見出し画像

【超短編小説】 コインランドリーデート

「レベル、どれだけ上がった?」
「1ミリも上がってない」

2人してそれぞれのスマホを見つめ、画面を連打する。
彼に教えてもらってはまったアプリゲーム。到底、彼には追い付けない。
背中では乾燥機に放りこんだ衣類が、スマホの音をかきけしながらグルグルと回っていた。
コインランドリーには、私たち2人しかいない。近隣の人たち行きつけのコインランドリーで、久しぶりのデート気分だ。

「今どこ?」
「ここ」

スマホの画面を傾けて答える。彼はああと頷いて、すぐに自分のスマホに視線を戻した。
見覚えがあるのは当たり前で、さらに言えば、彼がこのステージをクリアしたのは半年以上は前のはずだ。

「そのキャラだと勝つの難しいと思うけど」
「え?どのキャラならいいの?」
「こいつ」

戦闘途中にも関わらず、画面を傾けて教えてくれたのは、絶対手元にいた方が良いと言われた、おおよそかっこよくも可愛くもないキャラだった。彼にそう言われなければ、すぐに何かしらに交換してしまっていただろう。とはいえ、彼に言われるままにレベル上げはしていた。なのでまた言われるがまま、フィールドに召喚する。どの攻撃が効くという助言も生かして、戦闘を進めた。今までミクロも削れてなかった敵のHPが、あれよあれよと削られていく。

「あ、勝てた」
「おめでとう」

目も合わせずにハイタッチする。それだけで嬉しさが倍増して、隣にいてくれるのが彼で良かったと思う。
背中の振動が大人しくなって、ゲームの音がコインランドリー内に広がった。

「あ、終わったよ」
「ちょっと待って。もうすぐで勝てそうだから」
「オーケー。先に出してるね」

乾燥機を開ける仕草をすると、扉の前に座っていた彼は1人分横にずれてくれた。もちろん、視線はスマホの画面に釘付けだ。その真剣な姿があまりにも可愛くて、微笑ましくて、体が軽くなった。
なんてことはない、些細なこと。
場所じゃない。服装でも、化粧でもない。2人で笑い合えればそれでいい。いつもが、楽しくなればそれでいい。
洗濯物をカゴに入れながら、笑みがこぼれる。
けどたまには、ディズニーランドとかも行きたいよ?

愛なんて vol.13


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?