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インタビュー#6 常に越え続けると、ある日突然大きなジャンプができるようになる。

今回は、東京都の公立小学校に勤める二川佳祐(ふたかわ けいすけ)さんからお話を伺いました。

(私が現役の先生にインタビューをする理由は、こちらの記事に書いています。)

現在、教員として小学校で担任を務めながら、ご自身で『BeYondLabo(ビヨンド・ラボ)』というコミュニティを運営する二川さん。学校の内外を問わず新しい挑戦をし続け、子ども達だけではなく、周囲の先生達にも影響を与える存在感のある先生です。

ー 教員になろうと思ったきっかけを教えてください。

中学2年生の時に、教員になろうと思ったんですよね。結構早く決めていました。当時、環境とチャンスを与えてくれた先生がいて、中学校なのにある程度の自主性が重んじられていて、学級委員とか文化祭実行委員とかそういうものをやらせてもらえたんです。

その経験から、自分自身が伸びた3年間でした。すごく楽しかったんですよ。自分でもそういう場所が提供できたらすごく良いなと思って。それで教員を目指しました。

ー 担任の先生が魅力的な方だったのでしょうか。

担任と言うより、その学校全体が良かった。思い浮かぶ先生は何人もいて、一人じゃないんですよ。学校として、そういうのを後押ししてくれるところでした。別に強制するわけでもないし、大切にしてもらえました。支えてくれる感じで「どうしたいの?」っていうのを聞いてくれるような学校でしたね。

ー 中学校ではなく、小学校の先生になったのはなぜですか。

大熊先生(現小金井市教育長)とぬまっち先生という方がいて、その先生に大学3年生のときに教育実習でお世話になりました。すごいぶっ飛んでるし、子ども達を学校の外にもじゃんじゃん連れていく。

例えば、近くのデパートに子ども達を連れて行って社会科見学してきちゃうとか。今思うと本当に色んな面白い取り組みをしていたんだなと感じます。そういうのに最初に触れたのが大きかったと思います。こんなに枠からはみ出ても良いんだって思えました。

ー 小学校の先生になってから、特に印象に残っていることはありますか。

3年目までは無我夢中でやっている感じでしたね。あるクラスの最後にスライドショーを作って親御さんにも見せたんです。その時に大号泣してしまうお母さんがいて。手紙ももらいました。「先生との出会いは娘の宝物です。」って言われて。あぁ、なんかやってて良かった。っていう達成感を得ましたね。

そして、その後どん底を味わった。学級崩壊を経験しました。本当に毎日行きたくないって思いました。色々なことがあり、本当にやってて辛いっていうのが、最初の数年の経験でしたね。

ー その時に、辞めようとは思わなかったのでしょうか。

周りの先生にも、よく辞めなかったねって言われましたね。でもなんか、辞めるっていう選択肢はなかったんですよ。僕が今色々やっている原動力がまさにそこで、その次の年から、「もうあんな思いを子どもにさせちゃいけない。保護者にもさせちゃいけない。」っていう、ものすごく強火で燃えている火があって。その子たちへの罪滅ぼしじゃないですけど、償いとして成長し続けたり、学び続けたり、変わり続けたりする必要があるっていうのはずっと思っています。

まぁ、その子たちに会ったら消えちゃうのかもしれないですけど。もし、会う日が来たら。そうですね。ちゃんと胸はって会えるようにしておきたいなと思ってますね。日々変わろうとしています。あの時の自分じゃダメだって。

ー 次に異動した先の学校ではどのような経験をしましたか。

異動した1年目に、たまたま友人と再会しました。青砥瑞人くんという脳神経科学の知見を教育に取り入れていく会社(DAncing Einstein)を創っている人で、高校の同級生でした。

彼に半年間コンサルティングをしてもらいながら、僕自身は教室内で菊池省三先生の「褒め言葉のシャワー」という実践を続けました。それが僕の中ですごいブレイクスルーした経験があります。

そこから、学ばなきゃという気持ちと同時に、学ぶことの楽しさも味わいました。根底にはさっき言ったように使命感みたいなものもありましたけど、学ぶことの楽しさを自分自身が体現していく必要があると感じました。

ー 学ぶことのどんなところに楽しさを感じたのでしょうか。

一番思ったのが、モヤモヤですね。例えばダイエットだと、最初はすぐに体重が落ちる。その後、あまり変化しない時期が必ず来て、そこで大体みんな辞めちゃう。この、あまり変化しない時期ってすごくモヤモヤするし、退屈だしつまんないんですよね。でも、彼(高校時代の友人)に伴走してもらいながら一番教えてもらったのは、あまり変化しない時期の後に絶対に大きく変化する時が来る、ということでした。

「それが来るんだから、ここで辞めちゃダメだよ。むしろここを楽しんで改善を続けていかないと。」ということを言われました。それはなんか本当に腹落ちしたんですよね。

何を学ぶにしても、最初は刺激が多くて楽しいけど、段々飽きてくるんです。だけど、その飽きがこの後に来る結果の前兆だったりする。モヤモヤも楽しまなきゃいけないんだっていうのを教えてもらいました。そこを知れたことが一番大きかったですね。

