出演者たちと書いた、亡くなった大切な人への手紙や、東北の「風の電話」(亡くなった人に電話するために設置された電話ボックス)をパリのコリーヌ国立劇場に設置し、その電話で話した人たちの声を基に、ダンスが創作された。

俳優がその話を声で語り(フランス語の言葉の日本語訳が舞台の壁に映し出された)、ダンサーも名前を呼んだり叫んだりするが、予想していたよりも作品全体で言葉の分量は多くはない。

死者が生者に絡みついたり、身体で呼応したり、灰色がかった白色のペンキのようなものを体に塗ったりする。俳優は動きの負荷を少し減らしたりの配慮は見られたもののダンサーと一緒に踊る。

ダンサーは皆それぞれ身に付けてきたダンスの背景は異なるようだが、動きの柔らかさ、反応の繊細さ、感情の表出力が高い。

音楽は録音音源で、和太鼓の演奏や日本語の歌も使われていた(俳優は「やめて!」という日本語も発していた)。抒情的で有名なクラシック音楽や、ガチャガチャしたノイズっぽい激しい音楽も登場。

これまで見た伊藤の作品と同様、本作でも(本格的な?)開演前からダンサーが舞台に出てくる。声も踊りもだんだん激しくなっていき、所々ユーモラスな動きもあった(観客の中で明確に笑い声を立てていたのはフランス語話者たちだったかも)。

「あなたがいなくなってしまったことは悲しいけれど、その経験を無駄にせず、私(たち)は力強く生きていくからね」という意志、生命力を感じた。時にあんなふうに死者と語らいたい。

コンセプトがはっきりしていて、しっかり「踊る」点が、なんとなく「フランスらしい」と思う。もっとわけのわからないダンスに引かれることもあるが、伊藤の作風は好きだ。創作の意図どおりにカタルシスを感じてしまうのが少し怖い気もするけれど。

コンテンポラリーダンスの中でとっつきやすい作品だと思うし、とてもいい公演だったので、観客席に空席があるのも、3回しか上演しないのも、もったいない。

▼伊藤郁女の過去公演レビュー

▼『あなたへ』予告動画

▼『あなたへ』公演に際した伊藤郁女インタビュー記事

▼穂の国とよはし芸術劇場PLATでのレジデンス

▼伊藤郁女の公式サイト

(※敬称略)

作品情報

「ヨコハマダンスコレクション2021」
伊藤郁女(Compagnie Himé)『あなたへ』

2021年12月3日(金)19時、4日(土)18時、5日(日)18時
横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール

【前売】一般:3,500円/U-25:3,000円/高校生以下:1,500円
【当日】4,000円

アートディレクター・振付:伊藤郁女
テキスト:伊藤郁女、Delphine Lanson、出演者
創作協力:Gabriel Wong
出演:Marvin Clech(マルヴィン・クレッシュ), 伊藤郁女(※Jon Debande代役), Nicolas Garsault(二コラ・ガルソー), Louis Gillard(ルイ・ジアール), Delphine Lanson(デルフィン・ランソン), Leonore Zurfluh(レオノール・ズールフリュ)
作曲:François Caffenne
戯曲協力:Taïcyr Fadel
舞台監督:Thomas Dupeyron
照明:François Dareys、Thomas Dupeyron(※交互に参加)
音響:Coline Honnons、Adrien Maury(※交互に参加)
制作:Améla Alihodzic, Coralie Guibert, Laura Terrieux, Lucila Piffer and Anne Vion.
スペシャルサンクス:Carlo Bourguignon, Arno Veyrat, Lazslo Gabuka-Lanson, Stéphane Batut, Céline Dartanian, Altan Zul, Benjamin Minimum, Noemie Ettlin, Yoshi Oïda, 手紙を託してくれたLa Parole nochèreプロジェクトの参加者、Wajdi Mouawad、Théâtre de la Colline team for their complicity.
制作:Compagnie Himé
共同制作:KLAP – Maison pour la Danse MARSEILLE, Mac CRETEIL, CentQuatre PARIS, Halles de Schaerbeek BRUSSELS BELGIUM, Théâtre du Fil de l’eau PANTIN Agora PNC BOULAZAC Aquitaine, Théâtre de SAINT-QUENTIN-EN-YVELINES, scène nationale, MA scène nationale – PAYS DE MONTBÉLIARD, PLAT TOYOHASHI JAPON, Château of Monthelon – MONTREAL.
※この作品はフランス預金供託公庫のメセナ支援を受けている。
※横浜赤レンガ倉庫1号館での『あなたへ』の上演は、アンスティチュ・フランセの助成により実現。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?