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【The Evangelist of Contemporary Art】グローバル・アート・リサーチ — コロナ禍後を見通すためにアートマーケットの直近の歴史(2007年~2017年)を押さえておこう(中編)

(ブログ前編より続く)

 現在はベルリンにあるギャラリーPeres Projects(24、25)は、ゲイの偽悪的なサドマゾ的表現でブースを埋めた。ニューヨーク随一の前衛ギャラリーReena Spaulings(26、27)は、コレクターを罵倒する落書き作品を飾った。これらは、現在のフェアではまったく見られないアナーキーな要素である。さらに、アプロプリエーションのプロトタイプ(レディメイド)のインスタレーションがある。ロンドンのカッティングエッジなリーディング・ギャラリーHerald Stは、現代版レディメイドのバーバーショップ(28)を出店し、上海発で世界的ギャラリーに成長したShanghArt(29、30)は、中国のコンビニをギャラリーのブースに仕立て、資本主義的アートにおける中国パワーを顕示した。

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Peres Projects(24)

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Peres Projects(25)

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Reena Spaulings(26)

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Reena Spaulings(27)

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バーバーショップ(28)

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ShanghArt(29)

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ShanghArt(30)

 この2007年のArt Basel Miami Beachと、次に取り上げる2017年のFrieze Art Fairの間に、アートの世界に断絶を引き起こす経済的破綻が出来した。2008年のリーマンショックである。バブルが弾けて、現代アートのマーケットに深甚なダメージを与えたのだ。だが、現代アートでこのショックの影響はそれほど長引くことはなかった。すでに5年後の2010年代前半に、マーケットはバブル崩壊のショックから完全に回復したのである。その売り上げは2008年以前を凌駕するまでになり、新型コロナ危機の直前まで続いたのである。

 だからといって、崩壊前のあの有頂天な気分が蘇ったわけではない。Frieze Art Fair(31~49、画像はTokyoLive&Exhibitsサイトで!→ https://tokyo-live-exhibits.com/blog026/ )を参照すれば一目瞭然だが、10年前に見られた表現の荒々しさ(粗っぽさ)は消え去り、ある種の洗練が感じられる。現代アートはリーマンショック以降、より慎重に活動を展開するようになり、戦略を切り替え(コレクターに反逆したり揶揄したりすることは論外)、顧客の趣向に合わせて作品を提供することに傾注したのである。(次回後編に続く)

(文・写真:市原研太郎)


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