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#43 コロ助はインスタントラーメンを作るのがうまいね。

#1コマでどれだけ語れるかチャレンジ

自立への大いなる一歩は満足なる胃にあり。
ルキウス・アンナエウス・セネカ
ローマ帝国の政治家、哲学者、詩人、「書簡集」より

小学校4年生の頃は、母がパートに出ていたため、学校から帰ってきても家には誰もいなかった。

そのころの僕は近所の友達と毎日のように遊んでいて、僕の家で遊んだり、友達の家で遊んだりしていた。だから、どちらの家にせよ子供だけで家にいるという事が多かった。

友達には妹がいてよくその妹も一緒に遊んでいた。僕の家に来ると、狭い借家だったので、ゲームをしたり本を読んだりするくらいしかできなかった。

それに日中は母がいないので、友達とおやつを食べようと思っても、どれをどれだけ食べていいのかの判断がしにくく、小腹がすいている時でも母がかえってきて、ご飯を用意してくれるまで我慢せざるを得なかった。

母が働きに出るまでは、我が家の食卓には冷凍食品が活用されていなかったように思う。だが、働きだした母が少しでも家事の負担を減らすために、徐々に食卓に冷凍食品が導入されたのも、この頃だった。

袋から出して、電子レンジかトースターに入れる。

それだけで、美味しい焼きおにぎりが出来る。僕はこの行為に心をときめかせた。食卓に登場したときは、兄と取り合いになったほどだ。

そしてある日、普段はトーストに乗せる「とろけるチーズ」を上にかけてチンすると、それはもうご馳走になるという世紀の発明をしていた。あまりのその美味しさに、兄とは殴り合いになった。美味しさは人を狂わせる。禁忌とされるべきであるとさえ思えた。

ちなみに、こんなのだ。

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その日も、友達とその妹が来た時、僕は子供なりに彼らをもてなそうとしたが、その日は都合のいいおやつが無かった。しかし、焼きおにぎりとチーズはあった。

僕は友達とその妹がその味に狂ってしまうかもしれないとわかっていたが、この悪魔的発明「チーズ焼きおにぎり」を振る舞う事にし、大好評と大絶賛と羨望と名誉を得た。やはり、美味しさは人を狂わしたのだ。

ところでその時、僕は何故か大人の階段を上った気がしていた。

「もう自分は食べる物を自分で用意できるような人間なのだ。そして、それを友達に振る舞う事の出来るような立派な人間になったのだ。もしかして、これが・・・大人なの、かな?へへっ。」

ただレンチンしただけなのに。

あれは一体、なんの高揚感だったのかと考えたところ、どうやら大人の目が届かないところで、自分で食べ物を用意した。という事がポイントになるように思えた。

ここで是非、このコマをご覧いただきたい。

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てんとう虫コミックスキテレツ大百科第3巻収録 
「物置でアフリカへ」からの1コマ。

冬休み、みよちゃんが今度ママが九州旅行へ連れて行ってくれると自慢している。他の友達も、うちは箱根、うちは山梨。と言い合っている。それを聞いていたコロ助はうらやましくなり、パパとママに旅行に行きたいと訴えるが取り合えってもらえない。キテレツは何かを黙々と開発しており、どこかへ旅行へ行くのを諦めたコロ助はふて寝してしまう。しかし、キテレツが作っていたのは小さいけど強力な熱気球で、これで世界一周をしようとコロ助に提案し、家の物置を使って実行に移す。浮かび上がった物置は速度を出す為に、飛行機にロープをかけて移動する。やがて夜が来てパパとママは帰ってこない彼らを心配しているが、キテレツとコロ助は物置の中でのんきにラーメンで食事をしている。

というシーンである。

まず見ていただきたいのは、彼らの表情だ。

ご飯を食べながら、にっこにこのにっこにこである。

なんこれ?可愛すぎっしょ。

家から持ってきたやわらかそうなクッションの上に、足を投げ出すような形で座っているのも、子供らしさが表れておりかなりポイントが高い(何のだ)

