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雑記⑩「どんな顔をしたらいいのかが分からない」

「今度会う時、どんな顔をして会ったら良いか分からない」みたいな言い回しを小説でよく見かける。多くの人が想像するのは、爽やかな風に吹かれ汗がキラつくような出来事で外野が青春の1ページだと口を出してくるような状況だと思うが、俺が言いたいのはそんなものではない。

1.ボーリング

 ボーリングで球を投げた後、振り返るときにどんな顔をしたら良いのかが分からない。ガターを出したとき、どんなリアクションをしてどんな顔で後ろを向いたら良いのかが分からない。ストライクを出したときもそうで、どんなリアクションをしてどんな顔で後ろを向いたら良いのかが分からない。
 ガターを出したら、言い訳をした方がいいのだろうか。苦し紛れに「指痛ぇ〜」と言ってみればいいのでしょうか。「足スベった〜」と言ってみればいいのでしょうか。「くっそぉ…」って真剣に落ち込むのがいいのでしょうか。何も言わずに顔をしかめればいいでしょうか。舌でも出してやればいいのでしょうか。点数のモニターを眺めて納得いかない雰囲気を出したらいいんでしょうか。
 じゃあストライクを出した後はどうすればいい?「よっしゃー」って言えばいいんでしょうか。「なんかうまくいったわ」って謙遜でもしてみればいいんでしょうか。ガッツポーズでもすればいいですか?ハイタッチを求めればいいですか?

2.ボードゲーム

 僕はボードゲームが苦手です。理由はどうやってテンションを上げていいのかがわからないからです。
 高校生の時、友人が「はぁっていうゲーム」を持ってきてみんなでやろうぜ〜となったと気がありました。僕は教室からどうにか理由をつけて逃げたかった。わずか数十秒であろうが俺に視線が集中するのが怖くて、そこで自分が何かアクションを起こさないといけないのが怖かった。
 もし自分が罰ゲームで語尾に”ヤンス”をつけることになったらどんな顔をしたらいいのだろうか。もし自分が人狼で初手で殺されたら、どんなリアクションをして席を立てばいいのだろうか。どんな顔をして「怒りの”はぁ”」を言ったら良いのかが分からない。「怒りの”はぁ”となんで?の”はぁ”だけもう一回やって」と言われたときに、どんな顔をしてやったら良いのかが分からない。

3.カラオケ

 カラオケで自分が歌わないといけないことになったとき、どんな顔をして前奏を聴いて待てば良いのかが分からない。マイクを持って立っていればいいんでしょうか。歌い始める直前まで座っていればいいんでしょうか。マイクに向かって「あー、あー、あー」とか言って気取ってみればいいんでしょうか。咳払いでもして歌うまでの助走してる感を演出してみたらいいですか?
 部屋のでかいモニターにフェードインしてくるこれから歌う曲のタイトルをどんな顔して見ていればいいんでしょうか。採点結果をなるべく見られ内容一生懸命飛ばそうとするとき、どんな顔をしていればいいんでしょうか。画面に表示されている音程が真っ赤に染め上がっている様子にどんなリアクションをしたらいいのでしょうか。






 なんでこんなことも自分はできないのか。
 そんなことは20年も生きていれば流石に分かっています。根源にあるのは「恥ずかしいから」です。
 今みたいに「ボーリング下手だな、と思われたくない」「ノリ悪いな、と思われたくない」「歌下手だな、と思われたくない」というような自意識が芽生えるずっと前から、この類は苦手でした。幼稚園生の時に幼馴染家族とカラオケに行った時も、小学校低学年の時に親戚らとボーリングに行った時も、中学で部活を引退する時に大勢でやった人狼の時も、ずーーっとそうでした。「恥ずかしい・人前に出たくない・視線が集まるのが怖い」だったものが、「ダサいと思はわれたくない」「こいつ歌下手だな〜と思われたくない」「真面目で冗談の通じない奴だとは思われたくない」といった明確な自意識に変わっているのに気がついたのは高校生の時でした。過剰な自意識が芽生える前から既に無邪気にはしゃげなかった。ここ数年でさらに拗らせただけで、性根は元からこうだったんです。

 矯正するには、もう遅すぎたんですよ。


#279  雑記⑩「どんな顔をしたらいいのかが分からない」

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