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【上京日記】不安を分かって、進んでいく

3/31 7日目

入社式を控えた最後の休日。学生最後の、と付けようと思ったが、卒業式の日に学生証は返してしまったし、もう学生ではなく、かといっていきなり社会人になったわけでもなく、思えばここ1週間くらいは不思議な期間だったと思う。

大学時代に所属していたサークルの同期と先輩方と会った。
串カツを食べて、上野恩寵公園の桜を見に行った。
串カツはすごくおいしくて、上野恩寵公園の桜はまだあまり咲いていなかった。それでも、今にも膨らんで開きそうな蕾がたくさんついた木の下はレジャーシートを敷いた人たちでいっぱいで、あまりの多さに圧倒された。既に満開になっている数本の木の下には外国人観光客たちがこぞって桜を指さし、写真撮影にいそしんでいた。

ここ2、3日、私は不安に駆られていた。
4月から始まる生活に対して漠然とした怯えがあり、何か手を動かして考えないようにしていないと参ってしまいそうになっていた。
それを認めたくない自分もいて、なんだかぐちゃっとしていた。

明日が入社式なのもあり、串カツ屋さんの席ではこれから始まる仕事のことを先輩から聞かれた。
すると、いろいろ話しているうちに、不安の中身が分かってきた。

不安① 仕事でうまくいかずに辞めることになったらどうしよう
不安② 同期との研修で肩身がせまい
不安③ 勤務する予定の部署でちゃんとできるのか

こうして書いてみると、あれ?こんなもんだっけ?と改めて拍子抜けしている。
この三大不安が完全に解消されたわけではないのだが、先輩たちと話していて、そんなに構えなくてもいいやんか、と心が軽くなった。サークルの先輩たちは地元が東京を中心とした関東方面の人が多く、東京での生活も社会人としての生活も私にとっては「心強い先輩」である。

「仕事でうまくいかずに辞めることになったらどうしよう」
1回辞めても次の会社は意外とすぐに行ける(と、転職を経験している3つ上の先輩が話してくれた)。同業他社から転職してくる人もたくさんいる(らしい。私が勤める会社と1つ上の先輩は業種が同じで、より親近感を感じる人だ)。これから過ごす環境がすべてではない、と思うことは、私自身が壊れないためのおまじないになってくれるかもしれない。

「同期との研修で肩身がせまい」
負けん気の強い同期に気圧されそうと感じることもあるけれど、仕事柄、ずっと一緒にいる同期はほとんどいない。だからこそ、仲良くしてくれる同期を大事にしていけばいい。遠慮はいるかもしれないけれど肩身のせまさまで感じることはない。

「勤務する予定の部署でちゃんとできるのか」
「最初からうまくいくっていう期待はされていないと思うから」という3つ上の先輩の言葉は少し厳しく感じたけれど、その表情は温かくて。ちゃんとできるかなあ、って不安は、最初からうまくやらなくちゃ、という変な前提があるから生まれると気付いた。


強烈な陽射しに顔を顰めながら、桜の写真をスマホに収めた。
1年後、この写真を懐かしむ日が、どうか来ますように。

父からLINEが届いた。
「無理と我慢は無用です」

父らしいアドバイスだと思った。定年退職まで同じ会社に勤め続けた人の言葉は、重さを宿している。

「えっ」
不忍池の周りを歩いていると、後ろで1つ上の先輩が声を上げた。
「上着落としちゃった……」
人混みを歩いていて、手に持っていたカーディガンをどこかに落としてしまったらしい。「駅戻るがてら、来た道そのまま戻ってみますか」と先輩と一緒にきょろきょろと見渡しながら歩いていく。

数分後、手すりに白い服が掛かっているのを見つけた。先輩が駆け寄っていく。
「あった!!」飛び跳ねて喜ぶ先輩。
「すごい、やっぱ日本人てやさしいんだね」と笑いながら感心している3つ上の先輩。
「なんか奇跡の瞬間に立ち会った気分」と興奮する私と同期と2つ上の先輩。

やさしい人たちはこの世界に、東京に、必ずいる。
東京はこわい場所だと思っていたけれど、必ずしもそうではないと信じたい。
だいじょうぶ。


明日からの生活は、中3のときから夢として描き続けた生活。

いよいよ。
これからの私を、中3の私に見せる日々をはじめるよ。

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