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ネギが大好き

俺の妹は好き嫌いが多い、という印象が付けられている。

言い回しがややこしくなっているが、「好き嫌いが多い、という印象が付けられている」。

僕がまだ実家にいた頃のとある日の晩御飯がオムレツだった。
妹的にオムレツの気分ではなかったのだろう。
「私、オムレツ嫌い。」というなかなかの攻撃力を持つ言葉を吐き出した。
言うにしてもせめて「あんまり好きじゃない」くらいで抑えてほしい。
それに対して母親は「前、オムレツ好きって言ってなかったっけ?」と、幾許かの苛立ちを感じさせる。
そこへさらに「私が好きなのオムライスだから」と言葉を重ねる妹。

母親の怒りが爆発することはおろか、怒りのメーターが上がることすらめんどくさい。
だから僕は、実年齢-5歳くらいの声色で「いただきま〜す」と言ってみたりする。
「おかわりとかあったりすんの?」とか、「味噌汁残ってる?」とか、「うまっ」とか言ってみたりもする。



時間を巻き戻す。
「私、オムレツ嫌い。」
「前、オムレツ好きって言ってなかったっけ?」
「私が好きなのオムライスだから」

妹は大嘘小嘘をブチこいている。
いつだかの晩御飯にオムライスが出たときに妹が「私オムレツの方が好き」とのたまったのを、俺は明確に覚えている。
その時も、隣に座っていてヒヤヒヤしていたからである。

とある日は「すき焼きが嫌い」と宣った。
とある日は「ポン酢が嫌い」と宣った。(※ごまだれ持ってこい、の意)
とある日は「ゴマだれが嫌い」と宣った。(※ポン酢持ってこい、の意)
とある日は「醤油ラーメンが嫌い」と宣った。
とある日は「カルボナーラが嫌い」と宣った。(※ミートスパが食べたかった、の意)
とある日は「ミートスパゲティが嫌い」と宣った。(※カルボナーラが食べたかった、の意)
とある日は「うどんが嫌い」と宣った。
とある日は「ネギが嫌い」と宣った。
とある日は「しいたけが嫌い」と宣った。
とある日は「ニラが嫌い」と宣った。

妹が宣ふ「嫌い」には2パターンある。
一つ目は純粋な「食べられない(※食わず嫌いを含む)」の意味。
二つ目は「今はその気分じゃない」の意味。
そもそも前者がわんさかあるのに、後者を連発してくるから厄介なのだ。

そもそも、すき焼きが嫌いな人はそうそう見かけない。
「鍋が嫌い」では事足りず、具をダイブさせるタレに文句を言い出す始末。
サービスエリアで飯を食う時、妹が醤油ラーメン以外のラーメンを好き好んで食べているところを見た記憶はない。
いつの日からか、昼ごはんに大皿でスパゲティが出されるときはカルボナーラとミートスパゲッティの2種類が出るようになったが、その原因はおそらく妹だろうと思う。
妹が夏休みのお昼ご飯に週5でうどんを食っていたのを俺は鮮明に記憶している。揚げ玉の減りが異常だった。それと、母親がせっかく入れてくれたワカメを全部残していたのも覚えている。ふやけきった揚げ玉が汁に浮かんでいたのも覚えている。妹はごちそうさまも言わずに自室へ戻ってしまい、残されたわかめと揚げ玉をレンゲですくって食べる母親を見るのがなんか胸が痛くて、わかめとふやけた揚げ玉を俺が食べるようにした。
ネギ・ニラ・しいたけに関してはシンプルofシンプルな食わず嫌いだ。実家の近所に一軒焼肉屋があり、昔から何かあるたびによく行っている。そこのメニューにある「たまごスープ」にネギ・ニラ・しいたけが入っている。幼稚園生の頃は僕も卵だけサルベージしてスープを啜り、他の具材は親に渡していた。僕が小学校高学年に差し掛かるあたりで、僕と妹それぞれで一杯ずつ卵スープを頼むようになり、それと共に僕はネギ・ニラ・しいたけをてめぇで処理できるようになった。妹が俺のスープにネギ・ニラ・しいたけをジャンジャン移し替えていく。「ネギ・ニラ・しいたけ、めちゃくちゃうまいのに馬鹿だなぁ」なんて思っていた。僕が一人暮らしを始め、たまに帰省すると一回は確実にその焼肉屋さんに行く。そこで毎回初見のようにびっくりするが、妹はまだネギ・ニラ・しいたけを食べられない。今では二人でスープ一杯が限界だが、気を抜くとスープからどんどん卵がなくなっていく。それと、なぜか妹が全然スープを啜らせてくれない。器を二人の中間に置いてくれればいいものを、反対側に置きやがるのだ。ただ、俺も小学生じゃないので「スープお前ばっかりずるい!!」とは言いもしない。妹が卵をサルベージし終わり、俺に器をよこしてくる。若干冷めた(卵)スープにネギ・ニラ・しいたけなどが浮かんでいる。器の底にギャンギャンに胡椒が沈んでいるのも見える。せめて熱々でスープを飲みたい。ただ、ネギ・ニラ・しいたけが美味しいのでプラマイで言うとぎりぎりプラスだ。

妹の好き嫌いが多く、それを残されたままにすると親の機嫌が損なわれる可能性がある。
だから俺が実家にいた頃はしれっと食べて片付けるようにしていた。
今はどうしているんだろう、とたまに心配になる。



割と最近公開された『東海オンエアの控え室』(YouTube)の動画内で、虫眼鏡さんが「恥ずかしいから言ってなかったけどネギがめちゃくちゃ好き(※意訳)」と言っていて頷きが止まりませんでした。
牛丼屋でテイクアウトをするとき、毎回「ネギ入り牛丼」にするかで10秒ほど迷って「ネギのトッピングに100円かぁ」と思いとどまりオーソドックスなものを注文してしまう。
先日、友人と牛丼屋さんに行った時、友人がいるのも相まって財布の紐が緩み「ネギ入り牛丼」を注文した。
それに友人も乗っかってきて、二人でネギ入り牛丼を食べた。
紅生姜を乗せる俺と、七味をかける友人。
最初は牛丼として食べ、ネギをかけて食べ、そして最後に卵をかけて食べたのだが、ネギを食った時に全身に稲妻が走りました。
ネギ入りの牛丼うますぎやしないか、と。
それと同時に、自分がネギ大好き人間であることに気がつきました。
そういえばと思い返すと、丸亀製麺に行った時は薬味のネギを「薬味の範疇を超えた量」器によそっている。そしてそれをちゃんと全部食べた上で「もうちょっと取ってもよかったな」と若干の後悔をするくらいだ。

俺は、ネギが大好きだ。
東海オンエアの虫さんの気持ちがすごくわかる。
俺は、ネギがめちゃくちゃ好きだ。
ネギガナイト(ポケモン)、ですよ。


俺の妹は、火が通ってしなしなになったあの完全体になったネギのことも嫌いと言ってのけるくらいだ。
輪切りにされこんもりと鮮やかな緑色を輝かせるネギに、微塵もテンションが上がらないのだろう。

まったく、残念な奴め。
お前は菅田将暉に「メシ雑魚」呼ばわりされるだろうな。


#282  ネギが大好き

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