「褒め言葉のシャワー」を実践する中で、僕は何回も辞めたがってたんですよ。彼がその度に2週間に1回くらいミーティングをしてくれて、僕は「全然出来てない」って言うんですけど、彼は「めちゃくちゃ変化している。だから続けよう」っていうフィードバックをくれた。

最終的には、大きな変化が起きました。それを体験して、こう言うことかって、ものすごく腹落ちしましたね。

ー あまり変化がない時は、どんな工夫をしましたか。

本当につまんないし、退屈だし、変化もないし、飽きてくるし、でもそういう時こそ手を動かして記録を取るんです。あとは、ちょっとした改善をしたりしました。

その蓄積が、後々大きく変化する時のジャンプ台になってくれたんだと思います。子どもが変わるってこういうことかって、体感しました。だから、子ども達にも続けないと意味がないってことを伝えています。

ー 今の学校で、力を入れていることはありますか。

この2年間は校内研究の研究主任を担当させてもらいました。僕は全然得意じゃないですけど、新学習指導要領に向けてみんなで外国語の勉強をしました。どうやったら教職員が楽しみながら深く学べて、「やってよかった」って思える研究になるかを考えましたね。

今年の1月に研究発表があったんですけど、ある程度の手応えがありました。いい経験だったなと実感しています。

ー どんな研究をしたのでしょうか。

僕は結局、先生達は新しいものをすごく拒む傾向があると思っています。プログラミングだってそうだし、英語だってそうだし、すごく怖いし時間も奪われるし、子どもの前で自信持って指導できないしって思ってしまうんです。

だから、先生達が英語を楽しまなきゃいけないと思っています。いきなり「研修やりましょう!」じゃなくて、まず実践してみようと思って、最初は実際に授業をやってみました。そして案の定、上手くいきませんでした。でもそれでいいんだっていうことを見せたくて、チャレンジする姿勢だけは示せたかなと思いました。

このやり方が校内研究の王道かと言われると全くそうではなくて、「こんなの研究じゃない」って言われたことも多々あったんですけどね。

僕らの喉が乾かないと水は美味しく飲めない。やってみて、「本当にまずい」と。欠乏感とか失望感とか切実感とかそういうものがないと、外国語の勉強も学びが入っていかないと思うんですよね。だから、まずは実践してみてやってみて、「自分このままじゃまずい」っていう欠乏感を手に入れて欲しいと思ったんです。

あと、授業の指導案作成も、簡単にしたり、A4用紙1枚だけにしたりしました。授業前には先生たちを対象に模擬授業をしました。実際に授業をやってみた方が先生もわかるし、やる方も見る方もイメージが掴みやすいと思います。それにフィードバックもしやすい。

他にも、夏休み中には先生達に対して「本を読んできてA4にまとめてきてください」って言う宿題を出したりとかしました。

あとは、English dayを設けて、その日の掃除の放送は英語でアナウンスをしたりもしました。僕はただ、「English dayいいですね!」って話しただけなんですが、先生達が「こうしたら良いんじゃない」とか色んな意見を出してくれて実現しました。

先生達って、すごいんですよ。本当に、それぞれの専門性には敵わないと思います。

校内研究では、大人が学ぶことをどうデザインしていくかって言うことを考えましたね。これらは1日でやった訳ではなくて、2年かけてやりました。

研究発表の当日は、4つくらいブースを設けて全員が発表者になりました。研究発表って研究主任が発表しがちなんですけど、そうじゃなくて全員参加する形にしました。それがすごくうまくいって、“お客様”がいなくなったんですよ。

「何やったらいいの?」って言う意見ももちろん出ましたけど、でも何かやらなきゃいけないって誰もが思って、みんな主体的に動いてくれました。本当に頼もしい先生達だなと思いながら。嬉しかったですね、その日は。

先生達って標準でいたがるんですけど、そうじゃなくて、尖った部分をもっと見せようよ、って僕は思っています。縄跳び得意だったら縄跳び跳べばいいし。楽器が得意なら楽器をやればいい。子どもはそういうのを見るとすごく嬉しいと思うんです。これは毎回言うんですけど、“二川佳祐”で見て欲しい。一人の人間として。もちろん先生でいなきゃいけない部分もあるけど、その前に一人の人間なんだっていうのを子どもに感じて欲しいですね。

ー ただの校内研究ではない感じがしますね。

そうですね。とにかくやってみようって言うことを伝えたいと思ってやりました。学ぶってことにも近いんですけど、やってみないとわかんない。一歩踏み出さない限り気づけないっていうのがやっぱり根底にあって。

