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【富士山お中道を歩いて自然観察】10 半島状植生

(この記事は、観察マップ地点10 についての解説です)
遊歩道は森林に入ったり火山荒原に出たりを繰り返します。なぜ森林を出たり入ったりするのでしょうか? 今回はちょっと複雑な内容です。植生を「時間軸」と「空間軸」で考えるとイメージしやすいかもしれません。

多くの人が富士山を絵に描くとき、中腹にギザギザを描かないだろうか。このギザギザ、実は正確に富士山の植生を表している。

なぜかギザギザを描いてしまう

ギザギザの上へ出っ張ったところは半島状植生といわれ、溶岩上で地面が安定しているため遷移が進み、高い標高まで森林が成立している。

下へ引っ込んだところはスコリアが堆積した不安定な地面で、頻繁に雪崩によって破壊される(雪崩植生)。このためイタドリやオンタデのような限られた草本植物がまばらに生育しているだけの火山荒原で、遷移の進行は大変遅い。

半島状植生(写真奥)では斜面上まで森林が成立している。雪崩植生(写真手前)ではイタドリが点在する火山荒原のまま

地点10〜15あたりまでは、ちょうど半島状植生のギザギザを横切って進むので、森林(半島状植生の内)や火山荒原(半島状植生の外)を出入りするのだ。

半島状植生の内側に入るにつれ、生えている植物が変わっていくのに気づくだろうか。

富士山の植生構造のイメージ

半島状の一番外側にはパイオニア植物のミヤマハンノキ低木群落、その内側にダケカンバ、カラマツが、そして中心部には古いカラマツ林の中に若いシラビソが育っている。

パイオニア植物、先駆種
遷移の過程で、初期のまだ植生が十分に発達していない段階で定着・成長できる植物種のこと。一般に、明るい場所を好み、乾燥や栄養不足に強い。富士山のように雪崩が頻発して地盤が不安定な場所では、傷害を受けても地下茎や萌芽で再生できる植物がパイオニア植物となることが多い。

このように半島状植生の外側から内側へ、富士山の遷移と同じように樹木が配列している(富士山の遷移については「はじめに」の記事を参照)。

時間軸で考えると・・・

これを時間軸にしたがって推定してみる(下図の半島状植生の成り立ちイメージとともに見てみよう)。

  1. 噴火後の斜面には植物は定着していない

  2. 標高の低いところ(比較的地盤が安定した場所)ではパイオニア植物のイタドリやミヤマハンノキなどが定着を始める

  3. パイオニア植物は次第に標高の高い場所へ登っていく。斜面下部ではカラマツ林ができる

  4. パイオニア植物、カラマツ林はそれぞれさらに上昇。斜面下部では極相種のシラビソが定着を始め、やがてはシラビソ林へと遷移する

半島状植生の成り立ちのイメージ

半島状植生のふち

半島状植生の側面は、常に雪崩などの際に損傷を受けやすいので、幹が折れても萌芽ぼうがによって再生する能力が高いミヤマハンノキに縁どられている(ミヤマハンノキの萌芽については以下の記事を参照)。

萌芽ぼうが
広葉樹を伐採した後、切り株にあった休眠芽が成長を開始し、やがては新たな幹を形成することが多い。この枝を萌芽ぼうがという。ブナ科やハンノキなどでよくみられる。

半島状植生の縁に生えるミヤマハンノキ

ミヤマハンノキは、自身が雪崩などを受けることで、その内側に生育しているダケカンバやカラマツを守っている。この、他の植物を保護して成長を助けるという役割を思い出して欲しい(地点9 ナース植物 を参照)。ミヤマハンノキが広い意味で「植生のナース植物」として機能していると言えるのではないだろうか。

富士山のギザギザの正体は半島状植生でした。
半島状植生を横切ることで遷移という時間的変化を体感できるのですね。火山荒原から半島状植生の林に入る時には植生の変化を意識して観察してみてください。
次回(地点11)は、植生に大きな影響を与える雪崩についてのお話です。

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