そして、セリフが追い打ちをかけてくる。

「コロ助はインスタントラーメンを作るのがうまいね。」

たまに聞く、こんな冗談話がある。

こう見えても料理上手なんです。カレーが特に得意です。
この前も、ちょうどいい温度にあたためてくれたねって褒められたし。
(レトルトカレーという事)

これと似たようなおかしみがある。

インスタントラーメンを作るという行為は、よっぽど下手な事をしなければ、誰が作っても同じ味かも知れない。しかし、日々、研究や開発に没頭しているキテレツからしたら、コロ助がそれを作れるという事は凄い事なのだ。

そして、世界一周を目指して冒険しているという非日常的な状況が、何てことの無いインスタントラーメンの味をより一層美味しくしている事は、言うまでもない。

だからこの「コロ助はインスタントラーメンを作るのがうまいね。」というセリフには、面白さのレイヤーが重なって深みを出す要素となっている。

これだけでも面白いのに、コロ助のセリフはトドメを指しに来る。

「そろそろアフリカにつくころかしらナリ。」

コロ助は世界一周というよりも、アフリカでライオン狩りをしたいのである。気球がキテレツの計画ではアフリカに行かないという事がわかった時も、大声を出して駄々をこねていた。その上でさらに、目指してもいないアフリカに、もうつくかな。と言っているのだ。

この子供らしさ。あくまでも自分の希望は通ると思っている。事実よりも希望を優先している。

下の記事でも言及したが、コロ助の精神年齢は保育園児並みで設定されている。

いくら設定があるとはいえ、コロ助ならばこう言うよね。をあまりにもうまく出来すぎている。それゆえに、このセリフは話の大筋からも、大きくピントがずれており、そこが面白さをさらに倍増させている。

そしてさらに、2人の今回の冒険があくまでも自分たち、子供たちだけで行われているという事から決して逸脱させていない。本当にもう、少し不思議とは良く言ったものである。

この「物置でアフリカへ」は、地球の自転、重力、物理、地理、飛行速度、時間軸などの知識や認識が必要になるため、少しだけだがいつものキテレツ大百科よりは難しい印象がある。

それを緩和するかのようなこの1コマには、マンガの読者の目線を決して忘れていないF先生のやさしさだけでなく、細かな設定と考え抜かれたセリフ回しが込められている。2人の関係性と、らしさが存分に表現された愛すべきコマなのである。

この話に出てくる飛行機はJALなので、JALは即刻、機内パンフレットにインスタントラーメンのご用意とこのコマを入れてはいかがだろうか。もちろん、羽田〜宮崎間である。その下に、アフリカへの国際線を使ったツアーでも載せておけば、広告としても完璧だ。

それ以外にもこの話は、本当に無駄が無い。傑作なんじゃないだろうか。ちょっと1コマからははみ出して語らせて欲しい。

例えば、このコマ、

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引っ張られる飛行機の速度によって、物置は縦から横になっている。ここら辺はとても細かい描写で、自然すぎて見逃してしまう。成功!じゃない、衝撃でケガでもしたらどうする。

キリが無くなってしまうが、この流れも見て欲しい。

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ライオンの手に当たったのは、2人がインスタントラーメンを食べたどんぶりである。あと、ライオンってウキャって鳴くんですね?そして、打開策の為のマッチを見つけるという流れ。お見事すぎ。

他にも、超高空から落ちても生きてるとか、まだまだあるけど気になる方は、この話はこちらから全て試し読みが出来るのでどうぞ。
※第3巻の試し読み

ってか、買った方が良いよ。僕は持っているし。

冒頭、僕は友達とその妹にチーズ焼きおにぎりを振る舞った時、なんだか大人になったみたいな気分だったと言った。

誰しも食べるという行為は、生きる上で必ずしなくてはならない。子供の頃は自動的に(?)ご飯が出てくるのが当たり前だったが、やがて自分でそれを獲得していくようになった。だから、

「自分で食べるようになる」

それが大人になるための1つの要素なのかも知れない。

僕にとっては、友達とその妹を狂わせたのが、その第1歩だったのだろう。

レンチンしただけだけど。


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