あと、続けないと見えないこともある。

「これやりましょう!」って大きい岩を動かそうとするんじゃなくて、ちっちゃい小指でも動かせるくらいの実践を始めてみて、それがみんな楽しければ大きくなっていく。小さくても始めないと何も起こらないんですよっていうのをずっと言い続けていました。

「〇〇しなければならぬ」じゃなくて、「〇〇したい」。「校内研究やんなきゃいけない」ってなるのがすごい嫌で。本来は研究って楽しい時間だと思うんです。だって授業のことを考えられる時間じゃないですか。

本来みんな授業がしたくて先生になったはずなのに、その優先順位がどんどん下がって授業準備ができなくなって、そうすると学級も楽しくなくなって負のスパイラルに陥る。校内研究って授業のことを考えられる時間の枠組みとしてちゃんと確保されている。そこをもっと楽しい時間にしたいと思っています。

例えば、僕は今使っているこのパソコンすごく気に入ってるんですけど、もしあまり好きじゃなかったら相手に勧められないじゃないですか。好きでしょうがなかったら、誰かに言われなくても勝手に勧めたりもしますよね。それと一緒で、僕らが楽しくしていないと、やっぱり子どもに楽しさなんか伝わるわけないよねって思います。

まずいものを食べさせて「おいしいって言いなさい」って、ちゃんちゃらおかしい話で。それを教員が美味しく料理するんじゃないの?って思います。「まずいけど、頑張って食べようね」っていう方法もあるとは思うんですけど、まずいものをおいしいと言わせるのは間違ってると思います。それは子どもに嘘をついていて、誠実じゃない。まぁ、口で言うのは簡単なんですけどね(笑)

ー この先、挑戦したいことはありますか。

たくさんありますよ。まずは、SDGsを授業と絡めて色々やりたいですね。もっと社会とつながった授業をしたいと思っています。

僕らにできることは限られてるし、喋れることも多くないから、色んな人が学校に入りやすくするって言うのが可能になればいいなと。でもそのためにはまず僕が学校の外と繋がっていく必要があるし、学校も敷居を下げておく必要がある。

そのために、一つの手法としてSDGsがあると思っています。あれって、国連とかユニセフとかそう言うところが関わってるから、すごいちゃんとしたものじゃないですか。学校も認めざるを得ないと思うんです。まぁ、利用するじゃないですけど、それをきっかけに社会と学校がもっと繋がったり、一緒にプロジェクトができたらいいなと思ってるんですよね。

あとは、クラウドファウンディングをしたいって単純に思っていて。今、色んな人に「日本はお金の使い方を教えない」って言われてますよね。本当にそうだなと思って。稼ぎ方とかも。

お金が欲しい訳じゃなくて、こんなこと出来たらいいよねっていうのが叶うとしたら、そんな嬉しいことないじゃないですか。一人だと実現するのが難しくても、何人か面白がってくれる人がいたり、地元の企業の人がいたりとか、保護者の人がお金を出してくれたりとか、みんなが力を貸してくれて叶うのであれば、その経験がその後の一生に生きてくるんじゃないかなと思います。

ー そのような考えに至ったのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

過去に「先生インターン」っていうのをやりまして。たった3日間でしたが、教員は世間知らずって言うことに対しての僕なりのアタックだったんですよ。

仕事は完全休暇取って、講座のイベントで知り合った人事の方に、「ちょっとやらせてください」ってお願いしてやらせてもらいました。会社に3日間いさせてもらって、プレゼンさせてもらって。

これは単発になっちゃったんですけど、自分が入ってみないとっていうのは大事にしています。

ー 現在運営されている『BeYondLabo(ビヨンド・ラボ)』は、どのような理念で活動してい るのでしょうか。

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(写真:最前列右から5番目が二川さん)

なんでこんなことやってるんだろうって分かんなくなりますけど(笑)その時にやりたいからやってる。

大事にしてることは、学びを楽しむ大人を増やしていきましょうってことです。それが、子どものためにもなりますよっていう。それと、学校と社会の垣根をどんどん低くしましょうと。

子どももどんどん来てくださいって言っていて、子連れOKにしています。子どもと一緒に学ぶ大人を増やして、そういう姿を見せていくことが将来の投資になると思っています。

渋谷や新宿ではキラキラしたセミナーはあるけど、それが地元や地域には降りてこない。地域でやるっていうのは大事だと思うし、地域にも面白い人がいたりするから、そういう人から学ぶ機会を作りたいと思っています。

「Beyond」って「越える」と言う意味なんですけど、教育と社会を越えるのもそうだし、自分自身を越えるっていうのもそうだと思っています。常に越え続けると、ある日突然大きなジャンプができるようになる。それは小さな小さな一歩の積み重ねなんです。僕が過去に伴走してもらったように、人は誰かに伴走してもらいながらやる必要がある。全然利害関係のない斜めの繋がりが、特に大事だと思っています。

ー 二川さん、ありがとうございました!

インタビュー後記もご覧ください。

最後までお読みいただきありがとうございます(*´-`) また覗きに来てください。