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第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 14「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」

AWARDS PROFILE Vol. 14

ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ

RT: 96%
MC: 82
IMDb: 8.1

 時は1970年、クリスマス休暇で私立学校の生徒たちは家族のもとへ帰っていった。家族との予定のない生徒は、学校に残って暇を潰している。彼らを監視するために嫌われ者の教師ポールも学校に残るはめに。そこに優秀だが素行に問題のある生徒アンガスと、息子をベトナム戦争で亡くしたばかりの食堂の料理長メアリーも加わり、性別も年齢も、立場も違う三人が休暇を通して友情を育む…。

 今作は、「サイドウェイ」や「ファミリー・ツリー」など哀愁漂う大人の悲しみを、ユーモアをこめて描くのに長けたアレクサンダー・ペインが監督を務める。監督が1930年代のフランス映画を観た際に思いついた作品のコンセプトを、デヴィッド・ヘミングソンが脚本化した。主演は、ペインとは「サイドウェイ」で絶妙なケミストリーを魅せたポール・ジアマッティ。捻くれた中年教師の哀愁を見事に捉えている。新星ドミニク・セッサは悲しみを抱える生徒アンガスを演じる。この二人と孤独のトライアングルを作る、料理長メアリーを演じるのはダヴァイン・ジョイ・ランドルフ。テルライド映画祭でお披露目されると、温かい作品だけに温かい反応が返ってきている。ペイン監督ならではの考え抜かれた、愛らしく魅力的な人間ドラマとの評価。人種や階級、喪失、怒り、機会、権利、と描かれるテーマは重層的で味わい深い。このような映画がよく作られていた時代の空気感を閉じ込めて、そのままタイムスリップしてきたような映画とのこと。必ずしもストーリーは目新しくないが、キャラクターのそれぞれが興味深く、ストーリーが進むごとに新たな一面を見せてくれる。彼らの交流が、大きい小さいに関わらず、笑いと感動を生み出している。ジアマッティはまるで素のように中年教師の孤独を魅せて、セッサは新人ながら印象深く、ランドルフは喪失を抱えながらも癒しを放出する。キャラクター三人に愛着を覚えると共に、境遇の違う三人全員に共感を覚えること間違いない。大雪の降りしきる中で学校に缶詰めになるという古風な方法で、人生はやっかいなモノという真実を確実に描きながらも、そこに溺れることはない。原題の"The Holdovers"は残留者の意味。学校に、人生に、取り残された者たちによる未来への希望を紡ぐ物語が誕生した。6月21日に公開予定。

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